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傘から始まる恋物語  作者: 霊璽
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第56話 無表情と2人きり

 「逃げるなよ!」

 吐き捨てるように言いながら東海林は去って行った。彼はすぐに仲の良いグループに戻ると既に勝ち誇ったかのように笑っていた。

 何度も言うがこの学校に個人の点数を公開さするということはない。なので彼らが孝也の前回までの点数を知るはずがないし、孝也も彼らの点数を知らない。

 ただこういうのは話し方や制服の着方、態度なので大体の想像はつくものだ。

 孝也はようやく面倒ごとが消えて力が抜けてしまい、イスに座り込む。背もたれに体を預けて後ろで騒いでる連中を蔑んだ目で眺めている。

 よく知りもしない相手をよく見た目だけで勝ったと判断できるものだ。実に馬鹿らしい。

 「くだらないな」

 「ほんとだよ〜。東海林なんかがたかちゃんに勝てるわけないのに」

 突如、話し声が聞こえてきた。声の主の方を見ると先程まで外野で傍観していた2人がいつのまにか近くに寄ってきていた。

 「いや仮にアイツが本気で勉強してきたなら負けるかもな」

 あの雰囲気からして絶対にないだろうが孝也は冗談として鼻で笑いながら言う。

 「ないないないない、それはないよ。万が一でもそれはありえないよねー」

 遙が手を横に振りながら真顔になっている。

 久しぶりに遙にこんな顔を見た。彼女は笑えない冗談になると真顔になってしまう。

 「まさか孝也。手を抜いてわざと負けるとかそんなふざけたことしないよな?」

 晴翔が肩を掴んでくる。にこやかだがその目は笑っていなかった。

 何でこの2人はこんなに機嫌が悪いんだ? と孝也は思っていた。

 「いや別に負けようとは思ってない。ただ今回ばかりは3位に落ちてやろうと思ってたんだ」

 孝也も真剣な顔で晴翔の腕を掴みながら彼の目と真っ直ぐ向き合う。

 「お前、これで負けたら星乃さんと話せなくなるんだぞ。それでもいいのか?」

 「そうだよ! もしこのこと知ったら星乃さんすごい怒ると思うよ!」

 晴翔は徐々に苛立ちを表し、遙も孝也を説得しようとしている感じがした。

 ただ2人の態度に未だ理解が追いついていない孝也は普段の声色と表情だった。

 「別に誰もあの阿呆に負けるとは言ってない」

 「さっき3位に順位を落とすって言ってただろ!」

 すぐさま晴翔からの圧の篭った声が孝也に降りかかる。

 今日は朝からいろんなやつに怒られてばかりだな。そう思いながら孝也はさっきの言葉の真意を説明し始める。

 「だから、東海林がいきなり学年で3位になれると思うか? 俺個人的には順位の変動があった方が楽しいから変えるが、別に東海林が3位になるとは一言も言ってないぞ」

 孝也に考えをようやく理解した2人は、普段の爽やかな笑顔に戻った。

 「なんだ、紛らわしいこと言うな」

 「そうだ、そうだ! もっと分かりやすく言ってよ!」

 両肩を2人から痛くもない拳で軽く殴られたが、先生が教室に入ってきたの同時に晴翔遙は席に戻り、朝のホームルームが始まった。

 星乃にはまた放課後にでも説明すればいいだろう。ホームルームに時間ずっと考え、そう思った孝也は1時間目の体育の準備を始めるのだった。


 太陽が傾き始め、鮮やかな青空が炎のような赤に移り変わり始めた頃。

 孝也は下校のための片付けをしている。しかし今日は図書館に行かなくてはならなかった。できれば早めには行きたくなかった孝也は準備を敢えてゆっくりしている。

 クラスメイトがどんどんと教室からいなくなって行く。次第に1人になっていくこの瞬間が孝也はかなり好きだった。

 ただそういう時に限って大体、煩いのが来るものだ。

 「孝也、早く図書館に行こう」

 「そうだよ。星乃さんを待たせちゃ悪いよ」

 いつも通り、腕を組んだバカップルがやってきた。なるべくこの2人とは行動を共にしたいとは思わない。なのでテキトーに断ることにした。

 「悪いな。ちょっとやることがあってな。先に行っててくれ」

 「そう言って先に帰っちゃうんでしょ〜」

 「そんなはずないだろ」

 孝也は否定しながら鞄に普段は持って帰らない教科書とノートを詰めていく。

 「うーん。どうも信用ができないな」

 どうしてこんなに信用がなくなっているのか……覚えがない孝也。

 「あれ? みんな図書館に行かないの?」

 その時、タイミングよく松原が声をかけてきた。

 「そうだ! 由紀ちゃん、お願いがあるんだけど」

 嬉々とした表情で遙が松原に返事をする。

 「どうしたの?」

 首を傾げて松原は問いかける。

 「今日勉強会あるじゃん? たかちゃんがやることあるから遅れるっぽいんだけど、このまま1人にしておくとたかちゃんが図書館に来るかわかんないから連れて来てくれない?」

 「それくらいならいいよ」

 松原は考えた素振りもなく即答で了承した。

 「ほんと!? ありがとう〜。それはじゃ私たちは先に星乃さんと始めてるね! ……がんばってね」

 遙が最後に言った言葉は松原の顔を真っ赤にさせたが、何を言ったのか孝也には聞こえなかった。

 気がつけば教室には孝也と松原の2人きりだった。

第56話目を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。

報告ですPVが8000を超えました!! ありがとうございます♪

そして気がつきましたか? オーバーラップのWeb小説大賞に参加してみました!

まあ、初参加なので緊張しっぱなしです! いい結果になるように望みながらこれからも更新していきますね〜

それではまた次回、お会いしましょう

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