【第二話】 「煮込みと鉄馬、春の帰路。」
朝6時。森に差し込む柔らかな光で目が覚める。
昨夜は早めに寝たこともあって、すっきりとした目覚めだった。
耳を澄ませば、鳥のさえずりと、遠くで流れる沢の音。
静かだ。実に静かだ。
寝ぼけ眼でゆっくりとコーヒーを淹れる。
ドリッパーに挽きたての豆をセットし、ポットでお湯を注ぐ。
香ばしい香りが朝の空気に溶けていく。
──これこれ。
この一杯のためにキャンプをしている、と言っても過言じゃない。
テーブルには、昨日田園プラザ川場で買ったカンパーニュを軽く炙り、少しのバターを落とす。
シンプルな朝食だが、自然の中で食べるパンは格別だった。
食後、のんびりと撤収開始。
キャンプ道具をバイクに積み終えた頃には、すっかり陽も昇っていた。
お隣のソロキャンおじさんが手を振ってきた。
「また、どこかのキャンプ場でな」
「ええ、また」
ソロキャン同士、言葉は少なくても通じるものがある。
■
帰路は赤城山をぐるりと回り、沼田から国道17号線へ。
ハンターカブは相変わらず気ままにトコトコ走る。
速度は出ないが、焦らず、のんびり。
それが、この小さな鉄馬の美学だ。
途中、小さな直売所を見かけて立ち寄る。
そこでは、農家のおばちゃんたちが地元野菜を売っていた。
「どこから来たの?」
と聞かれ、
「伊勢崎から、川場までキャンプでした」
と答えると、
「まぁ、よくこんなちっこいバイクで」
と笑われる。
ついでにキュウリを一本もらった。
「塩つけて食べな。今朝採ったばっかりだで」
素直にありがたく頂戴する。
こういう出会いが、ハンターカブ旅の醍醐味だ。
■
お昼は渋川の永井食堂のモツ煮定食と決めていた。
全国のライダーとトラック乗りには有名な店だ。
混む前に、と早めに到着したものの、すでに行列。
待つ間、並んでいた別のライダーに話しかけられる。
彼は前橋から来たらしい。
「そのカブ、渋いっすね」
「気楽でいいですよ」
自然とバイク談義が始まる。
彼はCRF250、こちらはハンターカブ。
排気量こそ違えど、ソロツーリングの感覚は似たようなもの。
「今日、どこ行くんです?」
「これ食ったら、もう家帰ります」
「それが正解っすね」
やがて順番が回ってくる。
カウンターに腰掛け、迷わず「モツ煮定食」を注文。
出てきた皿は、たっぷりのモツとこんにゃく、そして白飯。
味噌とニンニクの香りが食欲を刺激する。
一口頬張ると……安定の旨さ。
柔らかく煮込まれたモツはクセがなく、濃厚な味噌ダレがご飯を進ませる。
白飯が消える速度に自分で驚く。
味噌汁もシンプルだが、落ち着く味。
全てが、変わらない「田舎の正解」だ。
「……満足」
最後にコップの水を飲み干し、席を立つ。
レジのおばちゃんが笑顔で「また来てね」と言ってくれた。
たぶん、また来る。
何度でも、来たくなる味だから。
■
帰り道は、高速に乗らず下道オンリー。
赤城山の裾をかすめ、前橋を抜け、伊勢崎へと戻る。
途中、ふと空を見上げると、雲が春らしい形をしていた。
ぽかぽか陽気。走りながら思う。
「いい休日だった」
小排気量バイクで、ちんたら走って、旨いもの食って、焚き火して、知らない誰かと少し喋って。
それで、もう十分だ。
午後3時、伊勢崎の自宅に無事到着。
ガレージにハンターカブを戻し、荷を解く。
疲れたが、心は妙に晴れやかだった。
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