記憶の先
その後もヒカルとダイゴはワガママを言う詩織と真夢を説得し続けた。
そしてどうしても鳳教会に行くと言って聞かない詩織たちを、ヒカルは明日もう一度詳しいことを話し合おうということにして、今日は一晩、とりあえずこの地下施設に泊まらせることにしたのだった。
その夜のこと。
この施設ではビヤーキーの襲撃に備えるため、武装したメンバーが交代で、寝ずの警備をすることになっている。
その日たまたま寝ずの番にあたっていたヒカルが施設内を歩き回っている時、
その片隅で誰かが泣いている声を耳にした。
気になったヒカルがそこに近づいてみると、そこには詩織と真夢の姿があった。
真夜中にも関わらず、まだ起きている様子の真夢が詩織を抱きしめている。
詩織はどうやら泣いているようで、真夢の胸に顔をうずめていた。
「寒いのかい?」
心配したヒカルが、真夢に声をかけた。
「あ、ヒカルさん。こんばんは」
「どうしたの?シオリちゃん、眠れないのかい?」
「いえ、そうじゃないんだけど・・・」
詩織はヒカルに気付いていないのか、相変わらず泣き続けている。しかしその様子にはどこか違和感があり、何か深い事情があるのだろうということは、なんとなく察しがついた。
「シオリちゃん、お姉さんがいなくなってから、ずっとこうなんです」
「夜泣き?」
「はい。シオリちゃん、普段はすごく元気なんだけど、やっぱりお姉さんのことが心配でたまらないんです。だから眠った後に、いつもこんなになって・・・」
「・・・・・マムちゃんて、シオリちゃんのことが大好きなんだね」
「うん、もちろん!」
ヒカルは自分が使っている毛布を真夢に渡し、何かあったら遠慮なく呼ぶように言葉をかけ、再び施設の警備に戻った。そして施設の入り口に腰をおろすと、星の輝く夜空を眺めながら、ふと詩織と真夢のこと、そして家族のことを考えていた。
ヒカルは両親のことを憶えてはおらず、彼がまだ2歳の時、ビヤーキーから彼を守るために命を落としたとダイゴから聞いている。
以来、ヒカルを親代わりに育ててきたのはダイゴで、実際彼も、ダイゴを相棒であり親のように思っていた。
ダイゴがガサツな性格であるにも関わらず、ヒカルの性格が穏やか部分を多く持ち合わせているのは、ヒカルが両親の性格を受け継いでいるからだと言われたことがある。そんな彼は今まで自分の本当の両親に会いたいと思ったことはないが、実の家族を心配する詩織の気持ちは、なんとなくヒカルにもわかるような気がしていた。
「家族・・・・か」
ヒカルは自分のポケットから、一枚の古びた布を取り出した。
これは、ダイゴから受け取った両親の形見で、彼の父親がビヤーキーに襲われた時に残された衣服の一部だと言われた物だ。
ヒカルはそれを、バンダナのように頭に巻いた。
「ま、なんとかするか・・・」




