【東北編・第三話】
朝6時。木々の間から差し込む光で目が覚めた。気温は一桁台まで下がっていて、シュラフから出るのが一瞬ためらわれる。
「うぅっ……さむっ……!」
隼人のテントから聞こえる声に思わず笑った。
お湯を沸かし、インスタントのコーンスープとコンビニで買ったバターロールを温めて朝飯にした。シンプルだが、冷えた身体に沁み渡る。
「……スープ、うめえ……」
シュラフ姿のまま手を伸ばしてくる隼人に、ついでにもう一杯渡してやった。
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荷物を積み直し、チェックアウトを済ませて出発。目指すは蔵王エコーラインから山形方面へ抜けるルートだ。
紅葉はまだ始まったばかりだったが、それでも色づきはじめた山々が美しい。
蔵王の峠道は曲がりくねり、霧がかかりはじめた。路面は朝露で濡れていて慎重な操作が求められる。
「うおおお……視界が……」
インカム越しの隼人の声に笑いながら、前を走る。気づけば、GSX250のエンジン音もなかなか軽快で頼もしい。
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その後、無事に峠を越えて山形県へ。
途中の「道の駅たかはた」で休憩がてら名物の玉こんにゃくを食べた。串に刺さった茶色い玉を頬張ると、出汁の染み込み具合が絶妙だった。
「うわ……これ、地味だけどめっちゃうまい……」
「一人旅だと、こういう“地味うま”が心に残る」
「分かります……いや、マジで来て良かったっす」
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道の駅の裏手には静かな公園があり、ベンチでしばらく缶コーヒーを片手に話した。
静かで温かな時間だった。
「……兄貴に借りたこのバイク、来週には返さなきゃいけないんですよ」
「そうか」
「でも、もう……完全にハマっちゃいました。帰ったら、自分のバイク、買おうと思います」
「買うなら、最初は中古でもいい。信頼できるショップでな」
「……聞いていいっすか。最初、なんで声かけてくれたんすか?」
俺は少しだけ考えてから答えた。
「不安そうに見えた。でも、バイクはしっかり磨かれてた。それで十分だ」
隼人は照れたように笑った。
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その後、二人は「高畠ワイナリー」に寄ってちょっとしたお土産を買い(酒は飲まない)、別れの時が来た。
「……このまま、米沢で降りて友達んトコに寄るんす。ここでお別れですね」
「無事故・無違反。気をつけて帰れよ」
「そっちこそ。また、どっかで」
だが、問題は突然起きた。
「……あれ? ヤベ、セル……なんかおかしいかも」
確認すると、隼人のGSX250がどうやらバッテリーが弱っている様子だった。ライトはかろうじて点くが、セルの回りが明らかに鈍い。
「昨日モバイルバッテリー使ったから……って関係ないっすよね?」
「いや、直接はない。でも電圧が不安定な状態だったかもな。一応、ジャンプスターター持ってる。試してみよう」
バッグの奥から緊急用のモバイルジャンプスターターを取り出し、接続。
「……うぉ、便利っすね、これ」
「一人旅だとこういうのが命綱になる」
エンジンがかかった時、隼人の顔にはホッとした表情と同時に、どこか頼もしさを見たような眼差しが浮かんでいた。
隼人が去っていく。その背中を見送りながら、バイク旅の“出会いと別れ”は、やっぱり悪くないなと思った。
俺は再びバイクにまたがり、次の目的地――秋田方面へ向けて、エンジンをかけた。
空は秋晴れ。風は冷たく澄んでいた。
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