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傘から始まる恋物語  作者: 霊璽
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第35話 孝也、怒る

 孝也と松原が自動販売機に2人で並んで歩いて行く姿を見送った星乃は1人でベンチに座る。そして自分の中に存在する不思議な気持ちについて考える。

 「一体、私はどうしちゃったんでしょう……」

 孝也と一緒にいると楽しく、松原や遙が孝也と話している姿を見るだけで不安な気持ちになる。

 今までこんな感情になったことはなかった星乃は戸惑う。

 公園のベンチで1人、物憂げな顔で空を眺めていた。

 「もしかして星乃さん?」

 突然、自分のことを呼ばれた彼女は声の方を見る。そこに立っていたのは見知らぬ男性だった。

 容姿は金髪で両耳に3個のピアスを付けている。着崩しているワイシャツに学生ズボンを見る限りは同じく高校生らしい。

 男は近づいてくると何も言うことなく星乃の隣に座る。

 「星乃さんはここで何してんの?」

 「私は人を待ってます」

 あまりの身勝手さに星乃は困惑し、苦笑いしかできなかった。

 「え、誰だれ? 彼氏とか? だったら結構ショックだな〜」

 1人で会話をしたいなら別のところでやってほしい。と思いながら星乃は作られ、完成された笑顔で優しく対応する。

 「そういった関係の人ではありません」

 「じゃあ、俺が立候補しちゃおっかな〜なんて」

 急に意味の分からないことを言われて星乃もつい黙ってしまった。そもそもこの自分本位なこの男が立候補したところで当選する可能性は0に等しい。

 「ねえ、星乃さん。これから一緒にファミレスで話でもしない?」

 星乃が微笑んだまま黙っているとまた勝手に話を進め始めた。

 「いえ、私は人を待っているので」

 「いいじゃん、星乃さん。楽しいよ、ファミレス」

 そう言って断るが男は立ち上がると星乃を説得するために必死になっているようだ。そして男は頷かない星乃に痺れを切らし始めた。

 「ね、いいでしょ。ほら、行こう!」

 強引に星乃の腕を掴むと引っ張り始めた。その力はかなり強く、振り解けそうもなかった。

 「痛いです! やめてください!」

 流石に恐怖を感じて声を出すが、周りを確認できる余裕もない。怖くなってきた星乃は顔を俯かせる。

 その時、馴染みのある声が聞こえてくる

 「おい、いい加減にしろ!」

 顔を上げると孝也が男の肩を掴んで立っていた。男の顔が苦悶に満ちたものに変わっていく。

 「イテェよ! 離せ!」

 表情が歪みながらも強気の男に孝也は低く冷めた声で言い放つ。

 「まずはお前がその手を離せ」

 気迫に負けたのか男はそっと星乃の腕から手を離す。星乃は解放された腕の掴まれていた部分を摩っている。

 「もういいだろ。離したんだぞ。お前も離せよ! いてぇえー!」

 「別にお前が手を離したからって俺が離すとは一言も言ってないぞ!」

 孝也はそう言うと握る力をさらに強める。男は半分涙目になり始めていた。

 「もういいですよ。三河さん、離してあげてください!」

 星乃は孝也の目を見て普段とは違うことに気が付き、ベンチから立ち上がると孝也に近づき声をかける。

 「み、かわ……?」

 男が痛みを堪えながら星乃が言った名前に反応する。一方、星乃の呼びかけで孝也は我に返った。

 「そうか。わかった」

 そう言うと手を離す。男は膝をついて肩を押さえていた。

 「痛てぇ……」

 何か言っているが聞こえない。それよりも星乃の方が心配だった。

 「星乃は大丈夫か?」

 「はい、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」

 掴まれていた腕を少し気にしているようだった。孝也には気を遣っていたのだろう。

 「いや気にするな。どっちかって言うと忘れてくれ。あんな感情を表したところなんて」

 自分の先ほどの行動を思い出して恥ずかしくなった孝也は頭をガシガシと乱雑に掻く。珍しく動揺している孝也を見て星乃が微笑む。

 「ふふ、わかりました。忘れてみますね」

 「絶対に、だ」

 忘れる気がなさそうなことに気がついた孝也が釘を刺すが彼女は柔らかい笑顔のままだった。

 2人で話していると足元から声が聞こえてきた。どうやら蹲っているこの男が何か言ったらしい。じっと見ていると肩を押さえながら立ち上がる。

 「おい、お前。やっぱり三河孝也か」

 顔が少し赤くなっているチャラ男が孝也の名前を言う。ということは才穎高校の生徒、しかも同じく2学年なのだろう。しかし孝也にこんなアホっぽい知り合いはいた記憶がなかった。

 「そういうお前は……誰だ?」

 なんとか思い出そうとしたが、無理だった。

 「東海林廉だ! お前と同じクラスだぞ!」

 孝也からの返事が大層ご立腹だったのかチャラ男、ではなく東海林が怒鳴る。

 名前を聞いてやっと思い出した。確か、遙にちょっかいをかけて晴翔に叩きのめされたやつだったか。

 「ああ、晴翔に負けたやつか」

 「負けたわけじゃねーよ」

 独り言のつもりだったのだが聞こえていたらしい。少し語気が強くなっている。

 「それで何の用だ?」

 孝也の問いかけに東海林は苛立ちを露わにしながら、星乃を指差す。

 「お前に用はねーよ。俺は星乃さんに用事があるんだよ!」

 自分のことを指で差されたこと嫌だった星乃は孝也の後ろに隠れるように下がる。

 「そうなのか?」

 孝也は少しだけ後ろを向き、彼女に聞くが首を横に振っている。

 「いえ、その方が勝手に言ってることです」

 「だ、そうだ。わかったら早く帰れ」

 そう言いながら東海林に手を振って帰るように促す。

 孝也の彼への態度には相当苛立っている様子だった。これ以上一緒にいると何を仕出かすかわかったものではない。

 どうしたものか、困っているともう1人出てきた。

 「東海林くん、ここは素直に帰ったほうがいいよ。星乃さんにしてたことバッチリ撮ってあるからね」

 笑顔でスマホを見せながら松原が歩いてくる。それを聞いた東海林も流石にまずいと思ったようだ。

 「チッ……委員長も一緒かよ。おい三河。お前……覚えとけよ」

 最後、彼は孝也の耳元でボソッと呟いてから東海林は公園から立ち去った。

 「星乃さん、大丈夫!?」

 松原は星乃に駆け寄ると眉尻を下げて心配そうに聞いている。

 「はい。大丈夫ですよ」

 へっちゃらです、と言いながら掴まれていた方の腕を動かしている。それを見て松原はほっとしていた。

 「それにしてもよくあそこから動画なんて撮れてたな」

 孝也が感心したように言うと松原は少し照れ臭そうに笑う。

 「実はね、あれはただのハッタリだよ。ほんとは動画なんて撮ってないんだ〜」

 「そうなんですか?」

 松原の言葉を聞いて星乃は目を丸くしている。しかし孝也は気がついていたようだった。

 「やっぱりな。あんな草が生い茂ってるところから動画なんか撮れるかよ」

 「でも東海林くんは撃退できたし、オッケーじゃない?」

 「そうですね。ありがとうございます、松原さん」

 「まあ、助かった。ありがとう、松原」

 星乃に続いて孝也からの礼の言葉に松原は顔を真っ赤にして動揺しているようだった。

 「え!? あ、うん。どーいたしまして……」

 松原の耳元まで近づき、星乃が小声で聞く。

 「大丈夫ですか……」

 「うん、孝也くんからお礼言われたの初めてだから驚いちゃった……」

 2人がなんの話をしているのかさっぱり聞こえない孝也は買ったお茶を一口飲んでのんびりしていた。

第35話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。

いや〜もう35話ですよ。早いですね〜

そして今回は東海林くんが久しぶりの登場でした。多分ちょくちょく出てくると思いますが彼が今後どうなっていくのかも期待していてください。(ちなみに何にも考えてはいないです)

それではまた次回、お会いしましょう

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