【第一話】湾岸の風と、あのSR400
群馬を出たのは朝の6時過ぎだった。
春とはいえ、まだ肌寒い時間帯。レザージャケットの下にインナーを仕込み、愛車Z900に荷物をくくりつける。
目的地は千葉、房総半島。
高速を使いつつも、どこかで名物でも食べながら、ゆっくり海沿いを目指す計画だ。
関越から外環道、そして館山自動車道へ。
途中、市原SAでひと休みする。
時間はまだ9時。
朝食を済ませたばかりだし、ここでは軽くソフトクリームを食べるにとどめた。
ソフトクリームを片手に、駐車エリアを歩いていると、ふと目に留まったのが一台のSR400。
クラシックな佇まいに、キャンプ装備を載せたリアキャリア。
そして、その傍に立つのは、黒髪の女性だった。
肩までのストレートヘアに、落ち着いたカーキのジャケット。
グローブを外しながら、別のライダーたちに囲まれていた。
「ひとりで?えらいねー」「彼氏のバイク?」
そんなよくある“オジサン絡み”を、苦笑しながら受け流している。
──でも、彼女の表情には、微かな疲れがにじんでいた。
(ああ、あるあるだな……)
だが、俺は話しかけなかった。
バイクは好きでも、こういう場面に割り込むのは性に合わない。
ソフトクリームを食べ終え、缶コーヒーを飲み干すと、再びZ900にまたがった。
「じゃ、いい旅を」と、心の中でだけ呟いて
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