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予告状 1枚目 怪盗になる!

ゴーン ゴーン ゴーン……

星流暦128年。

ルブラン街で一番大きい時計塔の鐘が星一つない漆黒の空に響き渡る。


「出たぞ!怪盗クラヴィスだ!!」


刑事がオレンジの屋根の建物の方を指差した。

警官たちが一斉にそちらを向く。

視線の先の黒い影はばさりと身体を翻し、手前の屋根に飛び降り、屋根の瓦をヒールがカツンと響かせた。

大きな銀色の月を背に立つのは少女のシルエット。

黒と白のタキシードを模しているような胸元と背中が空いたデザインの服を纏い、ふわりと広がる薄紫のパニエはスカートをふんわりと広げており、可愛らしさを高め、背中でまとめられた金髪のゆるい三つ編みが月明かりに照らされ銀河のようにきらめき、風に靡いている。


「皆様、お集まりいただきありがとうございます。今宵は金の欲に囚われた悪しき者(・・・・)に汚された乙女の華を浄化する日には絶好の日」


怪盗クラヴィスと呼ばれた者の手には色鮮やかな紅い宝石。

それを月の光にあて、皆に見えるようきらりと光らせた。


「宝石がすでに盗られているぞ!捕まえろー!!」


警官たちが一斉に長い梯子を置き登り始めるのを怪盗は見ながら、どこからか鍵の形ににたステッキを取り出した。


「乙女の華はあるべきところへ。枝を折った者達には粛清を。それでは3・2・1・オープン!」


怪盗は鍵を回すようにステッキを空中でひねると、パンと大きな音を立てて大量の紙が空を埋め尽くす。

ひげを生やした刑事が紙を拾って内容を確認すると、それは宝石を盗まれた金持ちが悪事をしている決定的な証拠写真だった。


「…これはどういうことですかな?数か月前に泥棒が入って盗まれた宝石が写っておりますぞ?」


刑事は警備の依頼者であった写真に写っている金持ちに詰め寄り、悪事をばらされた金持ちの男は泡を吹いていた。


怪盗はその様子を横目で見ながら笑顔で闇に消えていったのだった。



・

・

・

下町のとあるあるレンガで作られた工房。

14歳の少女ルーシーは怪盗の活躍を表紙一面に書かれた新聞を読みながらほくそ笑んでいた。

喜びが抑えきれないように肩を震わせ高笑いをし始めた相棒ルーシーに、彼女の肩で眠っていたイタチのドミノはびっくりして飛び起きた。


「お~ほっほっほ!!」


「随分嬉しそうですね。今日の新聞に店の好評コメントが載っていましたか?」


隣のキッチンから紅茶を運んできたのはルーシーの助手であるレイヴン。

彼は防犯設備を製造するこの店を始めて数週間、どこから場所を突き止めたのか、弟子入りに来たのだ。

最初は企業秘密を暴きに来たのだろうとルーシーは冷たくあしらっていたが、毎度の美味しいスイーツのお土産(賄賂という)や、店の掃除、買い出し、ルーシーとその養父のマッサージ、接客まで完璧に対応し、その快適さに骨抜きにされて、仕方がなく店で働くことを許可したのだった。

レイヴンは今日も優雅な所作でサイドテーブルに温かい紅茶のカップと今日のおやつを置いた。


「怪盗クラヴィスの記事を読んでたの。こうも鮮やかな手口を称賛されているのは嬉しいわ」


「どうしてですか?ルーシー店長は防犯専門技師です。むしろ腹が立つのでは?」


「(ギクッ)あ、えっと、むしろ防犯の穴をかいくぐってくれる人がいると、もっとすごいものをつくってやろうって思うからよ!」


ぎこちない表情のルーシーはたどたどしく答えた。


「なるほど、店長は向上心が高いですね!ですが、防犯設備を一生突破できないというのが一番良いのですが…」


「それだと悪人の秘密も暴けないわ。ヒューマンエラーもあるし、隙がある物の方が何かといいのよ。」


ルーシーはカップを上げ、花の香りがふわりとたった紅茶を一口飲んだ。


カランカランとドアベルが鳴り響き、来客を教えてくれた。


「いらっしゃいませ。おや、エバンス夫人今日はどうされましたか?」


「子供が悪戯してルーシーちゃんが取り付けてくれた倉庫の鍵を壊しちまってね。新しいものを取り付けてほしいんだ」


「わかりました。部品を組み立てればすぐに。」


レイヴンとルーシーが小さいころからお世話になっている近所のエバンス夫人が話をしている。

この防犯専門店の始まりは安価なものを下町の知り合いに売り込み、被害が減ったと口コミが広がり、下町で広まっていった。

エバンス夫人は最初のお客。

最初は親切で無料でやったことだが、夫人はちゃんと金を受け取るべきだと払ってくれた。

とても嬉しい経験だった。


その後、レイヴンの売り込みもあり、うわさを聞き付けた商人から注文が来た。

人件費が抑えられて助かると喜び料金を上乗せしようとしたが、ルーシーはそれを断り店の宣伝をお願いした。

少しずつ注文が増え、貴族や金持ちの家からも注文が入ってくるようになった。


(防犯知識は前世の記憶からなのだけれど…)


そうこの少女ルーシー・L・スミスは前世の記憶があるのだ。

ルーシーの前世は石川桜という子供だった。


14歳の桜の誕生日に曾祖父の訃報を家族から聞かされれた。

葬式の帰り大好きだった曾祖父の死に悲しみで食欲がなかったが、注文していたケーキを取りに行こうと母親と店に向かった。

しかし運が悪く刃物を持った男が強盗に鉢合わせしてしまい、腹を刺されてしまった。


目が覚めると路地裏で倒れていて、そこで現在の育て親である男性に拾われた。

己の身体が小さくなっているのを鏡で確認し、そこで転生したのだと知った。


桜から転生したルーシーは歓喜した。

この世界で『怪盗』ができると。


どうして怪盗ができると喜んだ理由を話そう。

桜の曾祖父は大昔に国中を震撼させた大怪盗だったのだ。


「私も大きくなったら怪盗になる!!」


大怪盗だと聞かされた幼い桜はとても感銘し、キラキラした目で曾祖父を見つめた。

家族は嘘よと笑っていたが、しかし桜は嘘だとは思わなかった。

曾祖父は南京錠も箱の鍵も玄関の鍵もなんでも秒で開けることができた。

その他には謎解きやパズルが得意で知識の豊富さ、有名マジシャン顔負けレベルの手品に何度も桜を驚かせた。

桜は必死に曾祖父の技術を身につけていったが、生まれた世界では披露する機会は残念ながら訪れなかった。


しかし、新しい世界ではルーシーが生きている時代に怪盗という存在が新聞に載っていた。

彼女は今でもその驚きは鮮明に覚えている。

現在住んでいる街の時代風景や科学技術レベルは、世界で有名な探偵小説の霧の都のようだった。

さらに面白いことにこの世界では魔法というものが存在した。

魔法のせいで科学技術の発達が何百年も遅れているという。

エネルギーとなる燃料は石炭や石油ではなく、魔法が中心に使われる世界。

魔法が使える者、使えない者の差で大きな貧富の差が起きていた。

下町に住む者は魔法が使えず、夜は真っ暗で、金持ちや貴族は魔法を使える者を雇ったり、魔法使いの血統により夜でも明るく温かい日常を過ごしている。

怪盗をするのに絶好の舞台だった。


それからはルーシーは魔法を独学で猛勉強猛特訓し、この世界で14歳になった年に曾祖父が立ち上げた防犯専門会社と同じようなものを作ったのだ。

設立からもうすぐ1年になろうとしている。

ルーシーは幸せそうにおやつを頬張っていた。


「そういえば聞いてくれよ。11番街の質屋で金を借りたあと、取り戻したとき預けたものではなく偽物だったって話を聞いたんだ。証拠がないからって警察も取り合ってくれなくて、泣き寝入りだって。今月の家賃が払えなくなってもあそこで金を借りるんじゃないよ、あんたたち。」


「その話って誰が被害を受けたか聞いてます?何が偽物に?」


ルーシーは持っていたフォークを置いて、エバンス夫人に顔を向けた。


「ええっと…、馬車運送の息子のトムだったかしら。ほら最近売れてる女歌手のサイン入り写真よ。口紅が付いたレアものだったのに、口紅がついてないものが返ってきたって泣き叫んでたって。」


「ふーん、ありがと。私たちも気を付けるね。」


・

・

・


店じまいが終わり、レイヴンが作ってくれた夕食を食べ終え、ルーシーは着替え始めた。

タキシードのようなデザインの服と、ふわりと広がるスカート。

太ももまであるブーツを履き、肘まで隠す同じ色の手袋はめた。


夜の帳が街を包み下ろした時間。

ルーシーは偽物を返したという問題の質屋を訪れた。


「ドミノ」

「キュキ!」


相棒のドミノは質屋にするりと侵入していった。

暫くして店長が一人だけだと告げに戻ってきた。

ルーシーはカギがかけられた扉をいとも簡単に開き、中にもぐりこんだ。


店主は部屋の奥で何かに向かって話しかけていた。


「ああ~ん。麗しのシャンネちゅあ~~ん。今日も美しい~~~。限定10名の本物のキスマーク付きのブロマイドが質に来るとは思わなかったぜ。運は俺に味方している!」


(やっぱり盗んだのね)


ルーシーはため息をついた後、胸元から名刺サイズの紙を店長の方へ投げ込んだ。


「なんだ…?なっ予告状!?怪盗クラヴィスだと!?」

「この時代の質屋は信用一番で人々の生活を助けるもの。泥棒となった者には任せられないので廃業するべきね」


ルーシーは指をぱちんと鳴らすと部屋中に煙が充満した。

煙が消えていき、店主が目を開けると、手に持っていたブロマイドも、店で預かっていた品物が全部なくなっていたのだった。


すでに店を出たルーシーはブロマイドの持ち主であるトムの寝室に忍び込み、やつれた顔で寝込んでいるトムの胸元に置いて去った。

ルーシーは一仕事終えたと屋根の上で一息ついた。

貴族街では星が見えないが、かなり離れた下町ではたくさんの星が瞬いている。

ルーシーはふと頭の中で、亡くなった曾祖父の最後の言葉が流れた。


「怪盗になるのであれば、弱き者から奪ってはならない。いつだって強者に挑むのがかっこいい怪盗だ!」


曾祖父の親指を立てて桜を見つめる壮快な笑顔はまだ瞼の裏に焼き付いている。


(大じいちゃん、この世界で大怪盗になってみせるからね)


大好きだった曾祖父の言葉を胸に、怪盗クラヴィスは決意を下町の夜空に誓ったのだった。

平成の少女向け怪盗作品が読みたくて自給を始めました。評価いただけると嬉しいです。

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