気難し屋の女王様?「メークイン」
じゃがいもの品種のお話いろいろ。1回目の男爵はいかがだったろうか。読みやすくなっていたなら書いた人間としてはそんなにうれしいことはない。
さて、男爵ときたら次はということで私の中で2回目に来る品種はもう完全に定まっている。長らく男爵と対にして語られることも多かった「メークイン」だ。歴史的に見てもこの2つを出さなきゃじゃがいも語りは成り立たない。こちらもじゃがいもの100年選手、メークインの話をしていこう。
メークインの生まれも男爵と同じくイギリスだ。男爵が明治時代に入ってきたのに続いて大正時代に日本へ渡ってきた。解放的で洗練された当時の文化を表すように、メークインの芋の形はなかなかお洒落だと思うのは私だけだろうか。あのつるりとした卵形のルックスは、今売り場に並んでいても何となく、気品があるような気がする。
メークインは味の面では、しっとりとして煮崩れしにくく、煮物に向くとされる。ホクホクの男爵と対照的だ。実際私も使ってみたところ、長時間の煮込みによく耐え、かつ、冷めたときに出汁やソースの味をよく吸い込む。この特性をもって暇庭は、おでん種にこれを推したい。じゃがいもをおでんには使わないだろというのなら、洋風にポトフを提案しよう。乱暴に言えば洋式のおでんで、これもまたスープのうまみをよく吸って美味しくなる。
前回、男爵の欠点はその凸凹の強い形状による皮剥きのしづらさにあると述べた。そして男爵と対照的な皮剥きの特性こそ、メークインの抜きん出た強みである。メークインはとても皮剥きしやすい。芽が浅くてやや縦に長い形状は握るときに手にすっと馴染み、皮剥き機にしろ包丁にしろ皮剥きに苦労することがない。台所にはあまり関係ないが、食品加工工場におけるオートメーションの皮剥きでもこの特性は好まれたのだとか。
そんなこんなでハッキリとした個性で明確に自分の立ち位置を獲得した、じゃがいもの中のお洒落さん担当メークインだが、個人的には大変育てるのが難しいじゃがいもだとずっと思っている。
何が悪いのかよくわからないのだが、暇庭が育てたメークインは小さくていくらも採れないか、あるいは一株につき巨大な、メガネケースのような芋が一個採れて終わり、というような、両極端な結果になり、残念ながらそのどちらも良い収穫とは言い難い。名前も相まって、わがままで気難しい女王様のようだと思ったりする。この栽培の難しさは全国共通なのだろうか。もしかして地域的な問題なのかもしれない。私が住む街ではメークインって難しい芋だよね、という認識がすっかり定着し、基本的にあまりメークインを作る人はいないのだが、これを読む皆様の地域はいかがだろうか?差し支えなければ感想で意見を頂きたい。
さて、話が行ったり来たりするが、私は青果部門に就職してからの約8年を、メークインとは煮物に使うじゃがいもであると信じて生きていた。その線引きが自分でも驚くほど頑固であったということに気がついたのは、あるとき親戚の家で出てきたポテトサラダを口にしたときだった。暇庭家でもポテトサラダは作るし食べる。のだが。その時親戚の叔母様が作ってくれたポテトサラダは、それまでの私のポテトサラダの概念を一新するものだった。
「これ、おいしいです。なんかなめらか?というか。しかも、マヨネーズの味じゃない……ですよね?さっぱりしてる。」
料理上手の叔母様が、いかにも満足そうに、ムフフ、と笑う。
「でしょ。これねえ、マヨネーズじゃなくて、レモン汁に塩と粗挽き胡椒を混ぜたやつで味付けしたの。具になったベーコンの脂以外は入ってないからね、ホントのサラダなんだ。」
マヨネーズで和えちゃうと、もうあれはね、炭水化物でしょう。サラダじゃないよという叔母様。
言われてみればそのとおりかもしれない。ただでさえでんぷん質のじゃがいもに、油がベースのマヨネーズを混ぜてサラダですと言い切るのは、サラダという概念に対して不誠実でないかと言われれば、そのストイックさに驚きはするけれど、どこか納得できるような気がする。
「それとねえ、じゃがいもは何使ったと思う?」
「え、品種ですか?」
「そう。わっかるかな〜?」
叔母様が、青果部門のいち社員である私を試すように問いかけてくる。
なんだろう……じゃがいも……何使った?油を使わずにこれだけサラサラとなめらかな口どけ。肉質がきめ細かいのだ。男爵……ではない。男爵の肉質はきめは平均から、やや粗め。では、崩すのが容易できめ細かい品種は……。
「キタアカリですか?」
安直に高でんぷんの、マッシュポテトに最適と言われるじゃがいもを答えるが、当然のごとく外れる。
「ちがいます。これねえ、メークインでやったの」
「メークインですか!?」
煮物用のじゃがいもだと無意識に選択肢から外していたので、メークインの名前で面食らう。全くの予想外。メークイン……ポテトサラダにするとこんなに、美味いのか……。
青果部門に勤めると様々な知識をつける必要があるが、知識に縛られると選択肢を自分から狭めてしまうものだとその時、痛感した。以来、品種による調理の適不適の話は、絶対ではなく常に例外はあると思うべきだ、と認識を改めている。
事実、しっとり煮崩れしにくいと言われるじゃがいもは、丁寧にマッシュするとホクホクタイプのじゃがいもとはまた別方向のおいしさをもつことが多いことを後に経験することになる。人生は何事も勉強である。
メークイン。英国生まれのわがまま女王様は、私に大きな学びをくれた。かつてはじゃがいもの中では特に好きでも何でもなかった品種だが、今思い返すと、私の「野菜観」とでも呼ぶべきものに、しっかりとあの卵型の芋の形が感動とともに刻まれている。
メークインの花は比較的濃い紫色をしていて、これはこれで大変美しい。うまくいく年は少ないし、そもそも育てない年も多いが、農道のそばの畑にメークインの花が咲いていると、この人作るの上手だなあと尊敬の念が湧く。
栽培のほうでもうひとつ、静岡県三方原などに有名な産地のある男爵と比べると、メークインの産地と問われたとき北海道以外が出てこない。寒い地域の方が栽培がうまくいくのだろうか……謎だ。




