第2回 夢の始まり
台湾ドラマのようなお約束場面がいっぱいの、プラトニックなラブロマンス。自分好みのピュアな物語を妄想全開で書いています。脚本バージョンも作成していつか2時間ドラマに。
ヒロイン・町田杏子(まちだきょうこ26歳)
舞台は香川県。金曜日更新、全12回。
会社の休憩室で、杏子は近くのコンビニで買ってきた弁当を広げながら
「なんにもないね、今のところ」
ゆき恵がカップスープにお湯を入れながら聞く。
「何が」
「実はね……」
と杏子は昨夜のことを話し始める。
「……というわけなのよ」
ゆき恵、両手を口に当て、大笑いする。
「や~だ、深刻な話かと思ったら、そんな笑い話」
杏子はゆき恵をにらみながら、あわてて言う。
「私だって、も、もちろん信じてないわよ。信じてないに決まってるじゃん」
「ねっ、ところで何をお願いしたの」
杏子、人差し指を立てて唇にあてる。
「う~ん、それは内緒」
夕方、会社近くのバス停で、杏子はもう一度ベンチを確かめる。
「いない…わね、やっぱり」
しょんぼり歩きながら帰ろうとするが、抱えていた雑誌を落とし、拾おうとかがむ。
その時、横から誰かが先に雑誌を拾ってくれ、見上げた杏子は驚きで目を大きく見開く。
「あっ、あっ、アー」
あとの言葉が続かない。
「どうぞ」
男性が、拾った雑誌を杏子に差し出す。
杏子はしゃがんで男性を見上げたまま、言葉を探す。
「アー、アー!」
男性が微笑む。
「ぼくを知っていますか」
杏子は声が出ずに何度もうなずく。
「おやすみなさい」
そう言って、男性はゆっくり立ち去ろうとする。
杏子はためらった後、思い切って
「あの、あの、アージ……」
男性はふりむいて微笑みながら
「はい」
と答える。
続きの言葉がまったく出ない杏子の様子に、アージは首をかしげながら
「さよなら」
と言って立ち去る。
あぜんとして、杏子はしゃがんだまま彼を見送る。
アパートの部屋に着いた杏子は、居間に座り、テーブルを両手で一回たたく。
「あ~、ばかばか杏子、なんでひきとめなかったの。なんでひと言、ファンです……とだけでも言えなかったの」
テーブルを今度は二回たたく。
そして、ハッとした表情で顔を上げる。
「えっ、これってもしかして、叶え人のおじさんに頼んだこと?」
しかし、すぐに手を横に振って
「違う、違う、恋の相手がアージだなんて、いくらあのおじさんが本物の叶え人でも、無理、無理」
叶え人の書類に名前を書き込む前に、杏子が願ったことは
(一生記憶に残るような本当の恋がしたい)
杏子は両手で顔をはさみながら
「あ~、なんでインチキに決まってるのに本名まで書いちゃったのかなぁ…おじさん、きっと笑いながらその辺に捨てたよね。えっ、捨てた?じゃあ、誰かが拾った?えっ、えっ、あのバス停、会社の近くだよ。会社の人が拾ったかも。わ~、どうしよう」
そう言うと、杏子は急に立ち上がった。
「ばかね、私。書類には夢が叶うとも書いてた。あぁ、でもいいや。誰かに拾われたら、私が書いたんじゃないって言おう」
翌朝、会社のエントランスでエレベーターを待っている時、ゆき恵が
「ねぇ、今度、港の近くで夏祭りのイベントがあるんだけど、彼氏いない同士なんだから一緒に行かない」
杏子はあごを突き出して
「彼氏いない同士っていうのが気にいらない。けど、まぁ、ホントのことなんだよね、うぅ」
杏子はゆき恵にもたれかかる。
ゆき恵、人差し指をぴんとたてて言う。
「でもさぁ、お祭りで運命の人と出会うかもよ」
「そんなにうまいこといくなら、もう誰かに出会ってるはずよ。期待しない、期待しない、期待しないよ、絶対!」
「なんで、そんなに力を入れて三回も言ったの」
「言い聞かせてるのよ、自分に。この間のおじさんの話、覚えてるでしょ」
「はは~ん、さてはその時、彼氏ができるようにお願いしたとか……」
杏子、無言でぷいと横を向く。
杏子はお昼休みに会社近くの本屋に行き、雑誌を探す。
「あった、あった、これ」
杏子、ぱらぱらとページをめくって、
「あ~、やっぱりねぇ。ショック……」
ふ~っとため息をつき、
「アージに婚約者がいるって本当だったのね」
ライトアップされた船や大勢の人達でにぎわう週末の港で、屋台を冷やかしながら歩いていた杏子とゆき恵だったが、子供たちの輪投げに見入っていた杏子は、ゆき恵とはぐれてしまう。
スマホを取り出して、
「ゆき恵、どこにいるの」
「それがねぇ、はぐれている間に久しぶりで高校の先輩にばったり。話し込んじゃってたの」
「そうなんだ。今、どこ?これから行くわ」
ゆき恵は声をひそめて
「杏子、言いにくいんだけどさ、このあとは別行動にしてもいい?」
「えっ、なんで」
ゆき恵、さらに小さな声で
「実は~、ばったり会ったのって、高校の時に好きだった先輩なんだよね」
杏子、目を見開いて
「ふ~ん、そりゃあ私より大事よね、だ・ ん・ぜ・ん!」
「あ~、そんな風に言わないでよ。今度埋め合わせするから、ごめんね、ホントに」
ゆき恵との電話を切って
「何よ、叶え人のおじさん、叶える相手を間違えたんじゃないの。ゆき恵は今頃……あぁいいなぁ」
そう言って、石のベンチにドスンと腰掛けた杏子は、大きな旅客船を見ながら、しばらくぼんやりしていたが、
「あ~あ、なんか猛烈におなかが空いちゃった。なんか食べて帰ろう」
と立ち上がる。
杏子は、お祭りの屋台が途切れた場所にある小さなラーメン店で立ち止まり
「おいしいかなぁ、このお店」
と、扉を少し開けて店内をのぞく。
入ろうかどうかしばらく迷っているうちに、背後に立った人が杏子に話しかける
「ここはおいしいですか」
杏子が、振り向くと、そこには……。
出逢った彼は運命の人なのか…。
第3回「再会」は8月18日(金)夜掲載。




