14 スズッカの戦車競走
「スズッカの戦車競走についてもう少し教えてくれないか?」
「ああ、うん。こういうの、詳しい人は詳しくて、そうじゃない人はあまり知らないのよね。わたくしも、そこまで専門の知識があるわけじゃないんだけど。お祖父様がはまっていたから、少しぐらいはわかるわ」
サリエラの話によると、戦車競走とは、楕円型のトラックを巨大な馬車(戦争で使っていたようなものだから、戦車と呼ぶ)でぐるぐる走らせて、順位を競うものらしい。
ちなみにお金を賭けることもできるので、熱中する人間が多数いるとのこと。
大きな大会では世界各地からマニアがやってくるという。
ちなみにスズッカはマツルカのけっこう北にある帝国の小さな都市だ。
「ああ、そういえば聞いたこともあるかもな……」
一回、仕事で競走観戦中の敵対組織の人間を暗殺する命令が出たことがある気がする。諸般の都合でそれは実行前に中止になったんだけど。
「お祖父様は昔から戦車競走に入れ込んでて、それなりのお金を投資してるわ。マニアになるのも大変ね」
「それだ」
「それって、何のこと?」
「戦車競走の観戦を観光に取り入れるんだ。戦車競走を見たあとで、南に行ってもらう!」
俺は早速、スズッカへ向かった。ちなみにサリエラはこういうの興味がないとのことで来なかった。自分の肉体を鍛えるほうが性に合うらしい。
政務などは移動中の馬車でやった。ちょっと酔ったけど、できないことはない。
貴賓席に行くと、ちゃんと元皇帝がいた。
「お疲れ様です、俺にも戦車競走について教えてくれませんか?」
「おお! まさか、そなたもはまったクチか?」
「いえ、ただ、多くの観光客がここに来てくれたらいいなと思った次第です」
「なるほどのう。ただ、それは戦車競走業界の長年の課題じゃったのじゃが、なかなかこれが難しくてな。マニアと近隣住民ばかりが来ているという感じじゃ」
そりゃ、すでに有名だったら、サリエラも懸念があるとか言わないよな。
ひとまず、試合を見ようか。
トラックには八頭の巨大な戦車が並んでいる。戦車といっても、やたらと車高が低くて、軽量化もされているので、ほとんどソリのように見える。
旗が振り下ろされ、各馬一斉にスタート。
「何より盛り上がるのは、コーナーのところじゃ。だいたい、抜かすとなると、そこぐらいしかないからのう、直線で抜くのはかなり大変じゃ」
「なるほど。たしかに馬車は場所をとりますから、前をふさがれると抜きづらいですね」
「そのカーブで事故を起こすことも多くてのう。それはそれで競走の花ではあるのじゃがな」
元皇帝の話のとおり、戦車がカーブに差し掛かると、ものすごい歓声が起こる。
一番人気らしい戦車がきれいにカーブを曲がる。そう、時間をおかずにやってくる次のコーナーも曲がっていく。
そのあとも一番人気の戦車が後続をブロックして、一位に輝いた。
俺も思わず、立ち上がって、観戦していた。
「おお! よくやった! よくやった!」
ただ、その横でもっと何倍も大きな声で元皇帝が「あそこでどうして差さんのじゃ! 騎手は攻め時を間違えておるっ!」と叫んでいた。どうやら、馬券をはずしたらしい。戦車には人を熱中させる要素がある。
「ちょっと、参加してみましたけど、楽しさは伝わりました。これはやる気になりますね」
「そうじゃろう、そうじゃろう。これはテンションが上がる!」
元皇帝の言うことはよくわかる。これは盛り上がる!
ただ、同時に試合が終わったことで、会場の雰囲気にも意識を向けることができた。
思ったよりも閑散としているのだ。重要な試合ではないからなのかもしれないけど、埋まっているのは四割か五割だろうか。
「これ、ガラガラじゃないですか?」
「実はそうなのじゃ。戦車競走も昔は毎日のように満員じゃったのになあ……」
元皇帝が嘆く。
「会場があまりきれいじゃないのも、そのせいですか?」
観客が帰っていくことで、客席に傷んでいるところが多いこともわかってきた。
「実はそうでな……。収益が下がっておるので、こういうことになっておる……。立地もそこまで便利とは言えぬしな」
これはよくないな。いろんなことが悪循環になっている。
汚くなっているから、余計に敬遠する人が出てきてしまうし、イメージ自体も悪くなる。きれいに改修すること自体は可能だけど、それだけじゃまだ足りないな。
もっと、まずは目を引くようなことをしたい。でも、目を引くようなことっていうと、何だ?
ここは体を張るか。長らく、体を張ってきたんだしな。
「よし、俺が騎手をして出てみます」
「はっ!? おぬし、何を言っておるのじゃ!?」
「皇帝が出れば、絶対に盛り上がりますよね。できるだけ安全運転でやりますよ」
あとは善は急げで、俺はその日から軽く馬の練習をして、二日後の最終レースに出走することになった。
皇帝出走レースとして、かなり話題にはなっているらしい。
レース本番、ほぼソリにしか見えない戦車に騎乗する。
正直、乗ること自体は危惧してない。アサシン時代の生き方のほうがもっと危なかったからな。仮にコーナーで事故っても、素早く脱出できると思う。
問題は一位になれるかどうかだけど――
どうせなら、狙いたいよな。完走したから褒められるというのよりは、もっと上を目指したい。




