24話 軍師、泳がせる
ヴォルドの役所を出たアキトたち。
シスイは肩をぐるぐる回しながら言う。
「まずは一つ、解放できたでござるな」
「この調子で次の人里も……と行きたいところですが」
アカネの声に俺は頷く。
「コウモリの魔物……おそらくは、ヘルバットがこの町に来てたんだと思う」
リーンが俺に尋ねる。
「奴らもどこか別の町を拠点にしているのでしょうか?」
「その可能性もある。あるいは、どこかに偵察の拠点を構えているかもしれない。そもそも、南から来た伝令だった可能性もあるが」
「色々な可能性がある、ということですね。とりあえずは、一つずつ町を巡っていきますか?」
いや、と俺は首を横に振った。
「先ほど捕らえたゴブリンがいるだろう。あいつをまず泳がせてもいいかもしれない」
「なるほど。あのゴブリンが蝙蝠の魔物の居場所を知っていたら、そこに報告に行くなり逃げ込むかもしれないでござるな」
シスイの声に俺は頷く。
「その通りだ。だから、あのゴブリンは解放しようと思う」
「承知いたしました。某が解放して参ります」
シスイがそう言うと、リーンもこう答える。
「では、私は鳥なりに化けてゴブリンの後を追います。もしかしたら南に撤退するかもしれませんし、アキト様たちはこちらで待機を」
「ああ、頼む。だが奴らは空を飛ぶ。くれぐれも近づきすぎないよう、気をつけてくれ」
「かしこまりました」
リーンがそういうと、早速ゴブリンを泳がせる作戦が始まった。
シスイが拘束を解くと、ゴブリンはすぐに近くに林に逃げ込んだ。
リーンはその後を付かず離れず追跡。
アキトたちはヴォルドの空き家に待機し、リーンからの報告を待った。
それから待つこと丸一日。ようやく、リーンが戻ってきた。
「アキト様! ですが……」
リーンはアキトたちの待機する家に飛び込むなり、そう報告した。
「リーン。まずは無事でよかった。そんなに焦らなくても大丈夫だ」
「し、失礼しました。ゴブリンは北の森へ入ったのですが、途中で見失い……それから、森の東西南北を一晩中見てまわりました。しかし、ゴブリンが森から出た形跡は全くなく」
「その森に潜伏した可能性が高い、ということだな」
「確かな情報が得られず、申し訳ございません……」
落ち込んだ様子のリーン。
アキトはそんなリーンに優しい口調で続ける。
「リーンはよくやってくれた。ゴブリンは元々森の中に住まう魔物。奴らの方が一枚上手だ。あまり気にするんじゃない。森に居場所を絞ってくれただけでも、大手柄だ」
「アキト様……」
リーンはこくりと頷いた。
「それよりも、北か」
ヴォルドを占拠していたゴブリンたちは南魔王軍の手の者。その南魔王軍の大軍勢は、南へと撤退した。
にもかかわらず、ゴブリンは北に逃げた。北に味方がいる可能性は高い。
「そこに蝙蝠の魔物がいる可能性もあるな」
「一人で逃げ込むとは考えにくいですからね。しかし、どう捜索しますか?」
アカネが言うと、シスイは刀の柄を握って言う。
「某が、木を片っ端から斬り倒して探そう!」
「日が暮れますよ……というか、こっちの場所が丸わかりになりますって」
呆れた表情のアカネ。
一方のアキトはこう呟く。
「闇雲に探しても見つからない。そればかりか、逆にこちらが奇襲される可能性がある。やはり、確かな情報が必要だ……となれば」
アキトは窓から、門の近くに立つ狼の頭の人型──コボルトのヴォルフに目を向ける。
「……あいつの嗅覚が役に立つかもしれない」
アキトはヴォルフを森の捜索に参加させることにした。




