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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第2章

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第7話: 『補正』

それは、明らかな失敗だった。


 賢者の判断ミス。


 珍しいことではない。


 だが致命的だった。


「索敵範囲、甘い!」


 暗殺者が叫ぶ。


 遅い。


 地面が崩落する。


 罠。


 勇者の足場が消える。


 落下。


 下は槍林。


 本来なら。


 ここで死ぬ。


 聖女の声が震える。


「勇者様――!」


 距離がある。


 間に合わない。


 賢者の詠唱も、角度が足りない。


 暗殺者は飛ぶ。


 届かない。


 計算上、間に合わない。


 勇者は空中で体勢を整える。


 だが無理だ。


 角度が悪い。


 槍の密度が高すぎる。


 死ぬ。


 そう判断した瞬間。


 地面が、さらに崩れた。


 槍の半分が傾く。


 一本、折れる。


 勇者の体が、その隙間に落ちる。


 刺さらない。


 浅い。


 致命傷にならない。


 同時に。


 聖女の光が届く。


 賢者の拘束が上部の罠術者を止める。


 暗殺者が底に着地し、周囲を排除する。


 静寂。


 勇者は、息をしている。


 血は出ている。


 だが、死なない。


 死なない位置。


 死なない角度。


 死なない崩落。


 暗殺者は、折れた槍を見る。


 金属疲労ではない。


 切断でもない。


 ただ。


 偶然。


 折れただけ。


 勇者は笑う。


「危なかったな……」


 賢者は蒼白だ。


「私の誤算だ」


 聖女は泣きそうな顔で祈る。


 暗殺者は何も言わない。


 確率。


 角度。


 重量。


 落下速度。


 全てが。


 死なない値へ収束した。


 今度は明確だ。


 “事故”だった。


 だが、死なない。


 補正。


 言葉が、喉まで来る。


 飲み込む。


 まだ。



 魔王城。


 闇宰相の報告は速い。


「勇者、罠により落下。致命率八七%」


「結果」


「軽傷」


「理由」


「崩落の二次発生」


 魔王は立ち上がる。


「二次崩落は誰の指示だ」


「自然崩壊です」


「確率は」


「〇・〇三%未満」


 沈黙。


 魔王の目が細くなる。


「余は、罠術者に崩落強度を固定させた」


「はい」


「補強も施した」


「はい」


「それでも折れたか」


「……はい」


 偶然ではない。


 ここまで低確率が連続するなら。


 偏りではない。


 意思に近い。


 魔王は静かに言う。


「補正だ」


 闇宰相は否定しない。


「観測強度に応じた自己修復」


 魔王は拳を握る。


 怒りではない。


 理解だ。


 世界は勇者を死なせない。


 少なくとも、今は。


「余は工程の障害物か」


 誰にも答えられない。



 夜。


 勇者は横になっている。


 傷は浅い。


 聖女の回復で塞がっている。


「死ぬかと思った」


 軽く言う。


 軽すぎる。


 賢者は沈んでいる。


「私の責任だ」


「結果、生きてる」


 勇者は笑う。


「それでいいだろ」


 暗殺者は焚き火の向こうから見る。


 あれは。


 死んでいた。


 確率上。


 死んでいた。


 だが死なない。


 事故が、事故にならない。


 失敗が、失敗にならない。


 逸脱が、修正される。


 勇者は選んでいると思っている。


 賢者は理屈で納得する。


 聖女は神に帰結させる。


 だが。


 暗殺者は理解する。


 これは。


 勇者の力ではない。


 仲間の力でもない。


 もっと外側。


 もっと上位。


 工程を守る力。


 暗殺者は勇者を見る。


 中心。


 核。


 補正対象。


 ほぼ確信。


 だが。


 まだ言わない。


 まだ。



 魔王は独り。


「閾値を越えた」


 観測は確定に近づいた。


 補正は露骨だ。


 だが突破方法はない。


 正面から殺せば、補正される。


 事故も補正される。


 揺らぎも吸収される。


 ならば。


「勇者自身が選ばぬ限り」


 止まらない。


 魔王は静かに息を吐く。


 勇者はまだ知らない。


 自分が守られていることを。


 守られすぎていることを。


 暗殺者は気づき始めている。


 世界は、工程を守る。


 魔王は目を閉じる。


「観測から、干渉へ移る」


 次は。


 勇者の内側だ。


 工程を壊すなら。


 外からではない。


 内から。


 静かに。


 確実に。



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