ある朝
「君はどうしてそう思うんだい?」
微笑したレイナが挑発気味にそう言ってきた。
なにも驚くことはない。なにせ同級生なのだから。今の思考に少し違和感を感じたが、僕はこう返す。
「それは……やっぱり退屈じゃないか。人が人として生きることができない世界なんて」
それを聞き、彼女は妖しげに笑った。
「どうして笑うのさ? やっぱりレイナはおかしいよ。僕のことを君って呼んだり、他の人とは、なんか、違うよ」
「そうかい? 君もやっぱりそこら辺の人と一緒なんだね。サトル君。私は君のことを過大評価していたようだ」
そうは言っているが、声の調子は先程から変わっていない。
―ああ、こうやってよく意味ありげなことを話し合っていたな
レイナの掴みどころのない話を懐かしみ、自然と口角が上がるのを感じた。
「フフ、今に分かるさ。内宮サトル君……」
レイナとは三年前に意図しない形で離れ離れになってしまったはず。今話せているのはおかしい。
そんなことを思っていたら、ここが夢の中だと気付いた。まだ夢の中に居続けたい気持ちを押し殺して重いまぶたを開く。
「レイナ、今日もかわいかったな。なんの話をしてたんだろう」
見知った天井に向かい、うっとりとした口調でそう呟き、夢の余韻に浸ろうとした。
が、もう記憶が薄れていることに気付いて舌打ちを鳴らしそうになった。
―ずっと夢の中に居られればいいのに……
時計の針が一秒、また一秒と時を潰している音を聴いている自分を知覚してやっと布団から脱出できた。
楽な方に逃げてしまうのが人の常ですよ、と、先程までの自分を正当化する思考を脳内で繰り出しながら朝の支度をする。
「コレを食べてネ!」
二つの椅子にはさまれた机の上には置き手紙があった。
下にはラップがかけてあるオムライスがあり、ラップには少量の水滴がついていた。
まだ少しぬくもりの残ったオムライスを黙々と口に運んでいたが、沈黙に耐えきれなくなりテレビをつけた。
すると、そこには見知った顔だが、少し違和感を感じた顔がテレビに大きく貼り付けたように映り、すぐに捜索風景へと場面転換した。
「昨夜、―県―市に住む女子高生、橘麗奈さんが出かけたきり戻らない。との通報を警察署が受け、捜索が開始されました。警察は誘拐事件の可能性も視野に入れて捜索を続けています。さて、続いては―」
声の調子を明るくしたニュースキャスターとは対照に、僕のオムライスを口に運ぶ手は止まり、テレビ画面の一点を凝視していた。
―まさか、まさかね……レイナが行方不明? なんでそんなことに……でも、レイナの下の名前は「玲奈」だった気がするけど……妙だな
そんな思索に耽りながら朝の支度を終え、学校へと向かった。




