【第1話】来世は村人Bでお願いします
異世界に転生してしまった元社畜の主人公が、特別な力を持ちながらも英雄や勇者を目指すことなく、平凡で穏やかな「村人B」としての人生を送ろうとする。
何気ない日常の中で経験値を獲得し、少しずつ成長していく主人公。 しかし、本人はあくまで平穏な生活を望んでいるようで……?
果たして彼は、望み通りののんびりした人生を送ることができるのでしょうか。
どうか、主人公、ミナモ・アステルの第二の人生を温かく見守っていただければ幸いです。
それでは、異世界で始まる彼の物語をお楽しみください!
疲れた。
もう、本当に疲れた…
俺、古谷湊は暗い部屋の中で天井を見つめていた。
明日も仕事…
明後日も仕事…
その先も、ずっと同じ様な日々が続いていくだろう。
朝起きて、仕事に行く。
周囲に気を使い、上司にはへつらい神経を擦り減らしながら日々を送る。
頼まれたことは断れず、上手くいかなければ自分を責める。
家に帰っても何もする気が起きない。
会社に入るまでは好きだったゲームも、アニメも、いつの間にか楽しめなくなっていた。
休日ですら、寝ても頭の中には仕事の事が一杯で休んだ気がしないのである。
何もしなかった…何も出来なかった自分に罪悪感を覚え、何かをしようとしても身体が動かない。
そんな日々が続いていた。
病院では精神的ものだろう、と診断された。
何が辛いのか。
どうすれば楽になるのか…
自分でも、もうよく分からなかった。
「もう、何もしたくねぇな…」
声に出してみても何も変わらない。
誰かに助けてほしい。
でも、誰かに相談する気力すら残っていない。
そんな自分が嫌だった。
頑張らなければ…ちゃんとしなければ…
そう思うたびに、心が重くなっていく。
もう十分だった。
何者かになろうとするのは…
人から認められようとするのは…
誰かの期待に応えようとするのは…
「…来世があるなら」
俺はポツリと呟いた。
「村人Bがいいな…」
勇者なんて、絶対に嫌だ。
王様にも、裕福な貴族にも、街一番の天才にもなりたくない…
特別な才能なんていらない。
ゲームのボブキャラ…
ただ普通に、平和に暮らしたい。
朝起きてご飯を食べる。
天気が良かったら散歩をしたり、自分のペースで仕事をして疲れたら寝る。
好きな事を目一杯して、眠たくなったら眠る。
誰かと競争する必要もない。
誰かに勝つ必要もない。
ただ、静かに生きていきたい。
「村人Aでも良いけど…Bがいいかな。」
何故Bなのか自分でも分からない。
そうだな…Aよりも目立たず、木の役より何となく落ち着く。
そんなどうでもいい理由だった。
俺は少しだけ笑った。
こんな事を考える余裕があるのなら、
まだ大丈夫なのかもしれない。
そんな事を思いながら布団を肩まで引き上げた。
「おやすみ…」
誰に言うでもなく呟いて目を閉じた。
明日の事はまた明日考えよう。
今はただ眠りたかった…
△
…あたたかい。
最初に感じたのは、それだった。
身体全体が何か柔らかなものに包まれている。
意識が浮かび上がってくる…
けれど、目を開けれない。
いや、いつもと違う…開け方が分からない…
……おかしい。
俺は昨日確かに自分の部屋の中で寝たはずだ。
それなのにどうしてこんなに身体が動かないのだろう…
うっ……!
指を動かそうとする。
……ピクリっ。
僅かに動いた。
腕を動かしてみるか…
動かない。
足はどうだ……
…パタパタ……
……ん?何だこの感覚は…?
まるで俺の身体じゃないみたいだ。
そこでようやく目が開いた。
ここはどこだ…?
知らない天井…
近くには誰かの顔がある。
誰だ?この女性は…?
年齢は二十代後半位…?だろうか。
優しそうな目をした女性がこちらを見つめている。
「…よかった。目を覚ましたわね。」
知らない言葉のはずなのに意味がわかる。
その前にこの状況はどういう事なんだ…
女性が、すっと俺を抱き上げた。
視界が高くなる。
いや、高くなると言うより、抱き上げられている。
「元気な男の子よ!」
女性は嬉しそうに笑った。
「お父さんにも見せてあげなくちゃ!」
ん?男の子…?
俺が?
いやいや、ちょっと待て。
一旦状況を整理しよう。
俺は、古谷湊。
仕事に疲れて心を病んで、昨夜は自分の部屋で眠ったはずだ…
そして今、知らない部屋で知らない女性に何故か抱き上げられている。
しかも身体が全く動かせない…
「あなた、見て!可愛いでしょ、男の子よ!」
目の前に日焼けをした男がいる。
「可愛いなぁ…お前にそっくりだ。男の子って事は…名前はミナモだな!」
「可愛い…?」「ミナモ」って…俺、俺のことか…!?
ここで俺は悟った。
そうか…俺はどうやら転生しちまったらしい。
読んでくださりありがとうございました。
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