七月七日の桜〜その壱〜
皆さんおはこんばんにちは!
テスト期間でバタバタ中の海街真衣です!
もうすぐクリスマスですね!
お隣がいてもいなくても1日だけですから、楽しみましょう!
ガチャ。
扉の音で目が覚めた。
「おお。裕太、鈴羽。」
2人はいつものようなほんわかした空気には包まれていなかった。
「…どうしたんだ?」
裕太が重々しげに口を開いた。
「僕達の後輩が、僕達の同輩に泣かされました。」
泣くほどの事だったのかと内心驚きながらも、どうせ解決したのだろうと思った。
「そうか。で、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですかって、先生何考えてるんですか…!」
鈴羽からドス黒いオーラが見えた気がした。
「ぜんっぜん大丈夫じゃありませんから!私達の後輩が泣かされて、部活をやる以前の問題がみんなにあるのに、先生は気にもとめてなかった!」
「…」
返す言葉が見つからない。
しかし、気になっていることが一つあった。
「…他の生徒は、どうしたんだ?音が聞こえないが。」
「帰しました。この状態で部活をするべきでない。という僕らの勝手な判断です。」
「…何で俺に言わなかった。」
「寝てたので。」
「幹部は。」
「幹部がさほど仕事をしていないから僕らがわざわざここにいるんです。」
「そうか。それで?」
「部員の中で大きな問題が起きているのに、それに気づかないなんて。」
「あのなぁ、俺だって…」
「お疲れなのは充分分かります。
僕らのためにここまでしてくれる事には、本当に感謝しています。
先生が眠ってしまうことには誰も悪い気を起こしません。
でも、部員の雰囲気の悪さがここまで滲み出ている中で、先生が無関係を決め込んでいることに、僕は腹が立っているんです。」
いつもと全く違う裕太の弁舌に何一つ返せないでいた。
「先生、今回はここまで浮き彫りになったと思うけど、まだまだ各パート内でも悩みとか、問題とかを抱えてると思います。
明日にでも、それぞれのパート、それぞれの学年で話し合うべきだと思います。」
俺は申し訳なさで2人に目を合わせられなかった。
どうせ解決しているだろう。
そう思っている自分とは、かけ離れて違った。
2人は自分の後輩のことだけではなく、より全体がよくなるために考えてくれていた。
…謝るのが筋ではないか。
「…わかった。2人共、すまなかった。」
俺は深々と頭を下げた。
「えっそんな!先生が頭を下げることじゃ…」
「いいんだ。俺が怠けていたのも、君たちの中の問題に無関係な考えを持っていたのも事実だ。
謝るのは俺だ。」
驚いた祐也と鈴羽の言葉を遮り、詫びを入れた。
その後、いくらかの譲り合いがあり、2人は納得して並んで帰っていった。
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「……」
しばらく無言のまま歩いた。
「ビックリしちゃったよね…先生…。」
口を開くのを我慢できなかった顔をして鈴羽が言った。
「そうだね。僕ら、嫌われちゃったかもよ?」
「え?やだよぉ…。」
ほとんど半泣きの顔でこっちを見てきた。
「うそうそ、冗談だって。」
普段大人っぽい鈴羽が幼い子供のような顔でこっちを見てきた時は不覚にも心が締めつけられた。
「ほら行こう。…送ってくから。」
「え?今何か言った?」
「なんでもない!」
「…ふーん?」
鈴羽がいたずらっぽい目でこちらを見てきた。
しばらくお互いを見つめ合う。
「あーもー分かったって!ほら、一緒に帰ろ?」
「…え?」
「ほら!行こ!」
昼の冬空はいつも以上に穏やかだった。
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翌日。
俺はみんなに頭を下げた。
驚いた顔をした者もいれば、当然のことと思っていそうな者もいた。
もちろん雰囲気を作るのは部員達自信だが、静かな諍いや、ちょっとした異変に気づけなかったのは俺の至らぬ故だ。
疲労を理由に、怠けていたのも事実。
俺が頭を下げた後、鈴羽が口を開いた。
「もしかしたら、まだ不満を抱えている人もいるかもしれない。だから、それぞれのパート、学年で話し合う時間を取ろうと思うの。」
「今10時だから…パート内での話し合いは11時まで。そのあとは、学年で話し合いにしてください。」
裕太が時間の振り分けを伝えた。
それを聞くと、皆がわらわらと音楽室を出ていった。
彼らはまだ高校生だ。
人間関係を必要以上に気にする吹奏楽部にいる以上、それなりの不満はあるのだろう、と思った。
不安は残るが、譜読みに戻った。
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あっという間にお昼の時間になった。
彼らは彼らの中での問題を解決したのだろうか。
戻ってきた人の様子を見ると、泣き腫らしたような跡がある人もいた。
泣くほど思いをぶちまけたのだから、きっといい方向へ転んだのだろう。
我が強い、と言うと悪く思われるかもしれないが、一人一人が確立した考えを持っている。
逆方向へ向いてしまう時もあるが、全員が同じ方向を向けば、大きな力になる。
「さて、皆言いたいことは吐き出したか?」
みんなはこくりと頷いた。
俺は敢えて声を張り上げた。
「そうか。じゃあ、新人戦の曲を!発表します!」
((えぇーー!!!))
驚きの声が響いた。
さっきのお通夜モードとは打って変わって、どんな曲か、楽しげに話していた。
「はい!発表します!」
音楽室にワクワクが膨れ上がった。
俺は自由曲のCDをプレイヤーに入れ、再生ボタンを押した。
第一声が流れた途端、全員が何を吹くか分かったような顔をした。
ひと通り聴き終え、俺はみんなに言った。
「今年の新人戦は、課題曲は『オーディナリーマーチ』、自由曲は『たなばた』だ!」
謎の拍手が起こった。
見渡すと、それぞれ不安な顔や、何か決意したような顔をした者もいた。
譜面を速やかに配り、早速譜読みに入らせた。
俺は準備室で、2曲をもう1度聴いてみた。
『さくらのうた』は2012年 吹奏楽コンクールにて課題曲になった曲だ。
作曲者は、福田 洋介先生。
中高生、プロと幅広い層から支持を受けている先生だ。
桜が咲き、そしてすぐに散っていく儚さ、桜の雄大さが見事にマッチしている。
自由曲の『たなばた』は、天才と謳われた作曲家、酒井 格先生の曲だ。
酒井先生の歌心が、全て詰まったような曲だ。
何もしなくても充分聞き手に伝わるようなメロディーで、色濃いストーリー性が魅力だ。
ちなみに、『さくらのうた』にはピッコロ、トランペットのソロがあり、『たなばた』にはトランペット、サックス、トロンボーンのソロがある。
それぞれ各パートの2年生ファーストにやってもらうと決めていた。
なにより楽しみなのは、『さくらのうた』をどうやって海山らしくするかだ。
この曲はどんなストーリーを当てはめてもピッタリとはまる。
ここの世界観を統一しないと、真に響く曲にはならない。
一人で散々悩んでいたが、部員を集め、相談したところ、あっという間に答えが出た。
「歌詞をメロディーに付ける」。
一人一人歌詞を考えて持ち寄り、それを即席歌詞係がうまく組み合わせ、歌詞を作るというものだ。
歌詞完成までは、係以外のメンバーで2曲を練習することになった。
「よし!やることは決まったな!今年の新人戦は1月10日!時間は限られているが、やるべき事をしよう!」
((はいっ!))
こうして1、2年生での一歩目を踏んだ。
熱い冬が、始まる。




