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九十四話・死と復活



 厳寒の装いも新たに、八十万の半分四十万がアルプスを越え、次いで、残りの四十万が後を取る。


 アルプスの頂を越えると、寒冷区から麓に至る温帯部はインディラスタン領バール自治国で、謎の宇宙起源と言われるメガロンパ族が取り仕切っていた。


 「謎の宇宙起源って?」

 「遥か遥か昔、正体不明の宇宙船が不時着したらしいんやが、救助されないままに忘れ去られてしまった忘却の民と言われとる。残されているのは、意味の解らない言語で満たされた無数の石の音盤だけや」


 「石の音盤?」

 「大理石で出来ているが、イヤサカの超電子器機をもってしても解読が困難らしい」

 「人口はどの位ですか?」

 「全町村を合わせて十万そこそこ。民族の混雑が無い純粋種らしい」

 「通過の根回しはしてあるんですか?」

 「鼻薬たっぷりで話はついとるが、何か……?」牧野は怪訝そうに一平を見た。


 一平は肩を竦めた。

 「ちっとばかし、引っ掛かるんです」




 寒冷区を越えて温帯部にかかるポマ山麓がインディラスタン最初の宿泊地となり、そこで、空中運輸された山越え不可の重量物(車両等)を受け取る。


 メガロンパ総出でトーラの旗を振って出迎え、その族長たちが挨拶に現れた。

 頭の大きい五頭身ぐらいの小柄な人たちだ。


 一平は彼等の意識の底にある脳波が、一様にフラットなのに違和感を覚えた。

 「ダングンジュが利かない。何だろう?読みにくいと言うか、意志が感じられない」


 キサンが一平の不審を一笑に付した。

 「元々が謎の宇宙人で、正体不明だからな」


 ボッチョ・マコが辟易したように「彼等メガロンパの好奇心の強さは半端じゃないよ。先ほどから質問の嵐だ」と、首を振った。


 リリトと手を携えて現れたムンボポも、質問の標的となる。


 メガロンパの質問から漸く解放されてほっとしているムンボポに、一平は彼等が何を尋ねていたのかを聞いた。


 「それが、何もかもと言うか、女王との関係とか、体の大きい理由とか、やっている格闘技の種類と内容が何ちゃら、ムセイオンの様子、巡礼の意図、それから、巡礼の幹部たちが一同に会する大幕者舎の場所や時間を尋ねたり……」

 「幹部たちの集まる時間と場所だって?」

 「ダルマラーマやヒカリイトが参加する云々まで」


 メガロンパが立ち去った後、湧き上がる不安と胸が痞えたような不可解で腑に落ちない理由を考えている。

 晩餐の時が迫り、大幕舎に向って小道を歩む時も、答えの出そうで出ない理由に気もそぞろだった。


 「一平さん!」

 ヒロコの声に一平は我に返った。

 「ゴメン、考え事をしていた」

 「考え事?一平さん、今夜のパーティ忘れないでよ」


 「え!パーティって?」

 一平は話が見えてない。


 「全くう!二人だけのスペシャルパーティでしょ。素敵なニュースがあるんだから」

 ヒロコは秘密っぽく微笑んだ。



 指導者たちの集会場になる大幕舎を見た途端、一平は三日前の夢の記憶が突如として蘇り、立ち止まった。

 (ヤバ!メガロンパの大顔は、夢に現れた人面狩猟犬だ!)

 恐ろしい確信にぞっとして総毛がそそり立った。


 一平は大幕舎に全速力で駆ける。

 着くや否や、「外に出ろ!皆外に出るんだ!此処は危ない!」と、大音声を振り絞った。


 「何事ですか?」

 吃驚したように会場責任のムンボポが問う。


 一平は血相を変えて怒鳴った。

 「此処がテロの標的になる!」


 一平の剣幕にムンボポは即座に反応し、来場者に叫んだ。

 「此処はテロのターゲットになってます!直ぐに、外に出て!」

 会場内には、まだ半分も入場していなかったが、一斉に慌てふためいて外に出る。


 ムンボポが最後の数人を追い出すや、大幕舎は凄まじい閃光と耳を劈く轟音に消失した。

 「光子弾!」


 免れたリリトが絶叫した。

 「ムンボポ!ムンボポがテントと一緒に消えちゃったよう!」


 一平は攻撃の拠点の丘に在る古城を指差し、臨戦態勢を発した。

 「防御シールドを張れ!」


 茜色の夕暮れに降り注ぐミサイルと砲弾の嵐!

 電磁シールドでカバーし切れなかった善男善女が血の海にのた打った。


 「温和なメガロンパが!」

 「魂がジャックされているの!敵は背後で操る連中よ!」リリトが怒鳴った。



 夕闇迫る中、チャガタイ、キハン、ヤンゴルモアを戦い抜いた歴戦の兵士達は嘗ての司令官である一平と軍団長マギャポ将軍の下に駆けつけた。


 マギャポが命じた。

 「火筒射ミサイルで丘ごとぶっ飛ばせ!」


 しかし、強固なシールドで無傷のまま、丘上からの攻撃は間断無く降り注ぐ。

 「クソッタレ!防御シールドが強力で歯が立たない!」


 メガロンパの迎撃体制は整っており、丘は前方にのみ開き、左右は険阻な隘路になって、トーラは攻めの展開ができない。


 メガロンパは地の利を占めており、無理押しすれば、被害は甚大となろう。

 (だからと言って手を拱いていれば、我々は済し崩しに壊滅する)


 マギャポが申し出た。

 「車で東側面の隘路を伝って背面に回りこみ、シールドを破壊するしかない。高速軽装甲車二台で、私とヌラヒョン将軍が夫々四人づつ分乗して背後に回り込む!」


 一平は首を横に振った。

 「装甲車とは名ばかりで当たれば一たまりもないし、道は丸見えで無事に抜けれるとは思えない!それと、マギャポ将軍とキハンの長であるヌラヒョン将軍が直々行かなくても」


 「他に志願者を募る時間は無い!これは臨機応変な戦況判断が必要であり、余人には任せられない」

 マギャポとヌラヒョンの決意は固い。


 「暗がりの狭く曲りくねった崖道をハイスピードで通り抜けなくちゃならないんですよ」

 「血湧き肉躍るダブル爺のカーチェイスをお見せしよう!」


 マギャポを一平は抱擁ハグした。

 「敬する兄よ、御無事を!」


 一平は命じた。

 「丘を包むように煙幕を張り巡らせ、総力を挙げて二台を援護せよ!集中して、西側から弾丸とミサイルを打ち込め!空軍全機出動せよ!」


 ヤン人魔術師のジャムン・ハーが「奴らは魔術でコントロールされている。魔術には魔術、操り人形共に恐怖の何たるかを教えてやりましょう!」と、進み出た。


 ジャムン・ハーは助手を手伝わせ、手早く六亡星の結界にアメジストに彩られた器具を配置して中央に立ち、杖をタクトのごとく振って、甲高い声を発した。

「魔虫よ!丘に篭る操り肉人形を貪食せよ!」


 すると、見渡す限りの野山は湧き出るように地中から這い出た肉食ゴキブリに覆われ、飢えた虫は蠢く絨毯となり、メガロンパの丘に向かって突き進む。


 メガロンパは丘の周りに焼夷ガスと油を放射し押し寄せる悪魔の絨毯を焼き尽くそうと試みた。

 しかし、魔虫はものともせずカチカチと歯噛みの不気味な騒音を上げながら、息つく間もなく丘をよじ登る。


 砦が恐怖と戦慄に覆われる時、丘の周りを囲むがごとく黒雲が湧き上がった。

 黒雲の一点一点は黒いツグミとなり丘に這い上がる肉虫を一斉に啄ばみ始める。


 「奴らにも、魔法使いが居るんだわ!」

 リリトが舌打ちした。


 魔虫が忽ちにツグミに食べつくされた時、ジャムンハーは再び杖を振った。

 「暗黒のドラゴン!」


 十数頭の巨大なドラゴンが地を割って飛び出し、漆黒の翼を羽ばたかせて大空に咆哮する。

 メガロンパが迎え撃つ雨霰の弾丸は空しく、その胆を拉ぐ戦慄の炎を止めることはできない。



 如かして、空陸軍とイリュージョニストの陽動が功を奏し、ヌラヒョンの車は被弾し爆発するも、マギャポの車は防衛線の背後を取った。


 弾幕を縫って、遂にマギャポ等はシャマト(携帯ミサイル)の全弾を背後の高台から防御シールドの隙に打ち込んだ。


 防御シールドの崩壊に崩れ立つメガロンパへ、一平は反転攻勢を命じた。


 結界の洞穴に避難していたキサンから連絡が入った。

 「メガロンパを操る脳波を辿り、光の家のメンバーを特定できたので、関係する順、片っ端からぶっ殺している。後、二時間も有れば組織を根こそぎズタズタにできる」



 夕日の空からトーラ、チャガタイの支援航空隊、南からインディラスタンの戦闘ヘリコプターが現れ、メガロンパの基地を虱潰しに空爆している。

 趨勢は明らかとなった。


 その時、望遠監視兵から「司令官、マギャポ将軍らしきが炎上する車から離れて倒れています!」と、報告があった。


 「ヌラヒョン将軍は?」

 「他は、破壊されて跡形もありません!」

  

 一平は映像の明視と拡大を命じる。


 「矢張り、マギャポ将軍です。生命反応が弱い」


 「車を回せ、救助に行く!」

 一平の眦は上がっている。


 「待て!もう少しで奴等は完全崩壊する。今、ライトを点けて走るのは格好の標的や!」

 「僕は神に不死身を約束されている!」

 一平は指を立てた。



 ライトを点け、フルスピードで暗がりの隘路を駆け抜ける。


 狙撃砲弾がジグザグ走行を掠めるが、奇跡的に被弾せず炎上する車に辿り着く。

 一平は瀕死のマギャポを担ぎ上げ、車に引き摺り入れてUターンした。


 防御シールドまであと百メートル、最後の最後に一平の装甲車は狙撃砲弾に被弾し爆発炎上するが、辛うじてマギャポを抱えた一平は転がり出ていた。



 しかし、英雄的活躍に歓声が上がるも束の間。メガロンパによる乾坤一擲の誘導ミサイルが至近に着弾して二人を吹き飛ばした!。


 マギャポは胴体と頭部がバラバラに粉砕されて止めを刺され、一平は左腕と右足が太腿から大きく千切れ飛んで血の海にもがいている。


 断末魔に、一平の瞳はヒロコを探していた。


 血塗れに抱くヒロコは「駄目え!お願いだから置いて行かないで!ボクには一平さんの子が宿っているの!」と、狂ったように泣き叫んだ。

 一瞬、一平は目を大きく見開いたが、やがて血潮の中に眠るように目を閉じた。


 その時、人々は空全体を覆うかに巨大六角盤状の浮き磐がぼんやりと映し出され、次第にくっきりと浮かび上がって来るのを見た。


 径数キロを越える、想像を絶する天空のピラミッド。


 荘厳極まりない天上のゴスペルが全てを包み込み、地にある野も山も川も夕闇にあるが如く暗く、底部にゆったりと回転する五つの巨大球体は七色に光を放っている。


 巡礼者も、防衛軍も、操られしメガロンパも、空を見上げていた。


 大いなる声が響き渡る。

 「光が闇から生じる如く命は死から生ずる。ゴンガ・ミロク・イッペイは栄光の中に再臨する!」


 一平とマギャポの遺体は眩い輝きに包まれ、ペンタグラム底部中央の開口部に吸い込まれて行った。



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