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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第3章

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第13話: 修正

夜明け前。


 丘の上の火は、灰になっていた。


 勇者は眠っていない。


 座ったまま、空を見ていた。


 寒さは感じない。


 焦燥も、今はない。


 ただ、待っている。


 降りるという選択は、しなかった。


 自分が間違っていたかもしれない、という考えを、

 最後まで飲み込めなかった。


 だから待つ。


 来るはずだ。


 来なければ、おかしい。


 俺は勇者だ。


 やがて朝霧の向こうに、三つの影が現れる。


 歩いてくる。


 ゆっくりと。


 勇者は立ち上がる。


 何か言おうとする。


 だが、三人は何も言わない。


 丘を登る。


 聖女の顔色はまだ悪い。


 賢者は無表情。


 暗殺者は視線を合わせない。


 距離が、ある。


「……行くぞ」


 勇者はそれだけ言う。


 誰も返事をしない。


 四人は並ぶ。


 歩き出す。


 昨日よりも、さらに静かだ。


 隊列は整っている。


 だが、繋がっていない。


 昼前。


 魔物の群れが現れる。


 数が多い。


 異様に多い。


 賢者の眉が動く。


「……多すぎる」


 暗殺者が低く呟く。


「囲まれてる」


 聖女は杖を握る。


 まだ本調子ではない。


 勇者が前に出る。


「下がってろ」


 短い。


 それだけ。


 魔物が一斉に襲いかかる。


 地が震える。


 牙。


 爪。


 咆哮。


 勇者は踏み込む。


 速い。


 昨日よりも速い。


 剣が閃く。


 一体、二体、三体。


 だが数が減らない。


 後方に回る個体。


 聖女に迫る影。


 賢者が詠唱に入る。


 だが。


 その瞬間。


 世界が、軋んだ。


 音ではない。


 だが確かに何かが“噛み合った”。


 勇者の視界が白く染まる。


 鼓動が跳ね上がる。


 血が沸騰する。


 何かが流れ込んでくる。


 理屈ではない。


 強制的な、補填。


 足が軽い。


 刃が重い。


 世界が遅い。


「……は?」


 次の瞬間。


 勇者は消えた。


 いや、速すぎて見えない。


 斬撃が爆ぜる。


 空気が裂ける。


 魔物の群れが、一瞬で切り裂かれる。


 地面が割れる。


 最後の一体が倒れるまで、


 数息。


 静寂。


 血の匂い。


 勇者は立っている。


 呼吸は荒い。


 だが、傷はない。


 さっきまでの劣勢が、嘘のようだ。


「……なんだ、今の」


 賢者の声が低い。


 理論が追いつかない。


 勇者は自分の手を見る。


 震えていない。


 力が満ちている。


 底がない。


 理解する。


「俺……」


 息を吐く。


「覚醒したみたいだ」


 笑う。


 安堵に近い笑み。


「これで守れる」


 三人を見る。


「安心しろ」


 胸を張る。


「みんな、俺が守るんだ」


 それは宣言。


 誓い。


 そして――断絶。


 聖女の指が震える。


 目が揺れる。


 守られる。


 完全に。


 自分の祈りがなくても。


 それは、救いか。


 違う。


 存在の否定だ。


 賢者は勇者を見つめる。


 理論が組み上がる。


 外部からの干渉。


 過剰な補正。


 世界が、帳尻を合わせた。


 勇者を中心に。


 ならば。


 自分たちは何だ。


 調整対象か。


 暗殺者は、笑った。


 乾いた笑み。


「へぇ」


 小さく拍手する。


「すごいな、勇者様」


 目は笑っていない。


「これで全部解決だ」


 皮肉はない。


 事実だ。


 勇者一人で足りる。


 ならば。


 勇者パーティは、いらない。


 勇者は気づかない。


 三人の温度差に。


 力がある。


 確信がある。


 これで戻せる。


 あの形に。


 焚き火の夜に。


 守れる。


 全部。


 その時。


 遠く。


 玉座の間。


 闇の奥。


 魔王が目を細める。


 余は、笑う。


「ほう?」


 空間の歪みを感じる。


「想定外の歪みだな」


 勇者の気配が、跳ねた。


 強制的な底上げ。


 世界が直接触れた。


「面白い」


 余は立ち上がる。


 補正が露骨すぎる。


 焦っているのは、世界か。


 勇者はまだ壊れていない。


 だが孤立した。


 そこに力を与える。


 愚策だ。


 力は孤独を加速させる。


 余は知っている。


 武人であった頃、


 力だけが残った夜を。


「さて」


 余は呟く。


「どこまで歪む」


 視界の先。


 勇者は笑っている。


 三人は、笑っていない。


 世界は一人を持ち上げた。


 だがその代償に、


 四人の均衡は完全に崩れた。


 勇者は前を向く。


「行こう」


 足取りは軽い。


 自信がある。


 三人は続く。


 だが距離がある。


 もう、追いつくためではない。


 離れすぎないために歩いている。


 空は晴れている。


 風が強い。


 見えない糸が、勇者に絡みついている。


 それは祝福か。


 それとも拘束か。


 誰も答えない。


 ただ一つ確かなのは。


 この瞬間。


 勇者は最強になった。


 そして。


 最も孤独になった。




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