表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/23

第四章 危機(1)

世間が夏休みに突入し、龍時や夏泉、眞銀の全員は休みの時期に入った。ただ龍時と夏泉の関係は、出会った去年の夏から冬にかけてまでと比べると、何も変化がない状態が続いていた。


夏泉が龍時に好意を寄せるようになったその当初は、龍時も夏泉という存在に慣れていなかったため、小さな要因が二人の関係を変化させていた。


しかし、龍時が夏泉の存在に慣れてしまった最近では、夏泉が大胆な行動に出たところで、龍時との関係に新たなものが作り上げられることはなかった。


面倒臭がる龍時を吊り橋に連れて行ったり、有名な心霊スポットに連れて行ったりしたのは、全て夏泉が吊り橋効果を期待して行ったことである。吊り橋効果とは、恐怖による感情の揺れを恋愛と錯覚させることで、これならば龍時も動くかもしれないと夏泉は思ったのだ。


しかし、結果としてその作戦は失敗に終わり、夏泉自身がその効果からか龍時にさらなる想いを寄せることになった。ブーメランを食らった形である。


夏泉はその他にも龍時に対して、色気を使ったり有りもしない相談に乗ってもらったりと多様な作戦を遂行している。それでも、龍時が靡いている様子はなかった。


夏泉は何度も龍時が他の誰かに想いを寄せていないか眞銀に尋ね、何度もそんな事実はないはずだと伝えられている。しかし、最近ではそんな眞銀こそが最もライバル視しなければならない人間なのかもしれないと、夏泉は徐々に考えるようになってきていた。


龍時にここまで好意を抱くようになった理由は、本人である夏泉にも分かっていない。しかし、夏泉は次なる作戦を考え続けていた。


どのような結果であれ、龍時からはっきりとした言葉が聞きたい。そう思っていた夏泉に諦めるつもりはなかった。


夏休みが始まって一週間ほどが経ったころ、夏泉はいつものように頭の中で次なる作戦を考えながら、スーパーマーケットの中を徘徊していた。


この日、実家で一緒に住む母から買い出しを頼まれ、夏泉は近所のスーパーまで来ていた。ただそんな中でも努力は惜しまなかった。


色々な食材が陳列されている中を、夏泉は目を通しながら進む。そして龍時に振る舞うための新しいメニューを考えた。


夏泉が作った料理の数々に龍時が文句をつけたことはない。ただ、食堂感覚で食べている龍時に夏泉は満足していなかった。


龍時は眞銀が作る料理に対しては評価をしている。それだけでなく、龍時は色々と眞銀のことを知っていて、同時に眞銀は夏泉以上に龍時のことを理解していた。


今はまだ、眞銀は龍時に対して好意を寄せている素振りを見せていない。しかし今のままでは、眞銀がそんな気を起こしてしまったとき、夏泉に勝ち目はなかった。


夏泉はそんなことを考えて、早急に龍時を振り向かせたいと感じる。ただその一方で、夏泉は自分の弱さに嘆くことになった。


結局、夏泉の頭だけでは新しい考えが思い浮かぶことはなく、夏泉は言われたものだけを買ってスーパーマーケットを出ることにした。


外は耐え難い夏の空気が占めていた。店内と比べるとまるで地獄のような場所である。


夏泉は急いで家に帰ろうと足を踏み出す。それと同時に、夏泉は龍時が暑さで倒れていないか心配になった。龍時は家計的に空調を使えないはずなのだ。


そうしてぼんやりと龍時のことを心配しつつ、夏泉は帰路につく。しかし次の瞬間、夏泉は再びスーパーマーケットに入店することになった。それは決して、外の暑さに勝てなかったわけではない。


夏泉の目が、道路を挟んで反対側の歩道を歩く龍時の姿を捉えていたのだ。


ただ普通であれば、夏泉はすぐにでも龍時に声を掛けに行っている。龍時が夏泉の家の近くまで行動範囲を広めていたとしても、それは疑うべきことではないのだ。何の問題もないはずだった。


しかし、夏泉が咄嗟に姿を隠したのには理由があった。それは、龍時が夏泉の知らない女性と一緒に歩いていたからである。龍時に嫌がっている様子はなく、むしろ受け入れている雰囲気を夏泉は感じとる。


「……誰?」


夏泉は龍時らにバレないように、店内から二人のことを観察する。仮に手を繋いでしまっていれば、夏泉はその場で泣き崩れたかもしれない。しかし、二人は横に並んで歩いているだけで、夏泉は詳しい関係を知ることが出来なかった。


龍時ら二人は夏泉の視線に気付くことなく交差点へ向かっていく。夏泉はそれを追いかけるべきか戸惑う。しかし、最終的には諦めることにした。


決定的な瞬間を夏泉は見たくなかったのである。


夏泉は龍時らの姿が見えないようになってからも、スーパーマーケットの店内で一人悶々と考え続けた。龍時の隣にいた女性のことを知りたいと思ってしまうのは必然である。しかし、それが行き過ぎた行為であり、龍時に嫌われるようなことがあっては元も子もないような気がしてならなかった。


眞銀に助けを求めることも夏泉は考えた。しかし、今の夏泉は眞銀もそれなりに危険人物だと認識している。ここで眞銀に自分の悩みを打ち明けることは、夏泉には出来なかった。


夏泉の思案は、母親から帰宅の催促メールが届くまで続けられた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ