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叶え人-さよならは言わない‐  作者: 凜風 杏花
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第1回 叶え人(かなえびと)

台湾ドラマのようなお約束場面がいっぱいの、プラトニックなラブロマンス。自分好みのピュアな物語を妄想全開で書いています。脚本バージョンも作成していつか2時間ドラマに。


ヒロイン・町田杏子(まちだきょうこ26歳)

舞台は香川県。金曜日更新、全12回。

町田杏子は清楚な美人だが、服装が地味なため、あまり目立たない。会社近くのカフェで、運ばれてきたパスタをおいしくなさそうにゆっくり食べている。一方、同僚の浜野ゆき恵はいかにも元気そうなくりくり目玉で可愛い雰囲気。大きな口をあけ、ハムサンドをほおばる。


「杏子はドラマとか見ないの」


杏子、首をふって

「見ないよ。そんな時間ないもん。ネットで仕事のヒントを探してるし、読みたい本もあるし。第一、私、睡眠時間が短いとやっていけない人なんだ。あぁ、なんか素敵なこと、起こらないかな」

杏子はそう言って、ため息をつき肩を落とした。


ゆき恵が、前のめりになって

「パソコンでもドラマを見れるの知ってる?映画館に行かなくても映画も見れるし、音楽だって充実してるわよ」

ゆき恵は、いいでしょ…と言う風に杏子に向かって得意そうにあごをあげる。


杏子も、少しだけ身を乗り出して

「ふ~ん。でも、それってお金かかるよね」

 

ゆき恵は手を横に振って

「ううん、無料のドラマを配信してるところもあるし、その中に好きなものがなければ購入してもいいんだけど、わりと安いんだよね」


杏子は首をゆっくり横にふって

「ふ~ん。私は怖くて見たことないわ」


ゆき恵、急いで強い口調で言う

「もちろん、変なサイトは開けちゃだめよ。違法だったり、すごい金額を請求されたりするから。もし見たいのなら、ちゃんとしたサイトを教えてあげるよ」


数日後の深夜、杏子はパソコンで台湾ドラマを見ながら、片手を左右に振って

「ないない、こんな偶然」

手の平をストップというように前に突き出して、

「いやいや、こんなに素敵な人、現実にはいないって」

何度かこれを繰り返しているうちに、アパートの外はすっかり人通りが途絶えている。

 

ある日、会社帰りに杏子がとぼとぼと歩いていると、バス停のベンチに座っている中年のおじさんが、いきなり立ち上がり、下を向いたまま杏子にぼそっと言った。

「あなたには夢がありますか」


杏子は、立ち止まり、眉をひそめた。

「はっ?私?」


おじさん、顔をあげ、杏子をまっすぐに見ながら、さっきより大きな声で

「あなたには叶えたい夢がありますか」


杏子は、怪しいという風に少し後ずさりする。


おじさんは一歩前に出て、さらに話しかける。

「私はあなたの夢を叶えてあげられます。ただし、それは期間限定です」


杏子は顔がこわばり、聞こえなかったふりをして通り過ぎようとするが、

おじさんはさらに後ろから呼びかける。

「いいんですか、このチャンスを逃しても?あなたの大好きな人に会えるかもしれないんですよ」


その言葉に、身体がぴくっと反応して足が止まったものの、杏子はくるっとおじさんの方を振り返り、きつい声で

「何の勧誘ですか?私は普通の会社員で、あなたに払えるお金なんかないんですよ」


おじさんは下を向いて右の唇の端をすこしあげて微笑み、杏子の方を向いて真顔になる。

「お金はいりません。私は叶え人。選ばれた人の願いを叶えてあげるのが仕事なんです。」


杏子は思わずプッとふきだして、叶え人を指で指しながら

「えっ、だったらあなたのお給料はどこから出るの」


“叶え人”と名乗るおじさんは、杏子をまっすぐに見ると

「お嬢さん、世の中には人の願いを叶えることで幸せな気持ちになりたい人もいるんですよ」

そう言うと、バス停のベンチに座り直した。


杏子も、ついふらふらと叶え人と距離を置いてベンチに座る。

(なんで座っちゃったんだろ、私。でも、たくさんの車や人が通る大通りで、変なことはしないわよね。ちょっと話を聞くだけだわ)


おじさんは、ベンチの端でゆっくりと話し続ける。

「ただし、あなたの夢が叶う期間は30日。それが過ぎると、その時、あなたが何をしていても、また、望みが全部叶っていなくても、あなたは現実に引き戻されます。そして、どんな文句も抗議も受け付けられません。あなたもまわりの人々も元の生活に戻ります」

おじさんはそう言った後、少し間をおいて

「それから、これは一番お伝えしておかなければいけない事ですが…、その30日間のあなたの記憶は残りますが、あなた以外の人の記憶はすべて消されることになります。つまり、他の人には何もなかったことになります。それでよろしければこの書類にサインをしてください」


杏子はハッと我に返り、急いで

「えっ?私、だまされるとこだった」


おじさんはきっぱりと

「詐欺ではありません。その証拠に本名でなくてもかまいません。住所も印鑑も不要です。心の中であなたが叶えたい夢を願いながら、あなたの好きな名前でサインをすればいいだけ。それで契約は成立です。もちろんお金もいりません。」


杏子は信じられない気持ちでいっぱいだが、書類を隅々まで慎重に読み、考えている。


おじさんは、ゆっくりと諭すように続けて言う。

「もし願いが叶わなくてもあなたには何の損もないと思いますよ」


(確かに私にはなんの損もないかもしれない。それにこの書類には、お金のことも私に不利な条件も何にも書いてないし……。偽名でサインすればいいだけかも)

杏子、叶え人に詰め寄るように言う

「どんな夢でも叶えてくれるの」


叶え人は微笑みながら

「はい、もちろんです。それが私の仕事ですから」


杏子は、下を向き、あごにこぶしをあてながら考える。

(毎日、上司に無理難題を言われながら頑張ってるから、ひょっとしたら、これは神様がくれた私へのごほうびかも)

杏子は、顔をあげ決心したように

「いいわ、サインするわ」


叶え人、縦にゆっくり首をふる。

「わかりました。では、ここに名前を書いてください。但し、夢が叶っている30日はここに書いた名前で生活することになりますから、それをお忘れなく」


杏子、眉をひそめながら

「夢が叶っている間、ずっとサインした名前でいなくちゃいけないの」


叶え人は、あたりまえというように大きくうなずく。


(本名を書くのはいや。だけど、知らない名前で呼ばれるのはもっといや)

杏子、きっぱりと

「いいわ、ここに書けばいいのね」


叶え人が銀色のペンを渡す。

杏子は書類をベンチに置いて、少しためらった後、本名を書く。


深夜のアパートの部屋で杏子は今日の出来事を思い出している。

(今日のことはいったいなんだったの?嘘よ、嘘に違いないわ。まぁ、でも今夜だけは期待して、叶った時の夢でも見ながら眠ろうかな)


杏子、両手を上に伸ばし、あくびをしながら言う。

「お休み、マイドリーム」


翌日の会社近くのバス停で杏子、立ち止まってキョロキョロと叶え人を探す。

「いない…わね、当然」

叶え人と契約した翌日から、疑いながらも何かを期待する杏子。そして出逢いが…。第2回「夢の始まり」は8月11日(金)夜掲載。

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