23話 軍師、次の狙いを定める。
奪還されたヴォルド。町人たちはゴブリンから解放されたことを喜んでいた。
そんな中、アキトはヴォルドの町長と役所で話をしていた。
アキトは机を挟んだ向こうに座る町長にこう答える。
「なるほど。子供を人質にとられたところを」
「左様……一気に町に入られましてな。それゆえ、最近は外部との接触を絶っておりました」
町長はヴォルドがゴブリンに占領されるまでの経緯を語った。今までゴブリンに働かされ、食事や物資を献上させていたことも。
そこにアキトたちが来て、急にゴブリンたちが町を出ていくことになった。ヴォルドの人々は頭のホブゴブリンが抜けたのを見て、好機到来と町を奪還したのである。
「おそらくは、北上する南魔王軍と合流するつもりだったのでしょう。ですが、彼らはすでに南に引き上げた」
アキトが言うと、町長はホッと息を吐く。
「となれば、しばらく魔物たちに困ることはなさそうですな」
「それなんですが、近くの町や村からヴォルドに魔物がやってきたりはしませんでした?」
「それは特に……あ、いや。時々、空を飛んでやってくる蝙蝠のような魔物はいましたな」
急に顔を青ざめさせる町長。
「彼らの住処や拠点などの情報は?」
「いえ……申し訳ございませんが」
「そうですか」
「あ、あの。また魔物が来たら、我らはどうすれば」
ヴォルドの者たちはアルスに向かうつもりはなかった。ヴォルド自体は防壁もある町だから、アキトも無理にアルスへ向かわせようとは思わなかったのだ。
しかし、それはつまりヴォルドの防衛について考える必要もあるということだ。
アキトは即座に答える。
「ご安心を。この町にも戦力を配置します」
「おお。となれば、その後ろの方々に残っていただけると」
「彼らは他の村の救援に必要。ですが、先ほどあのホブゴブリンを倒した時、新たな師駒石を手に入れましてね」
「なるほど。あのホブゴブリンは師駒でしたか……あの者に、十名以上が一度にやられ、手足も出なかったのです」
「今回は、その戦力と同等の者が味方になる……はずです。ともかく、召喚してみます」
そう言ってアキトは師杖である刀で黄色く濁った師駒石を叩く。正確には師魔石。つまりは魔物が出てくる。
部屋に光が現れると、やがてその中から魔物が姿を現す。
一見犬のようだが、人のように二本足で立っている。その体は細いが、病的な細さではなく鍛えられた細さだ。
町長は怖気づくが、アキトは顔を明るくして言った。
「コボルト! 足の速い魔物ですね」
「つ、強いのでしょうか」
「おそらくはあのホブゴブリンよりも速い……Cランクの師駒ですね」
アキトは紙に写されるコボルトの情報を見て言った。
腕力にはベンケーに劣るが、速度ではアキトの師駒の誰よりも速い。強力な仲間が得られたとアキトは喜ぶ。
アキトは立ち上がり、コボルトの前で言う。
「お前の名前は。ヴォルド村にちなんでヴォルフとする。ヴォルフ。お前には、このヴォルド村の防衛を任せたい」
ヴォルフはこくりと頷く。
「町長。彼は戦闘はもちろん、斥候や偵察、連絡にも力を発揮するでしょう。彼に、この村の防衛を任せます。我々の声は通じますから、必要に応じて彼に依頼を与えてください」
「承知しました。正直な話、ゴブリンだったなら断ろうと思いましたが、彼ならば問題ないでしょう」
アキトはその言葉を黙って聞いていた。
実際に町人を殺されているのだから、魔物への恨みが募るのも無理はないと。
殺されたと言えば……
アキトは、もう一つ気になったことを訊ねる。
「そういえば、ヴォルド奪還の際の被害は」
「ああ。十名ほどが負傷。三名が死にました……ですが、今日ここで抵抗しなければ、もっと多くの者が死んでいたでしょう。数日に一度、彼らは我らの肉を食料としていましたから」
本来であれば自分たちが町に入りヴォルドのゴブリンを倒すはずだった。そうすれば町人は死ななかったかもしれない……アキトはそれをずっと悔いていた。
とはいえ、町人たちは自ら戦うことを選んだ。アキトたちを責めるつもりは毛頭ない。
町長は深く頭を下げる。
「ヴォルドを救ってくださり、誠にありがとうございます。我らのみは我らで守る。もはや大公閣下に我らを救う力などないと諦めておりましたが……失礼いたしました。いつか大公閣下には直接お礼とお詫びに参ろうかと」
「どうかお気になさらず。閣下は……そのようなことは気にしません。とはいえ、いまだ状況は切迫している。ヴォルドのほうでも十分お気を付けください」
「はっ。何かございましたら、すぐにアルスへお伝えします。道中の安全が確保できたなら、道具や食料などもお送りします」
「お願いいたします。ヴォルフ。召喚してすぐで悪いが、この村を頼んだぞ」
深く首を縦に振るヴォルフ。
「俺たちはその蝙蝠について調べる……近くにまだいるかもしれないからな」
アキトたちは蝙蝠の魔物について調査を始めるのだった。




