ヒカル 【詩織目線】
あたしとマム、そしてティムは、この世界で出会ったヒカルに連れられて、ある地下にある大きな広場に行ったんだ。
そこは、あのビヤーキーっていう怪物から身を守るために作られた施設で、ここじゃないと安全に過ごすことはできないんだってさ。
中にはたくさんの人がいたのだ。
家族、老人、子どもや赤ちゃん、ケガした人。
親を亡くした子や、ケガで動けない人も多くいるみたいで、そんな人たちをお世話している人や、いろんな銃や武器を持って武装している人。
全部で50~60人ぐらいの人たちが、この施設の中に暮らしていたんだ。
あたしたちはその地下にある1つの部屋の中で、ヒカルからいろいろなことを聞いたんだけど、それはどれも全て信じられないお話だった。
ヒカルの話だと、ここはあたしたちの住んでいた世界からちょうど25年後の世界。
鳳町のとなりにある三世鶏町に間違いないって。
こんな壊れた町になってしまったのは、ここ三世鶏町だけでなく、世界中が同じような状態になってしまったんだってさ。
原因は、あの怪物ビヤーキーが現れたから。
それも1匹じゃない。
ヒカルが生まれるもっと前、最初の1匹が現れてから、何万何億のビヤーキーがどこからともなくやってきて、人間に襲いかかってきたんだって。
ビヤーキーが現れた原因はよくわかっていないんだけど、
噂ではアメリカでの、ある実験がきっかけになっているみたいなの。
アメリカにある研究グループが、実験の途中でこの世界と別の世界をつなげてしまって、その結果、『ハスター』と呼ばれるビヤーキーの親玉みたいなのが現れて、それがアメリカに居ついてしまったんだってさ。
『ハスター』というのは、宇宙の彼方・アルデバランに幽閉された『旧支配者』と呼ばれる恐ろしい邪神のこと。
日本ではハスターのことを、『黒い海』って呼んでるんだって。
世界中の国がビヤーキーをやっつけるために手を組んだんだけど、あまりにその数が多すぎてどうにもならなくて、結局今みたいな状態になってしまったらしいの。
今でも日本の自衛隊やアメリカ軍が時々反撃しているらしいけど、結局多勢に無勢。
たくさん人が殺されて、生き残った人々は銃で自分の身を守り、ビヤーキーの攻撃から隠れて暮らしているんだってさ。
ヒカルの両親も、ヒカルが小さかった頃にビヤーキーに殺されたって言ってた・・・。
その後、今度はあたしたちが自分のことを話したんだけど・・・。
「ハハハ・・、過去から来たって?んなバカな・・」
ヒカルは、笑ってあたしたちの言うことは信じてはくれなかったんだ。
でも、あたしがナッちゃんの話をすると、ヒカルのとなりにいたおじさんがこんなことを言ったの。
「あ?オレそのバスを抱えたデカいビヤーキーなら見たぞ」
さすがに行方不明になったナッちゃんの話は、ヒカルも真剣に聞いてくれたみたい。
「どんなヤツだった?」
「ああ、おれもあんなデカいビヤーキーは見たことがない。なんせ10メートル近い大きさがあったからな。そいつがバスを抱えて、となり町の鳳町に飛んでいったんだ。ありゃきっとビヤーキーの親玉だぜ」
「それで?」
「しばらくすると、自衛隊の戦闘機がヤツ目がけて追いかけていったよ。あれは多分ラプターだな。そう言えば・・・・、確かヤツが抱えていたバスに人がいたみたいで、何人かがぽろぽろ落ちたのが見えたな・・・」
「ナッちゃんだ!!」
あたしはびっくりして叫んだ。
間違いない。それはナッちゃんとシュン兄だ。
あたしとマムの真剣な表情に気付いたヒカルは、もっと詳しい話を聞いてくれた。
「どこに落ちたかって?そうだな・・・・。ほら、鳳町に教会があるだろ?
確かあの辺りに落ちたような気がするんだが・・・」
あたしはティムを抱くと、すぐにそこから立ち上がって、急いで鳳町に行こうとした。
ここが三世鶏町なら、鳳町までの道は知ってる。
とにかくナッちゃんを助けるために、あたしはすぐにでも鳳教会まで行こうとしたの。
でも、そんなあたしを引き止めた人がいた。それはもちろんヒカル。
「ちょっと待てよ!1人でどこに行く気だ?」
「もちろんナッちゃんを助けに行くのだ!」
「バカ言うな。この辺りにもビヤーキーはウヨウヨいるんだぞ」
「それでも行くもん!」
マムもあたしの横に立つと、あたしの意見に賛成してくれた。
「マムたちは、シオリちゃんのお姉さんを助けるためにここまで来たんだよ!
どうして『行くな!』って言うの!?」
すると、ヒカルはヤレヤレといった感じで、あたしたちに落ち着くように言ったノダ。
「まぁ待てよ。鳳教会と言えば、ビヤーキーの巣みたいになってる場所だぞ。
いくらお姉さんとはいえ、生きてるかどうかもわからないのに助けに行くって言うのかい?」
あたしは口をとんがらせた。
「それでも行くもん」
「あそこまで20kmぐらいある。途中でビヤーキーに見つかったらどうする?」
「それでも行くもん」
「死ぬぞ?」
「行くもん」
ヒカルは、今度はマムの方を見た。
マムもヒカルを見ながら、顔をコクンと縦に振ってくれた。
しばらくあたしたちを細目でジロリと見るヒカル。
あたしたちも負けずにヒカルをギッとにらんでた。
そうしたら、突然奥の方から男の人の大きな笑い声が聞こえてきたんだ。
ガハハハッてっ感じの太い笑い声。まるでクマが笑っているみたい。
あたしとマムが笑い声のするほうを向くと、その笑い声にピッタリ!
見た目クマみたいな、筋肉もりもりの大男があたしたちの前に現れたの。
「ヒカル!帰ったか?今日はおみやげ付きだそうだな!」
その人、年齢は40歳ぐらいかな?口のまわりは無精ひげがモジャモジャ生えていて、背中の大きな古い猟銃を背負っていた。
後からヒカルに聞いたんだけど、その銃はエレファントガンて言って、昔大きな動物を狩りする時に使った猟銃なんだって。
「ああ。さっき帰ったよ、ダイゴ」
その大きなおじさんは、みんなから『ダイゴ』って呼ばれていた。
「このちっこいガキどもがみやげか?食えそうにないがな!」
食べる!?あたしとマムを!?
なんかあたしたちは、そのダイゴってクマおじさんから本当に食べられそうな気がしてちょっとビビッちゃったんだけど、ダイゴはそんなあたしたちを見て、またガハハッて笑ってた。
なんだ、やっぱり冗談か・・・。
「おいダイゴ、この子たちが恐がるだろ。おみやげはこっちだよ」
ヒカルは肩にかけた袋から何かを取り出した。
それは、小さな拳銃。ちょっと見た目はおもちゃに見えるけど、ヒカルが慎重に扱っていたから、多分本物だと思う。
「珍しいな。コルトポケットじゃないか。どこで見つけた?」
「行き倒れを見つけたんだ。持ち物の中にこれがあった」
ダイゴは一度その銃を手でもてあそんでから、またヒカルにポンと投げてそれを返した。
「そうか。これはヒカルが持っておけ。オレのデカい手じゃ扱えないからな!」
この2人って、なんかすごく気が合うみたい。
仲良しなのかな?




