第123話 スシバレットトレイン③
前回のあらすじ:
なんか寿司界隈の偉い人を相手に寿司を握る事になってしまった鳥路さん。
◆◆◆
客室乗務員の格好に着替えた俺達。鳥路さんはそれに加えてエプロン装備だけど、いつもと違う姿に少しドキドキしてしまった。
「お二人ともお似合いですよ! えーっと、あとは……食材の確認をしましょうか!」
泉さんがワゴンに備え付けられたクーラーボックスから食材を取り出し始める。
……鳥路さんは慣れない格好に少し落ち着かない様子だ。
「……山本くん、あんまりジロジロ見ないで」
「え!? ご、ごめん!」
俺のせいだった。すみません、気を付けます……
「こちらが本日の食材です! マグロの赤身と中トロ、サーモン、アジ、カンパチ、イカ、ホタテ……そして、ウニです! お米もお酢も厳選したシャリ、軍艦用の海苔も良い物をご用意しました!」
泉さんが鮮度の良さそうな食材を順に紹介してくれた。
全部で八品か、結構あるな……ウニ以外は寿司ネタ用に切り分けられ、下処理済みのようだ。
「そしてそしてぇ……寿司と言えばワサビ! 今回の企画のために特別に用意した静岡県産の真妻山葵です!」
葉っぱと茎がついた山葵を自慢げに取り出した泉さん。よくわからないけどお高い感じの山葵なのだろう。
「おろし器はありますか?」
鳥路さんがおろし器について泉さんに質問する。
「もちろん! 鮫皮おろし、卸金の二つ用意しています!」
「おお……」
木製に鮫肌を貼り付けたやつと金属製のやつだ。鳥路さんが準備の良さに感嘆の声を漏らす。しかし、なんでわざわざ二種類も……ん? あれ? そう言えば……
「鳥路さん。スシバトルの時ってワサビを使う事があまりなかったよね?」
鳥路さんだけでなく、対戦相手もワサビを使っていなかった気がする。
「鮮度の良い寿司ネタでしか勝負していないし、ワサビが必要無い寿司ネタも多かったから。それに、元々ワサビの用途は殺菌効果による食中毒防止や香りによる臭み消しのためだし……でも、これぐらい良い山葵があるなら話は別」
「なるほど……」
鳥路さんが必要性を感じる程度に良い山葵である事がわかった。
初めて会った時も寿司屋に本ワサビを偽って粉ワサビを使われた事にキレてたんだよな、鳥路さん。
「……包丁的な物は?」
鳥路さんがワゴンの中も探しているが、それらしき物は無い。
「あ、無いですね。危ないので」
泉さんが当然のように答える。
刃物だもんな。よくよく考えたら運行中の新幹線で寿司握るのもどうかしてると思う。
「……卸金の方で皮をこそげば良いか。山本くん、山葵のおろし方はわかる?」
「え? あれでしょ。円を書く感じで……」
これも確か鳥路さんが実演してくれた記憶がある。
「そう。できるだけ力を抜いて。私が握る少し前にすりおろして欲しい」
「わかった」
手伝える事があるか不安だったけど、ありそうで安心した。
「ああ! もうこんな時間! 私も同行しますが、お寿司はお二人にお任せします! 一人三品までですし、今日は満席では無いのですんなり終われると思いますよ!」
泉さんがエールを送ってくれる。
「あ……座席順的に勅使河原様は最後なので、そこだけでも本当にしっかりお願いします!」
まさにラスボスって感じの配置だな……
「サービスは平等であるべき。どのお客様にも最善を尽くします」
鳥路さんは一切手を抜かない事を宣言!
「私とした事が……そうですね! どのお客様も大事なお客様です! よろしくお願いいたします、鳥路様、山本様!」
頷く俺と鳥路さん。泉さんも慌てていただけで悪い人ではなさそうだ。
俺達は多目的室を出て、グランクラスの車両に向かって寿司ワゴンを転がすのであった。
◇◇◇
「これより、出張寿司サービスを始めさせて頂きます。お一人様三品までお選び頂けますので、メニュー表をご確認ください。順次お席にお伺い致します」
泉さんがアナウンスを終えると、お客さん達にメニュー表を配り始める。
俺達は手前の席から順番に回って行けば良い感じかな。
「ご注文はお決まりですか?」
鳥路さんがスーツ姿の男性に注文を伺う。
「……君が握るのかい?」
「はい」
怪訝そうな表情で鳥路さんを見る男性。時折発するオーラ以外は普通の女子高生だもんな鳥路さん……
そんな事を考えながら山葵をすりおろし始める俺。
「マグロの中トロとカンパチ、あとはウニで」
「ワサビはいりますか?」
「もちろん。ああ、それとウニは握りでお願いするよ、海苔が苦手でね」
ニヤリと笑う男性。こいつ、鳥路さんを試すような真似を……
「わかりました」
「え?」
鳥路さんが迷う事なく握り始める! 俺がすりおろしたばかりのワサビを使って、中トロ、カンパチ、そしてウニを完璧に握りを寿司ゲタ代わりの光沢のある厚紙の容器に乗せていく! そして三品揃ったタイミングでそれを男性のテーブルに置いた! さらに鳥路さんはワゴンから醤油とガリの小袋を手に取り、器の横に添える!
「お待たせしました。ごゆっくり」
お待たせしたのか疑問に感じる程の高速提供!
「え?」
男性は目の前の状況を頭で処理しきれずに固まる!
ちょっかいをかける相手が悪かったようだな。
「うおおお!? 凄い寿司職人だ! こんなに若いのに!?」
「次! 私達よ!」
一連の様子を見ていた反対側の座席の夫婦が興奮しながら催促する。
まだ一列目なのに、鳥路さんの凄さが伝播しいき車内が少し騒つく。
「順番にお伺いしますので」
そう言いながら鳥路さんは夫婦の座席の方に体を向ける。
これなら大丈夫そうだ……! 俺は山葵をすりおろすのに専念しよう!
◇◇◇
鳥路さんはその後も順調に注文を捌いていき、ついに車両の最後の列まで来た。
ここに寿司王、勅使河原宗十郎がいる。山葵をすりおろす事しかしていない俺でも緊張する。
鳥路さんはと言うと……いつも通りのクールな感じを維持している。有名人だろうと平等に扱うという精神をしっかり体現しているだけで超人だと思う。
鳥路さんが寿司王に注文を伺いに移動する!
「おお! 待ち侘びたぞ! 楽しみすぎて思わず立ち上がりそうになるぐらいだったたよ!」
笑顔で俺達を出迎えてくれたのは着物が似合う白髪に綺麗に整った白い口髭の男性。この人が寿司王、勅使河原宗十郎……俺のイメージと違って好々爺な人だな。記事の文章とか凄くお堅い感じだったはずなんだけど……実際に会ってみないと人というのはわからないものである。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
鳥路さんは通常営業だ!
「いやぁ! 他のお客さんの反応をずっと聞いていたから凄く悩んだね!」
一応八品全種類を鳥路さんは握ったけど、どれもお客さんには高評価だった。
寿司ネタも良かったと思うし、何より握ったのが鳥路さんという点が大きかっただろう。チャラ男じゃこうはならなかった。
「まずは、ホタテ。次にマグロの……赤身で! この二つにワサビは不要だよ!」
サビ抜きのホタテにマグロの赤身。俺の出番は無い感じかな?
「そして三品目は……涙巻きをお願いしようかな!」
「え?」
メニューに無い寿司……! 鳥路さんが虚を突かれ動揺の声を漏らしてしまう!
というか涙巻きって何!?
「あ、あの。そのような品はメニュー表になかったような……」
やんわりと断ろう。勇気を出してそんなものは無いと丁寧に寿司王に伝える。
「いやいや! しっかり書いてあるよ! ほら! 『静岡県産真妻山葵』と!」
寿司王が俺達に泉さんの配ったメニュー表を見せてくれた。
確かに書いてあるけど……これってワサビには静岡県産真妻山葵を使ってますって意味じゃ……いや、その文言が書いてないんだけどさ……
泉さんの顔を覗くと、冷や汗を流してそうなこわばった笑顔のまま俺から目を背けた。やってくれたな……
あと、涙巻きってワサビ巻きの事なんですね。
鳥路さんはどうしたものかと困った表情を見せている。
「……君はお若いのに素晴らしい寿司圧をお持ちのようだ。出来ないとは言わせないよ?」
寿司王が急にシリアスなトーンで鳥路さんに語りかける!
最初の男性と違って鳥路さんの腕前を見込んだ上での注文……いや、挑戦状だ!
「……わかりました。少しだけお時間を頂きます」
鳥路さんは覚悟を決め寿司王の挑戦状を受ける!
二人の視線の間に小さな火花が散ったように見えた。
静かに、しかし確実にスシバトルが始まっている……!
あと、寿司圧って何!?
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




