第174話 宝石と寿司⑤
前回のあらすじ:
ダブルイナリスカウト。
◆◆◆
「ええい! 貴様、何をしに来た! 私の質問に答えなさい!」
イナリスカウトもどきがもう一人のイナリスカウトに向かって吠える。
身長差がなかったら混乱するような状況だ……
「おたくこそ何しとんねん。この店マーク付いとるやろ」
逆さまの寿司のマークを指差す関西弁っぽいイナリスカウト。
「この店の上納金が無いと報告があったのです! 我々の活動に必要な資金源ですよ!?」
「無職はガキ派の連中だけやん。一緒にせんといてくれる?」
「き、貴様ぁ! 寿司業界への復讐を舐めているのかぁ!」
仲間割れ……? 何が起きている?
「……英莉ちゃんは何が起きているのかわかるかい?」
おばあちゃんが私にこっそり耳打ちする。
「わかんない……こんなの初めてで……」
「ふむ……少し黙って見守っておくかね」
こんな状況にも関わらず、おばあちゃんはいつも通り落ち着いている。
お店の人達も何故か静観しているようだし……様子を見るしかないか。
「ぬうう! イナリスカウトの序列は腕前で決まる! あなたもこの黒鷲を見て何もわからぬ素人ではありませんよねぇ!? 大人しく私に従えば良いのです!」
イナリスカウトもどきは黒鷲の刃先を関西イナリスカウトに向ける。
ちょっと良くない感じになってきた……
「ふふ……そんなペラい柳刃が黒鷲なわけあるかい! ガキ派はこんなんばっかやな!」
「な、な、な、何を証拠に、私の黒鷲が偽物だと!? 証拠! エビデンスを出しなさい!」
目に見えて動揺するイナリスカウトもどき。どうやら手にしている黒鷲も偽物のようだ。
「ガキ派は知らんのか、うちのボスが黒鷲の本物を持ってる事……」
それはそれとして本物はあるんだ。本物の持ち主はイナリスカウトの上司にあたる人物……? 寿司罵倒協会の組織図が欲しい。
「そ、そんな実力者がなぜ我々の中にいるのですか!? あり得ない話!」
「まぁ、色々あるんやろ……それよりこれ以上の長話はお店の迷惑になる。そろそろ、ご退場願おうか。イナリスカウトの姿で負けたらクビ。ガキ派でも知っとるよなぁ?」
関西イナリスカウトから殺気が漏れ出す。
「私は! 負けていない! うおおおおぎゃぼあ!?」
イナリスカウトもどきが懐に手を伸ばす! が、何かする前に関西イナリスカウトの飛び膝蹴りがイナリスカウトもどきの仮面を粉砕! その膝はもどきの顔面にめり込んでいる! そのままもどきは床に沈んで動かなくなった。若干痙攣してるし、生きてると思う。顔は……酷い事になっているけど、面識の無い男性という事だけはわかった。
「ふう……お騒がせしました。皆様の貴重なお時間を無駄にしたお詫びに、この場のお代はうちが払いますんで」
関西イナリスカウトの声掛けに、呆気に取られていたお客さんと店員さん達が拍手をする。その拍手の裏で、スーツを着た屈強な男性二人が静かに入店し、イナリスカウトもどきをどこかに連れて行ってしまった。だ、大丈夫かな?
「あー、そんな心配せぇへんでも大丈夫よ。琵琶湖に沈めたりはせん、環境破壊になるしな。お話が済んだらちゃんと病院に連れてくで」
私の心を読んだかのように関西イナリスカウトが話し掛けて来た。
……自分はあまり感情が顔に出ない方だと思っていたけど、山本くんは普通にわかってるみたいだし、案外そうでも無いのかもしれない。
「おっと、お父さんのスマホ返しますわ。突然すみませんでしたねぇ」
「いや、まぁ、返して貰えるなら……」
あの飛び膝蹴りと連れ去られたもどきを見たせいか、お父さんは素直に関西イナリスカウトからスマホを受け取った。
「あなた方は……何者ですか?」
初見のお母さんから至極真っ当な疑問が関西イナリスカウトに投げかけられた。
未だに私も良くわかっていない。スシバトルの段階で。
「お姉さんを巻き込みたく無いんで秘密。堪忍な」
「お、お姉さん!? そ、そ、そうね。余計な事に首を突っ込むのは良く無いわね……」
お母さん……関西イナリスカウトはお世辞がうまいようだ……
「ジジイの言ってた寿司屋の狐面……酔っ払いの戯言だと思っていたがねぇ……本当にいるとは……」
おばあちゃんはイナリスカウトの存在を知っていたらしい。この状況で冷静だったのは事前知識があったからだろうか。
「おっと、お母さんは知っとったか……お母さんであってるよな?」
……さっきのはお世辞じゃなかったようだ。
「祖母です。先程のは母です」
関西イナリスカウトに真実を伝える。
「マジかよ……」
……関西イナリスカウトは随分と人間くさい感じがする。
もしかしたら……会話できるかもしれない。
「イナリスカウト……さん。聞きたい事があります。今、お時間頂けないでしょうか」
「……奇遇やな。私も嬢ちゃんと話したかったんよ。ええっと、でも、二人きりは嫌やろ? ご家族同席がええか? 翡翠の店主ー! 個室空いてる?」
関西イナリスカウトが店主に確認を取る。
「ああ、二階の個室が今は空いているよ。予約の時間までなら好きに使ってくれ。というかあんたか……いきなり違うイナリスカウトが来たからびっくりしたよ……」
「いや、ほんまに……ガキ派は礼儀がなっとらん。怪我は大丈夫なん?」
「撃たれた直後はやばかったが……今は平気だ。この程度の怪我じゃ俺の寿司魂は止められないよ!」
「それならええけど……無理せんといてな」
店主とイナリスカウトの会話から二人がそれなりに信頼関係を築いているのが伺える。寿司罵倒協会は寿司屋の敵のはず……よくわからなくなってきた……
店主の指示で店員さんの一人が二階に向かっていく。席の準備をしてくれてるようだ。
「先に聞いとくけど……嬢ちゃんは私に何が聞きたいん?」
イナリスカウトはこちらを見ずに私に質問をする。
聞きたい事は山程ある。でも一番に聞いておきたい事は……
「寿司罵倒協会……イナリスカウトの目的は何?」
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




