内部崩壊――“安全地帯”にいたはずの最強探索者、依存を断たれて壊れた
——最初の異変は、静かすぎた。
「……人数、減ってませんか?」
ミアが、小さく言った。
「……ああ」
タンクも頷く。
「……昨日まで、もっといたよな」
違和感。
だが、それだけじゃない。
「……空気が違う」
セリスが、目を細める。
「……焦ってるやつが増えた」
その通りだった。
安全地帯の中。
本来なら、安心しているはずの場所。
なのに——
「……落ち着かねぇ……」
「……なあ、外どうなってる……?」
「……俺たち、このままでいいのか……?」
ざわついている。
明らかに。
「……来たな」
俺は、小さく呟いた。
「……何がだ?」
タンクが聞く。
「……“奪い合い”」
その瞬間。
——ドンッ!!
入口側で、衝撃音。
「……っ!?」
全員が振り向く。
「……侵入!?」
タンクが構える。
だが——
「……違う」
俺は、すぐに分かった。
「……中からだ」
沈黙。
「……は?」
「……どういう意味だよ」
その時だった。
「……はは……」
笑い声。
異様に乾いた声。
「……もう無理だろ……これ……」
一人の男が、ふらつきながら歩いてくる。
「……お前……」
タンクが眉をひそめる。
「……昨日まで普通だったやつだろ」
「……普通?」
男は、笑う。
「……普通ってなんだよ」
その目は——
完全に壊れていた。
「……ここにいるだけでいいんだろ?」
「……ならさ」
一歩、踏み出す。
「……なんで“選ばれる側”なんだよ」
空気が、凍る。
「……何言ってんだ」
タンクが低く言う。
「……決まってるだろ」
男は、笑う。
「……“選ぶ側”になりたいんだよ」
沈黙。
「……やめろ」
ミアが、震える声で言う。
「……それ……」
「……ああ」
男は、頷く。
「……簡単だろ?」
周囲を見る。
「……こいつら、減らせばいい」
その瞬間。
空気が、完全に変わった。
「……おい」
タンクが、一歩前に出る。
「……それ以上言うな」
「……なんでだよ」
男は、笑う。
「……どうせ皆思ってんだろ?」
「……誰が残るかって」
沈黙。
誰も、否定しない。
「……ほらな」
男は、満足そうに笑う。
「……だったらさ」
ゆっくりと、手を上げる。
「……やるしかねぇだろ」
——ガッ!!
近くにいた探索者の首を掴む。
「……っ!?」
「……やめろ!!」
タンクが叫ぶ。
「……遅い」
男は、笑う。
「……これで一人減る」
——ドクン
その瞬間。
空間が、反応した。
「……っ!?」
ミアが息を呑む。
「……何これ……!」
紋様が、男の周囲に集中する。
「……強くなってる……?」
セリスが、笑う。
「……ああ」
「……“選別”に反応してる」
沈黙。
「……つまり」
タンクが、低く言う。
「……殺せば、優先されるってか?」
「……ああ」
俺は、頷いた。
「……効率がいいからな」
静寂。
「……はは……」
男が、震えながら笑う。
「……やっぱりな……!」
「……これだよ……!」
その目は、完全に狂っていた。
「……やめろ」
ミアが叫ぶ。
「……ここは……!」
「……違う」
男が、遮る。
「……ここはもう“楽園”じゃない」
「……“選別場”だ」
沈黙。
その言葉は——
正しかった。
「……カナメ」
セリスが、低く言う。
「……どうする?」
「……決まってる」
俺は、一歩前に出た。
男を見る。
「……放せ」
「……は?」
「……その手」
静寂。
「……なんでだよ」
男が笑う。
「……お前も分かってんだろ?」
「……強くなれるんだぜ?」
「……ああ」
俺は、頷いた。
「……でも」
一言。
「……気に入らない」
沈黙。
「……は?」
「……ルール違反だ」
その瞬間。
——パチン
男の手が、弾かれた。
「……っ!?」
「……なんだよ!?」
「……決めた」
俺は、静かに言った。
「……お前は」
一瞬、間を置く。
「……出禁だ」
静寂。
「……は?」
男の顔が、固まる。
「……冗談だろ?」
「……いや」
俺は、首を振る。
「……本気だ」
「……待て」
男が、後ずさる。
「……俺は……」
「……必要だろ?」
「……強くなれるんだぞ?」
「……関係ない」
俺は、淡々と言った。
「……邪魔だ」
その一言で。
空気が、凍った。
「……ふざけんな!!」
男が叫ぶ。
「……ここは俺たちの場所だろ!!」
「……違う」
俺は、即答した。
「……俺の場所だ」
沈黙。
その言葉で——
全員が理解した。
「……カナメ……」
ミアが、震える。
「……それ……」
「……ああ」
俺は、頷いた。
「……そういうことだ」
男が、震える。
「……やめろ……」
「……外は……」
「……知ってるだろ……」
「……ああ」
俺は、静かに言った。
「……だから出す」
その瞬間。
——バチン!!
男の体が、弾かれる。
「……っ!?」
境界の外へ。
「……待て!!」
男が叫ぶ。
「……戻せ!!」
「……無理だ」
俺は、動かない。
「……出禁だ」
沈黙。
「……嘘だろ……」
男の顔が、崩れる。
「……こんな……」
「……こんなことで……」
「……ああ」
俺は、頷いた。
「……こんなことで決まる」
その瞬間。
外の空気が、男を包む。
「……っ!」
呼吸が乱れる。
「……やめろ……!」
「……助けてくれ!!」
誰も、動かない。
いや——
動けない。
「……カナメ……」
ミアが、泣きそうな声で言う。
「……お願い……」
沈黙。
俺は、目を逸らさない。
「……ルールだ」
一言。
その瞬間。
——ボロッ
男の体が、崩れ始める。
「……ああああああ!!」
叫び。
絶望。
そして——
静寂。
完全に、消えた。
誰も、動かない。
「……これが」
セリスが、静かに言う。
「……“支配”か」
「……ああ」
俺は、頷いた。
その時。
空間が、強く脈打つ。
——ドクンッ!!
「……また!?」
ミアが叫ぶ。
「……今度はなんだ!?」
「……新しい条件だ」
俺は、静かに言った。
「……“内部選別”」
沈黙。
「……つまり」
タンクが、低く言う。
「……中でも選ばれるってことか?」
「……ああ」
俺は、頷いた。
「……もう逃げ場はない」
静寂。
その言葉に——
全員が理解した。
「……ここにいる限り」
セリスが、笑う。
「……選ばれ続けるしかない」
「……ああ」
その時。
“それ”が、静かに言った。
「——外部接近」
空気が、凍る。
「……来たか」
俺は、小さく笑った。
「——人間集団」
「——大規模」
沈黙。
「……奪いに来たな」
タンクが、拳を握る。
「……どうする?」
俺は、ゆっくりと境界を見る。
「……簡単だ」
その目が、冷たくなる。
「……選ぶだけだ」
空間が、静かに震えた。
——次は、“大規模侵攻”。




