【東北編・第二話】
夕暮れの遠刈田温泉を背に、二台のバイクが細く曲がる林道を駆ける。
目的地は蔵王山のふもと、「青根キャンプ場」。電波は弱いがロケーションは申し分ない。予約も不要で、今夜は静かに焚き火を楽しめそうだった。
「……うわ、すげぇな」
キャンプ場に着いて、隼人が感嘆の声を上げた。
山間の木立に囲まれ、すぐ向こうには川のせせらぎ。葉は色づき始め、赤、橙、黄が、夕闇の中でまだらに浮かんでいる。夜の訪れと共に、気温が一気に下がってきた。
「秋だなあ……さむっ」
「テント設営急ごう。焚き火ないと本格的に冷えてくるぞ」
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設営中、隼人は慣れない手つきでポールを立て、ペグを打ち、試行錯誤している。
「ペグって意外と刺さんないもんなんすね」
「地面が固いとな。角度が大事だ。貸してみ」
手伝ってやると、隼人はちょっと悔しそうに「ありがとうございます」と呟いた。
でも、その不器用さがなんだか微笑ましい。
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やっと設営が終わり、焚き火を起こす。
小枝に火を移し、じわじわと薪に燃え広がる様子は何度見ても飽きない。
隼人が横で目を輝かせていた。
「……焚き火って、こんなに良いもんなんすね」
「生きてる火だからな。人間の根っこの部分が喜ぶんだよ」
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ビールで乾杯してから、さっそく夕飯の準備にとりかかる。
とはいえ、あんまり凝った料理を作る気はない。今日は秋らしい簡単キャンプ飯で攻める。
クッカーに米と水を入れ、アルストで炊飯開始。
その間に小鍋にオリーブオイルを注ぎ、薄切りにしたさつまいもとキノコ(しめじ、舞茸)を炒めていく。香りがふわりと立ち上る。
そこへ軽く塩と、家で詰め替えてきたナツメグをひとつまみ。
最後に少しの水と醤油を加えて煮るだけ。**“きのこと芋の秋風煮”**の完成だ。
「すげえ……これ、キャンプで作るんすか? 家庭料理みたいっす」
「いや、家庭料理より雑だけどな。あんま凝りたくないけど、秋っぽいもんが食いたくてな」
炊き上がった米に、この秋風煮を乗せて食う。
「うわ……沁みる……!」
隼人が感嘆の声を漏らした。
「これで飯盒飯ならなお最高だったけど、炊飯器よりマシだろ」
「いやいや、めっちゃうまいっす……」
そう言いながら、隼人はペロリと飯を平らげた。
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食後はしばらく、焚き火の前で語らう。
「大学、楽しいけど……なんか“自由”の意味を履き違えてる気がしてて」
隼人がぽつりと漏らす。それに特に口を挟まない。ただ、火がパチパチと音を立てる。
「兄貴に借りたバイクで、なんとなく来たけど……正直、めっちゃ緊張してて。でも今日こうして誰かと話せたの、すごく救われました」
「……ああ、俺もだよ。今日は“独りじゃないキャンプ”だったな」
夜の風が頬をなでる。
空にはうっすらと星が滲み、山の冷気が火の熱と混ざり合って、不思議な心地よさを運んでくる。
「明日、どこ行くんすか?」
「蔵王エコーラインを走って、そのまま山形に抜けるつもりだ」
「……一緒に、行ってもいいすか?」
隼人が、火の向こうからそう言った。
「もちろん」
火ばさみを握ったまま、笑って頷いた。
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