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スシ=エリ・トリジ〜寿司を愛する少女〜  作者: シャコヤナギ
カースドツインズスシナイヴズ
113/175

第113話 スシロボメカマシン⑤

前回のあらすじ:

鳥路さんの寿司のワザとIKASUSHIの寿司テクノロジーがぶつかり合う。


◆◆◆


 両者の寿司ネタが揃い、握りのフェイズが始まる。既にIKASUSHIの実力はギャラリーも把握しているため、鳥路さんの方に注目が集まる。

 

「学生さんの包丁の腕は確かみたいだが……寿司となったら難しいんでねぇか?」


「一朝一夕で身に付くものじゃないわよね」


「IKASUSHIも素人って言ってたし……」


 この場にいる俺だけが知っている。目の前にいる女子高生は……寿司の化身だ!


 鳥路さんは酢水で手を洗い、右手でシャリを手に取る!

 そのまま右手でシャリ玉を整形している間に、左手でイカを手に取る!

 左手のイカの上にシャリ玉を受け止め、右手の人差し指と中指で握る!

 その右手で寿司を持ち替え、向きを変えた状態で左手に交換!

 再び、ぎゅっと握ると、左手から側面を転がすように寿司ネタが上の状態で立つ!

 右手で少し整形をして、寿司ゲタの上に見事なイカの寿司が完成していた!


「は、速い!?」


「プロ並み!? いや、プロ以上じゃねぇか!?」


「最近の女子高生は寿司も握れるのか!?」


 握れないと思うけど……周りに握れる人が多いからそうなのかもしれない。


「ナル? 何が起きているのですか?」


 声色は変わらないがIKASUSHIから困惑のようなものを感じる。


「世の中データベースだけで語れないね」


 鳴海さんは冷静だ。

 IKASUSHIも握りを始めるが、速度や寿司の形、どちらも鳥路さんの方が上回っている印象を受ける。それに、鳥路さんとIKASUSHIのイカの寿司は飾り包丁の有無で見た目はかなり異なっている。

 俺にはどちらが美しいのかという点に答えはなく、どちらの寿司も美味しそうだと言う事しかわからない。


「どっちも五貫握り終わったね? それじゃ、審査員の人に食べてもらおうか」


 両者の寿司が出揃い、鳴海さんの進行で審査の時間に移る!

 審査員は最初に決めた俺の後ろにいた五人の学生。男子三人、女子二人かな。

 全員私服だからどこの生徒かわからないけど……北海道の人の可能性は高い。


「お昼スルーして来た甲斐があったぜ! IKSUSHIの寿司から食ってみるかな。おお、うめぇ!」


「じゃ、じゃあ僕も。うん、美味しい!」


「小細工なしのイカって感じだよな。鮮度もいいし、ゴムみたいな感じもない」


「んー美味しい! イカの鮮度が良いのかな? 甘くて美味しい!」


「程よい弾力と食感も新鮮なイカよね!」


 一人がIKASUSHIを選んだら全員IKASUSHIを食べ始めた。俺も食べたけど実際美味しかった。でも、どこか物足りなさを感じたのは事実。俺の把握できなかった違和感を審査員は気付いてくれるのだろうか……


「さてさて、こっちは逆に飾り包丁がすっげぇな! ……んん!?」


「な、なんだろう? 同じような素材なのに……違うのはわかる」


「こっちの方が……美味しいかも?」


「口の中で寿司が解けるような感覚?」


「よくわかんないけど美味しい!」


 鳥路さんの寿司を食べた五人が驚きの表情を見せる。

 隠し包丁が入っただけで評価が異なる寿司になったようだ。


「ナル? 私が負けそうな雰囲気なのですけど?」


「料理漫画だと先攻不利だからね」


 FaiNの中にまるで人がいるかのように普通に会話するなぁ、鳴海さん。

 それだけFaiNが凄いAIなのかもだけど。


「さて……鳥路さんの寿司が美味しかった人は右手、IKASUSHIの寿司が美味しかった人は左手を上げてくださいね」


 鳴海さんが審査員に評価を求める。鳥路さん優勢に感じたけれど、果たして……

 審査員の五人は少し悩む仕草を見せたけど、直ぐに手を上げる。

 

 右手が四人、左手が一人。つまり……!


「四対一で鳥路さんの勝ちね」

 

 鳴海さんの言葉を聞いてギャラリーが盛り上がる!

 鳥路さんの勝ちだ!


「女の子が勝ったぞ! これで素人ってマジかよ! 寿司屋の血族じゃないのか!?」


「寿司界隈にシンギュラリティは早かったみたいね!」


「どっちもいい寿司だった!」


 そんな声が聞こえてくる会場に良い感じの拍手が包み込む。


「鳥路さん! やったね! 改めて俺のせいでごめん!」


 鳥路さんの勝利を讃えながら、やらかした事を改めて謝罪する。


「大丈夫。多少は好みの問題があるとは思うけど……やはり自分の寿司を選んで貰えると嬉しい」


 夏の暑さのせいか額から珍しく汗が一筋流れる鳥路さん。俺に対して怒ってはいないようで一安心である。口は災いの元、気を付けよう。たとえAI相手でも……


「な、なぜ!? 私は完璧なイカの寿司を握ったはず! 教えてください! 鳥路英莉さん!」


 IKASUSHIが複数の触腕をグニョグニョ動かしながら鳥路さんに問いかける。

 鳥路さんは少し言葉を選ぶように考えてから口を開いた。


「……今日のイカは噛み切れるイカではあるけど、どうしてもイカは口に残ってしまう。できれば飾り包丁で噛み切りやすくした方が良い。寿司で大事なのは口の中で完成する一体感……その差が出た」


 鳥路さんの発言を聞いて審査員達が納得の表情を見せる。


「それだ! イカと米って感じじゃなくて鳥路さんの寿司は一体感を感じた!」


「あとは醤油の絡みも飾り包丁のおかげでよかった!」


「言われてみれば!」


「私はイカがしっかりしてる方が好きかもなぁ」


「同じイカなのに全然違う食感でびっくりしたもん」


 なるほど。イカの食感を楽しむか、味を楽しむかで評価に差が出たのか。

 当たり前だけどロボットもAIも寿司を食べる事はできない。

 口の中で完成する寿司にシステムが対応しきれなかったのかもしれない。


「私はナルが美味しいと言った握り方をマスターしたのに!」


 ……鳴海さんの好みの話だった。


「えー……鳥路さん、私にも一貫握って貰って良いかな?」


「わかりました」


 鳴海さんのリクエストを聞き、鳥路さんはイカの寿司をさっと握って寿司ゲタの上に置く。鳴海さんは完成した寿司をヒョイっと摘んで一口で食べた。


「んー……こっちの方が私好きだなぁ。北海道だとここまで丁寧に飾り包丁入れるお店あんまり無いと思うし、そもそも私のお金じゃ高い店とか行けないし」


「な、ナルが貧乏学生だから私が負けたって事ですか!?」


「なんだとぉ……」


 ロボットと人間が小競り合いしている……! 

 醜い争いなのに高度な技術力を感じる凄い光景だ。


「でも、IKASUSHIの寿司が丁寧に作られていて美味しかったのは事実。AIに心があるのかはわからないけど……私はIKASUSHIの寿司に心を感じた。人間でもなかなかできる事じゃない」


 鳥路さんの言葉でIKASUSHIがピタッと動きを止める。


「……私の負けですね」


 IKASUSHIが右手……に相当すると思われる触腕を鳥路さんの方に差し出す。

 鳥路さんは困惑しながらその触腕を握ると再び会場は暖かい拍手に包まれた。



 ……シュールな光景ではあるけど、なんというか、丸く収まって良かったと思う。

 



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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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