第87話 嵐のような人
「母さん。星乃が困ってるだろ」
リビングに来ると何かを考えるように俯いている星乃が目に入るとその場に駆け寄り、横に座っている母親に聞いていた。
「あら、そんなに困るようなことは聞いてないのよ」
頬に手を当ててのほほんとした口調で答える。
「ふう~ん。例えば?」
疑心の目を向けながら母親を見つめる。そんな目を気にした様子を全く見せずに答えていく。
「あなたに彼女はいるのかとか、雫ちゃんに孝也はどう思う? って聞いただけよ」
そんな質問、友人の親にされたらなんて答えればいいのか誰もわからないだろう。人の感情に敏感なくせにあえて気づかないふりをするからこの人は厄介なのだ。
「……あのな、星乃とは勉強を教え合ってるだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
全く、といった様子で孝也は眉間に皴を寄せる。
そんな様子の孝也を他所に悠那は星乃の手をとり見つめる。
いやな予感がした孝也は母が何か言いだす前に手を打つために頭をフル回転させる。ふと、時計を見ると長針が10時30分を過ぎようとしていた。
とっさに昨日の夕飯の時に話した内容を思い出した。
「そういえば11時から用事があったんじゃないのか?」
「あら、本当だわ。もう出ないと遅れちゃう。それじゃあ行ってくるわ〜。あ、そうだ。雫ちゃん、これ私の連絡先ね。何かあったらかけてきてね! また話しましょ」
カバンからメモ帳を取り出し、なにかを書いて星乃に渡す。たぶん自分の連絡先か何かだろう。そしてそのまま走って行ってしまった。
2人が取り残されたリビングは先ほどとは打って変わって静寂に包まれていた。
「……すごい方でしたね。たか、三河さんとはだいぶ雰囲気が違ってビックリしました」
「会うといつもあんな感じだけどな。あとその紙切れ捨てていいからな」
「そんなことしません」
「……意外と頑固だよな」
「何か言いましたか?」
「いやなんでもない」
聞こえていなくよかったと内心ほっとした。
「それにしても約束の時間になって連絡をしても既読もつかないので焦りました」
星乃は心配したということを露わにする。
「それについては本当にすまない。まさかアラームにすら気づかないほど寝るとは思わなかった」
「よほど疲れていたんですね」
「まあ柄にもなく休みの日に遊ぶために外に出たり、慣れないカラオケに行ったりしたからな。思いのほか疲れてたのかもな」
「三河さんって本当に私と同い年ですよね?」
怪訝な目を向け孝也をじっと見る。
「失礼だな。同い年に決まってるだろ。ただ外に出るのは好きじゃないだけだ。特に夏はな」
「それでは今日のお出かけも迷惑でしたか?」
それを聞いた彼女はシュンとする。眉尻を下げ覗き込むような上目遣いでこちらを窺う。
そんな顔をされては言ってしまったことを後悔してしまう。
「まあ約束はしたからな。そこに関しては嫌とかは関係ないだろ。それに行ってみたら案外楽しいかもしれないしな」
「やっぱり三河さんは優しいですね」
「そんなこと言ってないで行くぞ」
彼女に言われると今までよりも照れ臭く感じる。
何となくだが顔が熱くなっていく気がした。いきなり気温でも上がったのだろうか。
星乃も自分に言ったことで彼の耳が紅くなっているところが見え微笑んでいる。
第87話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
お久しぶりです。最後に更新してからだいぶ期間が空いてしまいすみません。
プライベートの方が忙しく何かと書く時間がありませんでした……。
最近はようやく落ち着いてきたので更新を少しずつ再開するように努力しますよ!
久しぶりということで前よりさらに短くなっちゃいましたが、感覚を取り戻していけるように頑張ります
それではまた次回、お会いしましょう




