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アサシン皇帝の帝国のんびり行幸記 ~目指せ、観光立国~  作者: 森田季節


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13 マツルカ牛をブランドに

「このマツルカの牛肉をブランドにするぞ! 必ず商売になる!」


 商売という言葉に商人たちが先ほどより食いついてきた。

 有力商人の一人が手を挙げた。

「すいません、ブランドにするというと、大々的に売り出すという意味であっていますでしょうか?」


「そうだ。このマツルカの牛肉は金を出してぜひとも食べたいだけの魅力を持っている。だから、きっと売れる」

 その商人もこれならやれると思ったのだろう。


「わかりました! ぜひ、協力させてくださいませ!」

「おっ! やってくれるか!」

「はい、まずは帝国の遠方にこの牛肉を急いで持っていって、そこで格安の値段で出して味を広めましょう!」


 俺はすごく白けた顔になっていたと思う。

 それは商人もわかったので、何かまずいことを言ったかという表情になっていた。


「何が正しいかはやってみないとわからんが、俺のブランドに関する考えとお前の考えは正反対だ」

「どうしてでしょうか……? いいものを安く売ってお得感を出すのが商売の基本かと……」


 俺は首を横に振った。


「逆だ。無茶苦茶、高くして遠方で売れ。どうしてそんな値段を出さないといけないのかと思うほどの値段でよい」

 俺の言っていることがみんなは理解できていないようだ。なので、俺も説明を続ける。


「考えてみろ。牛肉はまさにどこでも食べられている代物だ。それを普通の値段で売ったら、どうなる? 特別なものとみなされるか?」

「い、いえ……。埋もれてしまうかと……」


「では、法外な値段で牛肉を売ったらどうなる?」

「た、たしかに! 話題になります!」


 周囲の商人たちも俺の意図を理解してくれたようだ。


「よいか。異常なものを見ると人間はそこに目を向ける。俺はそれをアムルテラス教の経典で学んできた」

 経典には無数の神の奇跡が書かれている。奇跡とは普通では起こりえないもののことだ。朝起きて、町に行って、いつもと変わらない値段でパンが売っていても、それを意識する人間はいない。


 しかし、パンの値段がもし二十倍になっていれば異常事態だと認識する。頭に残る。


「売れば十分な利益が出る値段で遠方では売れ。それでも買う金持ちは値段以上の価値をそこで知る。つまり、自分はとてつもなく高い牛肉を食べているという経験できるわけだ」


「しかし、皇帝陛下は本当によくお考えでいらっしゃいますな。とても隠棲経験があるなどとは思えません……」

「ああ、もともと情報戦は得意だったのだ。いかにすれば人間を煽動できるかもよく考えていたから――あっ、なんでもない。今のは冗談だ……」


 そのまま言うのはまずいので、お茶を濁した。

 アサシンの基本は直接攻撃だが、敵の心理を攻撃することだってする。


 たとえば、火事というデマで大衆をパニックにできれば、その逃げ惑う流れに巻き込まれているターゲットを簡単に殺すこともできる。木を隠すなら森。人込みや祭りでの仕事も数はそれなりに多い。


 だから、人間の心についての研究もそれなりにやっていたのだ。


 名物は安かろう、不味かろうで売っても意味がない。名物であるということ自体が箔なのだから、そこに高価だという箔をさらにつけてやる。だいたい、地元でも普段は口にしない高級品を安く提供したら、地元で消費されちゃうだろうし。


「旦那様はお上手ですこと」

 サリエラは俺の魂胆がわかったのか、いいようにやったなという顔をしている。


「平和のためにはこういう技術も必要だったんだ。それにマツルカの牛肉は本当に美味い。わざわざ来たいと思うだけの価値がある。俺が遠方の金持ちなら、商談に行くという言い訳でも作って出ていくだろうな」



 マツルカの牛肉は早速、『愛を知る者』修道会領のほうに運ばれ、その土地の名士たちをまずはターゲットにして、売られていった。

 反応は上々らしく、向こうの宮廷詩人がその牛肉の美味なることを歌にしたという話さえ聞いた。


 これにより、まずマツルカ牛が高値で取引されるようになり、畜産業者もうるおはじめているという。その時点で俺がやったことに意味はあったわけだ。


 あとは観光客がマツルカに来る流れまでができれば完璧だが、そこはタイムラグがあるだろう。町の整備にも時間はかかるし、ゆっくりとやっていくとしよう。


 けど、サリエラはあんまり楽観視はしていない様子だった。ある日、政務中の俺のところに地図を持ってやってきた。


「旦那様、マツルカを推すのは悪くないと思うわ。でも、それだけじゃ、まだまだ難があるわね」


「いったい、どういうことだ?」

「北の国々からマツルカまでの距離が長すぎるの。マツルカをイーセへの中継地点にするにしても、今度はマツルカへの中継地点が必要なの。で、その間の観光地ってあんまりないのよね……」


 たしかに、マツルカと帝国最大の観光エリアであるイーセやトーヴァのあたりはそこまで離れてはいない。しかし、マツルカに来るまでの距離が相当なものなのだ。


 この間に何か別のものがいるか。


「う~ん……。俺、隠遁してたぐらいだから、あんまり世俗のことに詳しくないんだよな……」

 地名はわかるけど、そこで何をしているのかまではぱっと出てこない。


「ここは元皇帝に聞くのがいいかな……」

「ああ、お祖父様なら今は帝都にはいないわよ」

「えっ、また漫遊でもしてるのか……?」


 サリエラは首を横に振った。

「違うわ。この時期、スズッカで行われる戦車競走があるから。大きな大会はまだ先なんだけどね」

 戦車競走?

 それ、使えるんじゃないだろうか。

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