それは“世界の管理者”だった――だが最初に口にしたのは『ここに入れてほしい』だった
——空気が、変わった。
「……なんだ、これ」
タンクが、低く呟く。
重い。
圧が違う。
「……息が……」
ミアが、胸を押さえる。
「……外とも違う……」
「……ああ」
セリスが、目を細める。
「……もっと根本的な何かだ」
その瞬間。
——パキッ
空間に、ひびが入った。
「……は?」
タンクが固まる。
「……壊れてる……?」
「……違う」
俺は、すぐに否定した。
「……“開いてる”」
そのひびは——
内側からじゃない。
外でもない。
「……上か……?」
ミアが、震える声で言う。
その通りだった。
——バキバキッ
空間が、裂ける。
黒でも、白でもない。
色のない“何か”が、そこにあった。
「……出てくるぞ」
セリスが、低く言う。
全員が構える。
だが——
「……意味ないな」
タンクが、苦笑する。
「……あれ、殴れる感じじゃねぇ」
その通りだ。
そもそも“敵”という概念が、通用しない。
——スッ
“それ”が、現れた。
形は、人に近い。
だが、明らかに違う。
輪郭が、揺れている。
存在そのものが、安定していない。
「……なんだよ……これ」
誰かが呟く。
「……分からない」
ミアが、震える。
「……でも……」
「……これ……」
言葉を失う。
その時だった。
“それ”が、口を開いた。
「——観測完了」
声は、機械的だった。
だが。
どこか、人間に近い。
「——異常領域、確認」
「——干渉開始」
沈黙。
「……おい」
タンクが、低く言う。
「……これ、やばいやつだろ」
「……ああ」
俺は、頷いた。
“それ”が、こちらを見る。
「——管理権限、照合」
「——該当なし」
「——再照合」
一歩、前に出る。
——ビリッ
境界が、軋む。
「……おい」
セリスが、目を細める。
「……あれ、入ってくるぞ」
「……拒否」
俺は、即座に言った。
——パチン
弾かれる。
「——拒否、確認」
“それ”は、止まった。
「——異常」
「——侵入不可」
沈黙。
「……効いてるな」
タンクが、少しだけ安心したように言う。
だが。
「——再評価」
“それ”が、ゆっくりと言った。
「——当該領域」
「——安全性、極大」
「——維持性、極大」
「——依存性……」
一瞬、言葉が止まる。
「——異常値」
沈黙。
「……依存、って言ったな」
セリスが、小さく笑う。
「——結論」
“それ”が、顔を上げる。
そして——
「——当該領域、必要」
静寂。
「……は?」
タンクが固まる。
「——申請」
“それ”は、ゆっくりと言った。
「——内部へのアクセスを要求」
沈黙。
「……おいおい」
セリスが、笑う。
「……まさかの展開だな」
「……ああ」
俺も、少し驚いていた。
「……お前もか」
思わず、口に出る。
「——肯定」
“それ”は、即答した。
「——外部環境、不安定」
「——維持困難」
「——当該領域、最適」
沈黙。
「……つまり」
タンクが、低く言う。
「……お前も依存するってか?」
「——肯定」
即答だった。
空気が、凍る。
「……やばすぎだろ」
誰かが呟く。
「……世界そのものが、依存しに来た」
セリスが、笑う。
「……笑えないな」
ミアが、震える。
「……これ……」
「……受け入れていいんですか……?」
沈黙。
俺は、“それ”を見る。
「……条件がある」
「——提示を要求」
「……一つ」
ゆっくりと言う。
「……ここでは、俺がルールだ」
沈黙。
「——確認」
「——当該個体、管理権限保持」
「——矛盾」
「……そうだな」
俺は、頷いた。
「……でも」
一歩、前に出る。
「……ここでは、そうなる」
静寂。
“それ”が、わずかに揺れる。
「——再計算」
「——優先順位変更」
沈黙。
そして——
「——受諾」
全員が、固まった。
「……マジかよ」
タンクが呟く。
「……受け入れたぞ」
「……ああ」
俺は、静かに言った。
「……じゃあ、入れる」
その瞬間。
——ドクンッ!!
空間が、爆発的に脈打つ。
「……っ!?」
ミアが叫ぶ。
「……規模が……!」
「……違う……!」
紋様が、今までとは比べ物にならない速度で広がる。
「……やばいぞこれ!」
タンクが叫ぶ。
「……どこまで行くんだ!?」
俺は、目を閉じる。
「……分かる」
「……何がだ」
「……全部だ」
沈黙。
「……は?」
「……ダンジョンだけじゃない」
ゆっくりと言う。
「……外の世界も」
「……さらに外も」
「……全部、繋がった」
静寂。
「……意味分かんねぇよ」
タンクが、呆然と呟く。
その時。
“それ”が、境界を越えた。
——スッ
何も起きない。
ただ、自然に入った。
「——安定」
「——最適化開始」
その瞬間。
全員の体が、わずかに軽くなる。
「……なんだ?」
ミアが驚く。
「……これ……」
「……さらに強くなってる……?」
「……ああ」
俺は、頷いた。
「……こいつの影響だ」
“それ”は、静かに立っている。
「——当該領域」
「——維持、補助可能」
沈黙。
「……つまり」
セリスが、笑う。
「……世界そのものが、ここを支える?」
「——肯定」
その一言で。
全員が、黙った。
「……終わってんな」
タンクが、苦笑する。
「……もう勝ちじゃねぇか」
「……いや」
俺は、首を振った。
「……違う」
全員が、こちらを見る。
「……これで終わりじゃない」
ゆっくりと、言う。
「……これが“始まり”だ」
その瞬間。
“それ”が、こちらを見た。
「——警告」
空気が、凍る。
「……なんだ」
タンクが構える。
「——上位存在、観測」
沈黙。
「……は?」
「——当該領域」
「——認識された」
静寂。
「……つまり」
セリスが、目を細める。
「……さらに上が来る?」
「——肯定」
その瞬間。
全員の背筋が、凍った。
俺は、小さく笑った。
「……いい」
「……来いよ」
その目が、細くなる。
「……全部、選ぶ」
空間が、静かに震えた。
——次に来るのは、“神に近い何か”。




