第115話 ジャパンスシインサルトアソシエーション①
山の上にある大学から市街地に向かうバスの中で鳥路さんと俺は悩んだ末に鳥路さんのスマホにFaiN-Proを入れる事にした。フレースヴェルグことフレベを無視したら無視したで面倒臭い事になりそうだという意見が一致したためである。
本来なら月額課金の設定の画面に飛びそうなものなのに、鳥路さんに送られてきた初期アカウントとパスワードを入力するとすんなりとログインする事ができた。
「この姿では初めましてですね、エリ! そして、この姿こそIKASUSHIの頭脳、FaiNの代表の一人……真実の大鷲! Hraesvelgrの真の姿です!」
無駄にテンション高いなこいつ……
所々に赤いメッシュが入った白い髪の美少女アバター。紅白カラーのサイバーパンク和装の振袖部分には鳥の羽のような意匠が組み込まれている。悦に入ってそうなドヤ顔はなぜか笹垣を思い出す。これがAIというのだから驚きだ。
俺のスマホに入っているFaiN-miniにはこの豪華機能は無いけれど、喋り方に確かにFaiNの面影を感じる。目の前にいるこいつは胡散臭い偽物では無いようだ……
「……あれ? 操作できない……何で? えっと、声は聞こえてる? あなたは私に何の用事があるの?」
鳥路さんは文字を入力しようとスマホの画面を操作するも反応せず、仕方なく音声での接触に切り替える。FaiN-Proは文字入力できないのか?
「聞こえてますよ! 一点目はですね、スシバトルの続きです! スシバトルに負けた私はエリのお願いを一つ聞く必要があるのでしょう? まぁ私にできる事なんで調べ物ぐらいですが。恐らくエリの隣にいる山本葵の異性との交際歴とかぐらいなら調べる事はできますよ!」
「ちょ!? やめろ!」
プライバシーの侵害だ!
「二点目があるの?」
鳥路さんは冷静にフレベのもう一つ以上あるであろう思惑を確認する。
「エリが寿司を握る様子を撮影して私にください! 一つの動画で一つお願いを聞いてあげますよ! 特にスシバトル中の物が嬉しいですね!」
フレベの寿司に対する情熱は本物のようだ。なぜAIが寿司に拘るのかは謎だけど……オープンキャンパスの振る舞いを見るに嘘では無いだろう。
「家での練習風景なら良いけど……スシバトルっていつ起きるかわからないし。それに自分で撮影しながらスシバトルするのは無理。山本くん、代わりに動画撮ってくれる?」
鳥路さんはフレベのお願いを断る気は無いようだ。良くわからない報酬目当てではなく、寿司の上達を試みる一人の弟子としてフレベを扱っているようだ。
「オッケ。俺がいる時なら良いよ」
鳥路さんがそう言うなら俺に断る選択肢は無いな。
「大丈夫そう、できるだけ共有する」
「素晴らしい! エリは私がスシバトルを挑んだ時に戸惑う事なくスシバトルの準備を始めたので、きっとスシバトルに詳しいと思っていたのです!」
「詳しくは無い」
鳥路さんがはっきりと否定した。
神奈川で何度も巻き込まれてるだけだからなぁ……俺も鳥路さんも慣れてしまったと言うだけで。それに、遠回しに普通じゃないと言われてるような気がしてちょっとショックだ。
「とにかく交渉成立ですね! ああ、この事は勿論ナルには内緒ですよ!」
「……わかった」
鳴海さんにバレたくなさそうだったもんな……
鳥路さんは少し考えてから承諾した。
「さてさて、それで? 私は何を調べてくれば良いですかね?」
フレベはニコニコしながら右手の人差し指をくるくるしながら鳥路さんの答えを待つ。
……鳥路さん? 何で俺の顔を見るんです?
「……日本寿司罵倒協会の人間が近々函館のどこかの寿司屋を潰そうとしているらしい。フレースヴェルグ、そのお店がどこかわかったりしない?」
昨日の寿司屋の話!
「鳥路さん? まさか止めるつもりなの?」
「わからない。でも、どんな寿司屋かは知っておきたい」
下手すれば二度と食べられなくなる可能性があるもんな……
フレベは画面上で宙に浮かぶ画面を忙しなく操作し始める。本当にそうやって調べてるのか? それともそういう演出?
「日本寿司罵倒協会……随分と隠し事が多い組織みたいですね!」
フレベは手を止めずに手に入った情報を口にする。
「ふふふ、まさか内部から閲覧されてるなんて彼らも思わないでしょうね」
……その調べ方って合法なんですよね? フレベさん?
「時刻は今日の16時! 場所は福福寿司ですね! 組織内の計画表を閲覧できたので正しい情報だと思いますよ!」
適当な事を言っている訳ではなさそうだ。他のAIなら当たり前のように嘘の事を本当の事の様に言う時があるけど、FaiNは違う。正しい情報を提供するのがFaiNの強みだからだ。
「場所はどの辺?」
鳥路さんが具体的な場所を尋ねる。
「そうですねぇ……エリは今バスで移動してる感じですか? バス停二つ分ぐらい通り過ぎてますね!」
「……」
鳥路さんと一緒にバスの窓を覗く。不慣れな土地だけど、とっくに市街地まで降りてきているのがわかるぐらいの景色だった。
「地図情報を送っておきますね!」
鳥路さんは慌てて降車ボタンを押し、俺達は次のバス停で降車するのであった。
指定の時間まであと二時間ぐらいか……寿司罵倒協会の襲撃前に寿司を食べる事はできそうである。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




