予告状 9枚目 すれ違い
城でリチャード王子の取り調べで、ルーシーとレイヴンは事件のあらましを話した。
「それよりもレイヴン。商会クラスでは攻撃魔法の授業はない。なぜあの娘があんな強力な攻撃魔法を使えると黙っていた。いつどこで習得した。」
「私も知らなかったんですよ!」
レイヴンは王宮の医師に身体を見てもらいながら、リチャード王子に自分も驚いていると反論した。
「彼女は自己流で魔法研究をしていたとは話していましが…」
「生粋の天才か…。下町で魔法事故が起きなかったのが幸いだ。それで身体の方はどうだ」
「呪いにかかったという話ですが、そういった症状や紋章などは残されておりませんでした」
医者はリチャード王子の問いに答える。
「どうして治ったかは現在不明です。一緒にいたという少女が治癒魔法を習得していたとしても絶対に治せないものですから」
「ご報告いたします!事件現場および周辺にいた者達からの情報ですと、どこからか光が飛んできてルーシー・L・スミスの周りを飛んでいたと複数人の証言があります」
ドアの前で待機していた兵士がレイヴンとリチャード王子に調査を報告した。
「方角はわかるか」
「犯人が乗っていた馬車からです。検問所を待っていた商人たちが見ていました」
「なるほど、イヤリングにはマナ込められていた。しかしにわかには信じられん。装備しているわけでもなしに、マナをコントロールできるなど…さらなる調査が必要だな…」
リチャード王子の視線の先には、机に置かれたレイヴン達が探していたマナを帯びたイヤリング。
「…リチャード、ルーシー店長を軟禁するつもりか?」
レイヴンは目上の人に対しての礼儀を捨てて、リチャード王子を睨んだ。
「彼女にも王子様とやらを見つけてやるべきだな。レイヴン、私が思うにお前も王子様になれると思うが?」
「っそれない。俺は罪人だぞ」
何かトラウマを思い出しようにレイヴンは青ざめ、震える声で首を横に振った。
「…しばらく休め」
リチャード王子はレイヴンを部屋に置いて兵士と共に出ていった。
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同時刻、ルーシーはクラウスから聞き取りをされていた。
「お聞きしたいことは以上です。そろそろ殿下が――」
ドアからノック音がし、リチャード王子が入室してきた。
「リチャード殿下!レイヴンは…!」
ルーシーは王子に対して礼儀も忘れ、リチャード王子の服を掴み、レイヴンの容態を尋ねた。
「あいつの体調は何も問題ない。呪いについても確認したが何も残ってないそうだ」
「よかった…」
ルーシーはずっと緊張状態で不安だったが、ようやく肩の力が抜けたのだった。
「ところでルーシー。お前の派手なやらかしだが」
リチャード王子の真剣な表情に、法律を破ってしまったことにようやくルーシーは気付いた。
どうなってしまうのだろうと、胸が早鐘を打つ。
もともとレイヴンが怪我をしてしまったのは私が追われていたせいで、魔法も怒りで我を忘れて発動してしまった。
自分が犯した罪のせいで養父も巻き込まれるのだろうか、と震えが止まらない。
ルーシーは身構えたが、それを宥めるかのように、頭をポンと、リチャード王子に手をのせられた。
「街中で攻撃魔法を許可なく使用した件不問にする。犯罪者共の足止め、そして貴族の救助、それだけで勲章ものだ」
「治療は私がやったわけじゃないですよ!だって呪いは…」
「そうだな、それについては現在調査中だ。我々は幸運に恵まれた。しかし、我が友を助けようとしたこと私個人から感謝している。」
「でも、実際は私のせいで――」
リチャード王子はルーシーの唇に人差し指をあてて、それ以上言葉を紡ごうとするのを抑えた。
「今後の話はあるが、いったん家に帰るといい。親も心配しているだろう」
ルーシーが城から出ると、外は真っ暗な空が広がっていて、月の位置も高いところに上っていた。
リチャード王子が用意した帰りの馬車はすでに泊っており、ルーシーは乗り込み、もやもやを抱えたまま家に帰ったのだった。
翌日の新聞は違法のオークションについての記事と、暴走した馬車を止めた凄腕の魔法使いは王宮の秘蔵っ子?!と大きく取り上げられていた。
リチャード王子が新聞社に圧力をかけたのか、ルーシーとレイヴンについての情報は書かれていなかった。
国が追っていた犯罪集団を捕まえるために裏で計画されていたものだったと、一部事実と異なることがあるがそう書かれていた。
誰もルーシーを責めない形になってしまった。
リチャード王子の話では、レイヴンが裏でオークションに侵入し、犯人を追っていたという。
あの時、あの場にいなければ優秀なレイヴンが怪我無く、片付けていたのではないかとよぎってしまう。
『正義感で動いてはいけない。己の正義が揺らいだ時、立てなくなる』
曾祖父の言葉が浮かんだ。
どこかで自分はやれると高を括っていた。
数日後、笑顔で店に帰って来たレイヴンを見て、ルーシーは喜びより歯がゆい気持ちでうまくレイヴンを向かい入れることができなかった。
「店長、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ!さあ遅れた仕事頑張ろうね!」
その日からルーシーはレイヴンの顔をうまく見れなくなってしまった。
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事件後、仕事など忙しくしているうちにエマとクラウスは順調に交際を重ね、クラウスの家から正式に求婚の手紙が届いたらしい。
「皆に婚約発表パーティを招待したいのだけれど、いい?」
「嘘!いいの!?もちろん行くわ!予定あっても行くわ!」
「私もよ!!」
「ルーシー、お仕事空いて…。ルーシー?」
ルーシーは一人ぼーっとしていたため、エマは肩を叩いた。
「えっあ!ごめん。なんの話?」
「もールーシーったら!めでたい話を聞いてないなんて。エマの婚約パーティよ!」
「婚約ってクラウスさんと?」
「ええ」
クラウスの事を調べようとしていたが、すっかり忘れていたことにルーシーは気付いた。
「いいいいつ!?」
「相手の家が早くしたいってことで2週間後の予定なの。急遽決まったことでごめんね。ドレスはこの前のパーティのでOKよ。メイクと髪は家でやってあげるわね。」
エマは笑顔でルーシーに招待状が入った封筒を手渡した。
2週間でクラウスの事を調べ上げなければならなくなったことに焦りを感じ始めるルーシー。
彼が怪盗126号なのか、はたまた仲間か。
大切な友人のエマを守れるか不安が押し寄せてきた。




