フィクション 妙高高原編 第九話「断崖、海鳴り、そして焚き火の静寂」
日本海沿いの国道8号を、ひたすら北上。左手には濃紺の海、右手には切り立った断崖。バイク旅の醍醐味が詰まった道だ。車体を倒してカーブを曲がるたび、潮風とエンジンの鼓動が身体に染み込んでいく。
今日の宿は、「親不知ピアパーク」のさらに先、地元の釣り人しか知らないという断崖上の秘密のキャンプスポット。山と海の間に無理やり居場所を確保したような場所で、テントを張ると、目の前は水平線。背後には苔むした崖。野性と絶景がぶつかり合うロケーションだ。
設営は風との闘いだった。四方八方から吹きつける潮混じりの風に、ペグを何度も打ち直す。だが、設営が終わって焚き火を起こすと、その苦労も報われる。ゆらめく炎越しに、日本海に沈む夕日。缶ビールのプルタブを開ける音が、最高のBGMになる。
この日は肉ではなく、スーパーで買ったホッケの開きを炙って夕飯にした。煙と塩の匂いが混じって、口に含むと身はほろほろ。ひとりで味わうにはもったいないと思いつつ、誰にも邪魔されない時間が、妙に贅沢に感じられる。
夜が深まると、遠くに貨物列車の音が響いた。夜の海に、機械の鼓動が染み込む。寝袋に入って聞くその音が、まるで「帰りたくない」とささやいているように思えた。
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