36話 軍師、北へ行く
ノルトアルスの救援に向かうことを決めた翌日。
アキトたちは船でアルスの北へと向かっていた。まずはノルトアルスに向かい、そこでコルベスと今後について確認することになっている。
甲板では、アキトと師駒たちが会議を開いていた。
「なるほど。では、リーン様が一週間前に偵察されたときは、特に異変はなかったと」
アカネの問いに、リーンは頷く様に体を縦に振った。
「ノルデン領だけですが、良くも悪くも平和そうでした。なので、アキト様には異常なしと報告した次第です」
シスイは腕を組んで言う。
「ふむ……少し、妙でござるな。ここまで短期間で、事態が悪化するとは。アキト殿、もともと北部の諸侯領はそのアンデッドに侵されていたのでござろうか?」
「いや。今まで侵略してきたのは、北魔王軍の小規模な一団ばかりだったそうだ。アンデッドは最近になってかららしい」
「となれば、本当に急に。しかも、一挙に広大な地に侵攻した。事前に相当な備えをしていたように思えますな」
「ああ。万を超すアンデッド……墓地や古戦場から、アンデッドを作り出したんだろう。地理にも通じているはずだ」
アキトの言葉を聞いて、アカネが顔を曇らせる。
「操っている者の正体も分からないし、だいぶ厄介な相手になりそうですね」
「そうだな。だが、彼らの正体については、ある程度目途がついたかもしれない」
アキトがそう言うと、リーン、アカネ、シスイが目を丸くする。
リーンが訊ねる。
「アキト様は、正体が分かったのですか?」
「いや。あくまで、可能性が高いというだけだ。この時期、というのを考えてほしい。この近辺で何があった?」
アキトの問いに、リーンが思い出すように呟く。
「私たちが来て、南魔王軍が来て……あ」
「そうだ。彼らは北魔王軍とは呼応していない。しかし、南魔王軍の手先であれば、最近になって動き出したことも頷ける」
シスイは少し機嫌の良さそうな顔で言う。
「となれば、敵の策は半ば失敗しているようなものでござるな」
「南魔王軍の主力は南へ撤退しましたからね」
アカネも安心したような顔で頷いた。
しかし、アキトはこう答える。
「いや、俺はまだ失敗したとは考えていない。先日、南魔王軍のアルフレッド王子が、俺たちに手紙を送ってきたのを覚えているか?」
「送ってきた師駒石も本物……大した御仁と思いましたが」
「シスイの言う通り、たいした男だと俺も思う。王子は、あの手紙で俺たちに寛大であると思わせた。実際、寛大な男かもしれない。だが、忘れてはいけないが、彼は俺たちの敵だ」
アキトは北を見て言う。
「俺たちの注意を北に向けさせ、再び南から進攻しようとしている可能性もある。今後侵攻しないのなら、アンデッドたちに計画を始めさせるのはおかしい」
「では、まだ南魔王軍の計略は生きていると」
シスイの声にアキトは首を縦に振る。
「そうだ。だから、必ずアンデッドたちを止める必要がある。止めなければ、またアルシュタートを攻めようと南魔王軍が大軍を送ってくるかもしれない」
「ふむ。しかも、セプティムス殿が言ったように北魔王軍も動くかもしれない。此度の任、気が抜けぬでござるな」
シスイの声に頷くアカネ。
「そうですね。でも、今回は心強い仲間がたくさんおります」
アカネは甲板の後ろで談笑する多くの師駒たちに目を向ける。セプティムスが指揮していた第十七軍団の者たちだ。その数、総勢百名。
アルスの工事が一段落ついたということもあり、セプティムスが彼らを連れていくようアキトに願い出たのだ。
アキトも今回は人手が必要になると、その申し出をありがたく受けた。
シスイが言う。
「セプティムス殿やベンケー殿もご一緒したかったでござるが」
「あのお二人は、アルス防衛の要。とはいえ、シロ様が仲間に加わったから、今回は第十七軍団の方々も同行できた。スーレ様の師駒がもっと増えればアルスの防備も任せられるかもしれませんね」
アキトはその声に頷く。
「スーレにももっと仲間を増やしてあげたいところだな。そういえば、今回はヴォルフも合流する。アンデッドの主を探すのに大いに力になってくれるだろう」
アカネは小さく笑う。
「ふふ、ひょっとしたら私たちの出る幕はないかもしれませんね」
「ヴォルフ殿の鼻は天下一品。すぐに見つけてしまうだろうからな」
同調するように言うシスイ。
しかしアキトはこう呟いた。
「いや。敵の主に至るまでは、戦いもあるはずだ。だから二人とも、今回も頼んだぞ。リーンも今回は今まで以上に、偵察が多くなる」
「お任せを!」
元気よく応じる師駒たち。
かくしてアキトたちを乗せた船は、ノルトアルス近くの浜に接岸した。
上陸したアキトはノルトアルスでコルベスと会って今後について話す。救援作戦の狙いや予想される敵の動きなど。また必要があればコルベスの力も借りたいと伝えた。
それからアキトは、ヴォルドから来たヴォルフを加えノルデンの主都エルハーゲンへと向かうのだった。




