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59話 軍師、正義の騎士たちと意気投合す

 司令部を後にしたアキトは、アリティアと共にエルハーゲンの外にある宿営地に向かっていた。


 互いに帝国騎士団の部隊の軍師として配属された二人。

 これより、それぞれが軍師を務める各部隊へと着任する。


 いよいよ宿営地を目前にして、アリティアはアキトへ心配そうな顔を向けた。


「アキト、気をつけて……」


 アリティアが心配するのも無理はない。

 エレンフリートとの会話とその意図を、アキトはアリティアに話していた。


 アキトはエレンフリートによって捨て駒にされようとしている。

 その上、騎士たちに寝首をかかれないかと不安を覚えていた。


 しかしアキトは首を横に振る。


「心配いらない。役目としては大変だが、騎士たちはおそらく……」

「おそらく?」

「いや、ともかく俺は大丈夫だ。それよりもアリティア。君こそ、無理はするな」

「あんたとリヒトと違って、私は無理はしないわ。何を言っても無茶するあなたたちと違ってね」


 アリティアは呆れるように言うと、アキトへこう告げる。


「……私たちの手で、西岸北部を守りましょう。そして、生き延びて凱旋するのよ」

「ああ。約束だ」


 アキトとアリティアは互いに頷き合うと、それぞれの部隊が集まる宿営へと向かうのだった。


 アキトは、宿営地を歩きながら騎士たちの様子を確認する。


 煌びやかな鎧に身を包んだ騎士たち。

 ある者は稽古をしたり、ある者は演説をしたり、またある者は力比べに興じたり、皆、血気盛んな様子だった。


 武功を上げ、名を上げたいという意思がアキトにもひしひしと伝わってくる。


 皆、アキトと年は変わらないか、少し上ぐらいの者たち。

 戦場での経験は浅そうだが、士気に関しては非常に高いと見て間違いなかった。


 彼らの勢いを活かせるような采配を、隊長や軍師ができればいいが……


 だが、今のアキトは自分の任務に全力を注がなければいけない。


 アキトは、自分が軍師を務める部隊の宿営を目指す。


 するとやがて、青地に白獅子が描かれた旗を見つける。


 白獅子隊……アキトが軍師を務める部隊の名称だ。


 と言うことは、この周辺の天幕が白獅子隊の宿営ということになる。


 アキトは一際大きな天幕の上に、同じ白獅子の旗を見つけると、その天幕へと向かう。


 それから入り口に立つ見張りに訪ねた。


「私はアキト。白獅子隊の軍師を拝命した者だ。部隊長のネア殿はいるか?」

「アキト……あなたが我らの軍師か」


 凛とした声に振り返ると、そこには白銀の鎧に身を包んだ女騎士がいた。


 化粧っ気はないが端正な顔立ちと、キリッとした目。

 帝国人の女性としては身長が高く、引き締まった体をしている。

 髪型も長い金色の髪を後ろで一つにまとめ、いかにも騎士という出立ちだ。


 彼女がネア・メーリング。白獅子隊の隊長だった。


 アキトは振り返って頷く。


「ああ。俺はアキト。アルシュタート大公の軍師でもある。今回の戦いに際して、白獅子隊の軍師を務めることになった」

「そう、か。まさか、大公閣下の軍師を私たちにつけてくださるとは」


 ネアは意外そうに答えた。


 アキトはなんとなくネアたちの境遇を察していた。


 恐らくは、帝国騎士団の上層部たちに嫌われた者たち。

 皆、自分たちが騎士団の問題児と自認しているのだ。

 だから、軍師などつけてもらえないと思っていた……


 だが、アキトの境遇を知れば、ネアたちもがっかりするはず。


 あとで知られるよりも、事前に伝えておいたほうがいい──


 そう考え、アキトはこう答えた。


「……自分の主君をこう言うのもなんだが、アルシュタート大公は実際は千人の兵も持たない領主だ。そして俺は、あの名軍師エレンフリートに嫌われ軍師学校を退学させられたF級の軍師だ」


 つまりは、最底辺の軍師を回された。

 それをネアたちに分かってもらいたかったのだ。


 嘲笑、落胆、軽蔑……きっと良くない反応を見せるはず。

 アキトはそう考えたが──


 ネアは目を見開き、愉快そうに言う。


「なんと! では、我々と同じはみ出し者というわけか! それはいい!」


 ネアの声に、周囲の騎士たちも喜びを露わにする。


「俺は評判がよろしくない軍師だぞ?」

「道中、色々あってな。評判がいい軍師とは対立してしまったんだ」

「ほう……何をやったんだ?」

「将軍に無断で賊を討伐したり、農村から物資を徴発しようとする騎士を取り締まったり──自分たちの正義のままに行動したのだ。そうしたら、将軍にも軍師にも嫌われてしまってな」

「なるほど。それはいい」


 アキトも思わず笑みを溢す。

 自分と同じ嫌われ者であることは覚悟していたが、正義感に満ち溢れた者たちだった。


 ネアは手を差し出して言う。


「私たちもアルシュタートの軍師のことは小耳に挟んでいる。アルシュタットに迫る南魔王軍を退け、西岸北部のアンデッドを鎮圧したと。そんな者が我らの軍師になってくれるとは、とても心強い。どうか、我らにいい策を授けてほしい」

「もちろんだ。よろしく頼む」

「ああ、よろしく!!』


 アキトとネアは握手を交わす。


 信頼の構築に時間がかかると思ったアキトだが、予想に反してすんなりと歓迎されてしまった。


 これならば忌憚のない意見を言い合えそうだ──


「そうしたら、俺は天幕の中で地図を確認させてもらう。部隊の人員の把握もしておきたい」

「ああ。天幕の中に、地図も隊員の帳簿もある。ゆっくり見ていってくれ」


 アキトはネアの言葉に頷き、天幕の中で部隊の状況について調べ始めた。


 それから一時間後。


 天幕の外から騎士の声が響く。


「大変だ!! 隊長が捕まった!」


 少し遅れて、他の騎士たちの声も響く。


「何!?」

「東の村でゴルゼンたちの徴発を止めようとしたら、捕まったらしい……今、ゴルゼンの部下が来て、要求を伝えにきたんだ! ネア隊長を解放して欲しかったら、白獅子隊全員で来て土下座しろって!」


 アキトが天幕を出ると、そこには白獅子隊の騎士たちが集まっていた。


「どうする? ゴルゼンは相変わらず凶暴だ」

「前も他の騎士をボコボコにしたって言うし、ネア様も……」

「だからって黙ってられるか!!」

「そうだ、俺たちで隊長を取り返す! 皆、鎧を身につけて準備しろ!」


 騎士たちがそうだと声を上げる中、アキトは近くの騎士に尋ねる。


「問題が発生したようだな」

「あ、ああ……ゴルゼンというやつは、乱暴なやつでな。この前も、道中の村で徴発をしようとしたんだ。その時、私たちは止めたのだが」

「恨まれたってことか……加えて、今回も徴発をしたがっているんだろうな」

「ああ。しかも、奴は今、黄金隊の隊長のはず……これから戦いだというのに、とても許せる話じゃない! このまま皆で殴り込んでくる!」


 騎士はそう言って、アキトに背を向ける。


 他の騎士たちも鎧を身につけたり、棒を用意し始める。


 アキトはそんな騎士たちにこう声をかけた。


「待て、皆。そのゴルゼンというやつも、それなりに準備をしているはずだ」

「準備?」


 騎士たちはアキトの声に首を傾げる。


「奴が隊長なら、軍師もついているはず。ゴルゼンとその軍師は、皆を誘い込もうとしているんだ。その村を目指せば、四方八方からやつの仲間が現れるだろう」

「なるほど……」


 アキトの指摘に、騎士たちは納得するような顔をする。


「喧嘩にもやり方がある。ここは一つ、俺の策に従ってくれないか?」


 騎士の一人がアキトに尋ねる。


「それはいいが、どんな策を?」

「俺の師駒の紹介も兼ねた策だ。これから、皆とも一緒に戦うことになるからな」


 その言葉に、騎士たちは顔を合わせる。


「師駒か、心強いな……」

「どうする? 確かに、ゴルゼンが待ち伏せしていてもおかしくない」

「戦いの前に怪我するのは避けたい」


 思案する騎士たち。

 やがて、一人がこう声を上げた。


「アキト殿に任せる!」

「俺もだ! あのネア隊長を捕まえるほどだ……奴らの軍師も頭が回るに違いない!」

「私たちの軍師の采配も見ておきたいしね」


 騎士たちは次々とアキトへの賛意を示す。


 それを聞いたアキトは頷いてこう答えた。


「ありがとう。必ず、ネア隊長は取り戻す」


 その声に、白獅子隊の騎士たちはおうと声を返した。


 アキトは早速、騎士たちに指令を伝え始める。


「そうしたらまずは、そのゴルゼンの使いを──」


 こうしてアキトの白獅子隊の軍師としての日々が始まるのだった。

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