第105話 スシネバーダイズ後編⑨
前回のあらすじ:
帯刀が慶寿司の寿司を継ぐ。
寿司の心は引き継がれていく事で永遠となるのだ。
◆◆◆
帯刀さんと慶さんの邪魔をしないために鳥路さんと一緒に学食を出ると……扉の横の壁に背中を預けている笹垣がいた。
「あっ! えー……あー……その……」
笹垣は何かを言おうとしてはバツが悪そうに目を逸す動作を数回繰り返す。
鳥路さんは何も言わずに笹垣の言葉を待つ。
「……用が無いならもう行くけど?」
「はぁ!? どう見ても用がある空気出してるでしょ! どこに目をつけてんのよ!?」
もちろんわかっていて言った。大人しい笹垣だと調子が狂う。
「ぶ、部長の事……あ、ありがとう。もっと酷い事言われると思ってたから……」
「笹垣じゃあるまいし……」
「山本は黙っててくんない!?」
流石にいじりすぎた。
「ん」
鳥路さんがポケットから何かを取り出し笹垣に投げ渡す。
「わっ!? な、何? 鍵!?」
「学食の鍵。返しておいて。私から先生に鍵を笹垣に渡した事を伝えておく」
「……ふん、わかったわよ」
鳥路さんが面倒事を押し付けた訳じゃ無い事を笹垣も理解したようだ。
「私からも渡すものがある」
今度は逆に笹垣が鳥路さんに何かを投げ渡す。鳥路さんはそれを一発でキャッチした。
……USBメモリ?
「中身は?」
鳥路さんが中に何が入っているか笹垣に尋ねる。
「……部長の書いた寿司マニュアルが全部入ってる。それがオリジナルで他に複製もしていない」
「え!? そんな大事なものどうして!?」
黙っていられず声が出てしまった。
「鳥路にスシバトル部辞めろって言われたら後はよろしくって部長から預かってた。でも鳥路のおかげで部長は辞めずに済んだし……とにかく、そういう訳だからスシバトル部にそれはもう必要ない! 内容は部長が全部覚えてるからね! これで貸し借りなし! 次会うときは絶対寿司でボコボコにしてやるから! 特に金星と賀集と山本!」
「なんで俺も入ってんの!?」
「男なら自分で寿司ぐらい握れるようになりなさいよ! そしたら私が直接わからせてやれるからね!」
「ええ……」
男とか関係ないと思うけど……まぁでも、ありがたく寿司同好会で使わせて貰おう。
「これは山本くんが持ってて。たまにで良いから読ませて欲しい」
「……うん、わかった」
まぁ鳥路さんが持ってるより俺とか他のメンバーが使った方が良いだろう。俺は鳥路さんからUSBメモリを受け取り胸ポケットに入れた。
「あー! 言い忘れてたんだけどぉ……それ! 日本寿司罵倒協会が狙ってるデータだから! せいぜい盗られないように頑張ってねぇ! きゃはっ!」
……さ、笹垣っ!!
「鳥路さん。やっぱ返すよ」
「いらない」
即答!
「というか日本寿司罵倒協会って何なの!? 俺そこの刺客っぽい奴に撃たれたんだけど!? どういう関係だったの!?」
「撃たれた?」
笹垣は俺が撃たれた事を知らないようだ……あの襲撃は寿司罵倒協会の独断か。
「あ、いや! 何でもない! それより知ってる事があったら教えて欲しい!」
笹垣が真剣な表情になる。
「寿司罵倒協会は私達の寿司屋襲撃のスシバトルでジャッジをしてくれる約束をしてたの。子供だからって舐める大人はいるだろうからって。その報酬が部長の寿司マニュアルってわけ」
報酬になるような情報がこれに詰まっているんだな……帯刀さんの才能は本物だという事か。
「ま、寿司屋襲撃なんて絶対やらないけどね! 今思うとコスパ悪すぎ! それに部長はこれから忙しくなるから、そんな事してる暇がそもそも無いわ!」
自然な笑みを見せる笹垣。
「……私が知ってるのはそれだけ。あとは部長の方が詳しいと思う」
「それだけわかれば十分。ありがとう」
鳥路さんは帯刀さんから寿司罵倒協会について聞く気はなさそうだ。
俺もこれ以上帯刀さんをスシバトルの火に近づかせたくない。
「スシバトル部……色々大変だと思うけど、頑張れよ。というか、これからどうすんの?」
色々やらかしたのは事実だし、周囲の目も以前より厳しいだろう。
それに寿司屋襲撃が目的だったスシバトル部がこれからどうするのかも気になる。
「ムカつくけど金星が進めるスシバトルの競技化に専念すると思う」
知らない話が出てきたな……
鳥路さんも初めて聞いたって顔してる。
「まぁ、その辺は本人から聞けば?」
それもそうか。
「あー……話が長くなったわね……足止めして悪かったわ」
「いや、ありがとう笹垣、色々知れて良かった。次会ったらスシバトルでボコボコにして泣かせてやるからな」
「き、切り替え早くない!? てか部長のデータ持ってるからって調子乗らないでくれる!?」
「寿司王国のガリは何とかした方がいいと思う。品質が悪い」
「お前はお前でいきなり何言ってんの!?」
鳥路さんが割と本気のトーンでガリのクレームを入れる。
寿司王国で何かあったんだろうな……
「……山本は覚えてろよ! 鳥路は……担当者に確認後、後日ご連絡致します!」
そう言い残して笹垣は学食へ逃げて行った。
笹垣は賀集さんと金星さんへの執着がまだありそうだけど……何というか、これ以上は変な方向に走らない気がする。
またスシバトルすることになったら今度は直接俺が相手してやろう。
現時点で全く寿司握れないんですけどね! 帯刀さん、信じてるからな……!
◇◇◇
「二人とも遅いよー!」
「デートでもされていましたの!?」
「若いって良いわね」
家庭科室では既に賀集さん、金星さん、司先生の三人が俺達を待っていた。
「で、デートとかじゃないから! ね、ねぇ鳥路さん!?」
「……色々あった」
「えー! 本当にそうだったの!?」
「寿司同好会は恋愛禁止ではありませんの!?」
「残念ながらルールにないのよね、学校的にも」
い、言い方! 賀集さんと金星さんが勘違いしてるから!
司先生の目が怖い!
「そうだ! あれ! 金星さん! スシバトルの競技化って何!?」
苦しいが別の話題を切り出す。
「お耳が早いですわね? 簡単に言うとスシバトルの《《ならわし》》を撤廃する方向でブームの流れを変えようとしていますの! こんなものがあるからルール無用の盤外戦術有利の勝負になりがちなのだと今回のスシバトルで痛感しましたわ!」
扇子を広げながら説明してくれる金星さん。盤外戦術か……確かに食材を買い占められたり四天王を五人けしかけられたりしたもんなぁ。無くす方向性は正解な気がする。
「ルールも絞っていくんだよね?」
賀集さんもこの話を知っているようだ。俺なんて未だにルールを全部把握していないからな。
「ええ、ですが……どれを残すしていくかは慎重に決めていく必要がありますわ。それに轟さんの考えたランダムスシカードバトルのような新しい風も取り入れたいですわね!」
「ランダムスシカードバトル……」
鳥路さんが訝しみながらその名前を復唱した。初めて聞くのに何をするのか想像が付く……
「という訳で山本さん。やりますわよ」
「……何を?」
「ランダムスシカードバトルですわ!」
金星さんが両手を叩くと蛍さんが机の下から這い出てきて手にしていたカードの束をテーブルの上に置く。
カードには色々な寿司ネタ、シャリ、ワサビなどの絵が描かれているようだ。
「ランダムに配られたカードを組み合わせて実際にその寿司を握り、先に全てのカードを使い切った方の勝ちですわ! 作った寿司を審査員が食べて合格が出なければ追加でカード二枚引いていただくペナルティもありますわよ!」
「な、なるほどスシドライバーの何倍もマシだ! マシか!?」
轟さんなりに頑張ったんだろうけど……なんかルールに穴がありそうだなこれ!
「審査員は私と賀集さんと司先生の三人で交代してやろう」
鳥路さんの提案に他二人も頷く。
「ちょっと待ってなんでやる気なの!? それに俺と金星さんが寿司握るの確定!? 二人とも今日から教えてもらう予定だったのに!?」
「争いは同じレベルじゃないと発生しないんですわよ?」
「練習してからやろうって言ってんの!」
俺の訴えを無視するように蛍さんが寿司ネタの入ったトレイとかシャリの入った桶を用意し始める。準備良いなぁ!
「山ちゃんも金星さんも頑張ってね!」
「これ、ちゃんと終わるのかしらね……」
「お腹空いたから早く握って」
審査員ポジに収まる三人。
本当にやるのこれ? 金星さんがやる気なのはわかったけどさぁ!
「ふふっ! 初心者二人の初スシバトル……ワクワクしますわね!」
「ハラハラの間違いじゃない?」
「カード配りますね」
蛍さんが俺と金星さんにカードを配り始める。
あーもう! やるしかないのか!
「ええっと……シャリ、シャリ、シャリ、ガリ……おい!」
「私はマグロのお寿司とサーモンのお寿司を作れそうですわ!」
「蛍さん? ちゃんと配った? 格差が酷いんだけど?」
「ランダムですからこれぐらい普通ですよ。文句言う前に握ったらどうですか?」
こいつ……
「山ちゃん! 想像して! シャリとガリで握れる寿司を!」
「賀集さん!? そ、そうだね、まだ諦めるのは早いね!」
シャリとガリで作れる寿司! ガリの……寿司!
「ないよ!? そんな寿司!?」
「山本くん、もっと寿司の気持ちを考えて」
鳥路さん? いや! これは俺の寿司理解力が足りていない事への指摘!
ガリ寿司はどんな気持ちだ?
もはや寿司かどうか怪しい存在……
ああ、わかったぞ。こんな時に使うんだな!
違う気もするけど……!
「寿司が! 泣いている!」
◇◇◇
スシネバーダイズ後編 おわり
第一部 スシネバーダイズ 完
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




