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叶え人-さよならは言わない‐  作者: 凜風 杏花
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2/12

第2回 夢の始まり

台湾ドラマのようなお約束場面がいっぱいの、プラトニックなラブロマンス。自分好みのピュアな物語を妄想全開で書いています。脚本バージョンも作成していつか2時間ドラマに。


ヒロイン・町田杏子(まちだきょうこ26歳)

舞台は香川県。金曜日更新、全12回。

会社の休憩室で、杏子は近くのコンビニで買ってきた弁当を広げながら

「なんにもないね、今のところ」

   

ゆき恵がカップスープにお湯を入れながら聞く。

「何が」


「実はね……」

と杏子は昨夜のことを話し始める。

「……というわけなのよ」


ゆき恵、両手を口に当て、大笑いする。

「や~だ、深刻な話かと思ったら、そんな笑い話」

   

杏子はゆき恵をにらみながら、あわてて言う。

「私だって、も、もちろん信じてないわよ。信じてないに決まってるじゃん」


「ねっ、ところで何をお願いしたの」


杏子、人差し指を立てて唇にあてる。

「う~ん、それは内緒」


夕方、会社近くのバス停で、杏子はもう一度ベンチを確かめる。

「いない…わね、やっぱり」


しょんぼり歩きながら帰ろうとするが、抱えていた雑誌を落とし、拾おうとかがむ。


その時、横から誰かが先に雑誌を拾ってくれ、見上げた杏子は驚きで目を大きく見開く。

「あっ、あっ、アー」

あとの言葉が続かない。


「どうぞ」

男性が、拾った雑誌を杏子に差し出す。


杏子はしゃがんで男性を見上げたまま、言葉を探す。

「アー、アー!」


男性が微笑む。

「ぼくを知っていますか」

   

杏子は声が出ずに何度もうなずく。


「おやすみなさい」

そう言って、男性はゆっくり立ち去ろうとする。


杏子はためらった後、思い切って

「あの、あの、アージ……」


男性はふりむいて微笑みながら

「はい」

と答える。

   

続きの言葉がまったく出ない杏子の様子に、アージは首をかしげながら

「さよなら」

と言って立ち去る。


あぜんとして、杏子はしゃがんだまま彼を見送る。


アパートの部屋に着いた杏子は、居間に座り、テーブルを両手で一回たたく。

「あ~、ばかばか杏子、なんでひきとめなかったの。なんでひと言、ファンです……とだけでも言えなかったの」

テーブルを今度は二回たたく。


そして、ハッとした表情で顔を上げる。

「えっ、これってもしかして、叶え人のおじさんに頼んだこと?」

しかし、すぐに手を横に振って

「違う、違う、恋の相手がアージだなんて、いくらあのおじさんが本物の叶え人でも、無理、無理」


叶え人の書類に名前を書き込む前に、杏子が願ったことは

(一生記憶に残るような本当の恋がしたい)

杏子は両手で顔をはさみながら

「あ~、なんでインチキに決まってるのに本名まで書いちゃったのかなぁ…おじさん、きっと笑いながらその辺に捨てたよね。えっ、捨てた?じゃあ、誰かが拾った?えっ、えっ、あのバス停、会社の近くだよ。会社の人が拾ったかも。わ~、どうしよう」


そう言うと、杏子は急に立ち上がった。

「ばかね、私。書類には夢が叶うとも書いてた。あぁ、でもいいや。誰かに拾われたら、私が書いたんじゃないって言おう」


翌朝、会社のエントランスでエレベーターを待っている時、ゆき恵が

「ねぇ、今度、港の近くで夏祭りのイベントがあるんだけど、彼氏いない同士なんだから一緒に行かない」

  

杏子はあごを突き出して

「彼氏いない同士っていうのが気にいらない。けど、まぁ、ホントのことなんだよね、うぅ」

杏子はゆき恵にもたれかかる。


ゆき恵、人差し指をぴんとたてて言う。

「でもさぁ、お祭りで運命の人と出会うかもよ」


「そんなにうまいこといくなら、もう誰かに出会ってるはずよ。期待しない、期待しない、期待しないよ、絶対!」


「なんで、そんなに力を入れて三回も言ったの」


「言い聞かせてるのよ、自分に。この間のおじさんの話、覚えてるでしょ」


「はは~ん、さてはその時、彼氏ができるようにお願いしたとか……」


杏子、無言でぷいと横を向く。


杏子はお昼休みに会社近くの本屋に行き、雑誌を探す。

「あった、あった、これ」

杏子、ぱらぱらとページをめくって、

「あ~、やっぱりねぇ。ショック……」


ふ~っとため息をつき、

「アージに婚約者がいるって本当だったのね」


ライトアップされた船や大勢の人達でにぎわう週末の港で、屋台を冷やかしながら歩いていた杏子とゆき恵だったが、子供たちの輪投げに見入っていた杏子は、ゆき恵とはぐれてしまう。


スマホを取り出して、

「ゆき恵、どこにいるの」


「それがねぇ、はぐれている間に久しぶりで高校の先輩にばったり。話し込んじゃってたの」


「そうなんだ。今、どこ?これから行くわ」

   

ゆき恵は声をひそめて

「杏子、言いにくいんだけどさ、このあとは別行動にしてもいい?」


「えっ、なんで」


ゆき恵、さらに小さな声で

「実は~、ばったり会ったのって、高校の時に好きだった先輩なんだよね」


杏子、目を見開いて

「ふ~ん、そりゃあ私より大事よね、だ・ ん・ぜ・ん!」


「あ~、そんな風に言わないでよ。今度埋め合わせするから、ごめんね、ホントに」


ゆき恵との電話を切って

「何よ、叶え人のおじさん、叶える相手を間違えたんじゃないの。ゆき恵は今頃……あぁいいなぁ」

そう言って、石のベンチにドスンと腰掛けた杏子は、大きな旅客船を見ながら、しばらくぼんやりしていたが、

「あ~あ、なんか猛烈におなかが空いちゃった。なんか食べて帰ろう」

と立ち上がる。


杏子は、お祭りの屋台が途切れた場所にある小さなラーメン店で立ち止まり

「おいしいかなぁ、このお店」

と、扉を少し開けて店内をのぞく。


入ろうかどうかしばらく迷っているうちに、背後に立った人が杏子に話しかける

「ここはおいしいですか」


杏子が、振り向くと、そこには……。

出逢った彼は運命の人なのか…。

第3回「再会」は8月18日(金)夜掲載。

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