九十一話・転生
パイランバートルに留まること半月、巡礼一行は北部同盟からの参加で二十五万を超えている。
出立を数日後に控え、マチンカが興奮の態で一平とヒロコのテントを訪れた。
「カイラス万年氷のクレバスで、ダルマラーマ・ラモンの聖体が発見されました!それが何と言ったら良いのか、イッペイ師その者なんです!」
「私に?」
「一見に如かず、ご案内致します」
飛行船に乗ること一時間弱、一平とヒロコは聖カイラスの氷洞窟に案内された。
ライトに照らされ、生きるが如く、透明の氷壁中に伝説のラモンが居た。
蹲るサーベル・タイガーの遺骸を傍らに、一平と瓜二つの似姿で氷石に腰掛け、双眸は永遠の彼方を見据えている。
一平は茫然自失、言葉を失った。
同一の魂を共有した肉体が、時空を超えて相対している。
(ダールラハアマ・ムング、ダールラハアマ・ムング)
湧き上がるマントラと共に一平の意識は氷中のラモンと合体し、その記憶が蘇って来た。
其の時、氷の中のラモンがゆらりと立ち上がり氷壁を抜けて一平を抱擁する幻想に、ヒロコとマチンカは息を飲んだ。
… … … …
帰りの飛行船、唐突にマチンカが「羅門さま、私を憶えていません?」と、尋ねた。
「ラモンさまって……?」
大きな黒い瞳で、マチンカが見つめている。
突然、失われた記憶が奔流のように流れ込んで来た。
「瞳の中に……、貴女はネッキンだ!愛しのネッキン!」
「お会いした瞬間、想いが蘇ったの。……切なる願いで、お情けを頂いた夜を昨日のように憶えているわ」
一平は顔を赤らめた。
「ボロボロの身重のシャラと貴女を救い出し、トーラにお連れした……」
マチンカは首を振った。「ネッキンはラモンの重荷にならないように、カイラス山麓の山村で女の子を出産し、産後の肥立ちが悪く二年後に死んだの」
「ミナカムイから戻ったら、貴女は居なかった。カイラス山の麓で暮らしていると言う噂に幾度となく赴いたのですが……」
マチンカの目に涙が溢れた。
「カイラスで生まれたネッキンの娘ヨーナは私の亡き母になるの」
「それは…?」
「それと縁があって、身重だったシャラとエンキの子供が私の父・ジュチになるんです」
「驚いた話。貴女はネッキン、ラモン、そしてシャラ、エンキの血を受け継ぎ、その上、ネッキンの魂を持っている。お父さま(ジュチ)は御健在ですの?」
ヒロコは興味津々だ。
「ヤンゴルモア中央国との戦いで戦死しました」
三人は織り成す縁に、長年の知己のごとく心の垣根を払って語り合った。
「ムセイオンには魂の仲間が集っているわ。そして、貴女には来るべき新時代のために共になすべき使命があるはずよ」
ヒロコはマチンカをムセイオン図書館大学院に入るよう誘うのだった。




