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「僕の部屋にダンジョンがある事はどこから漏れたんでしょうか」
裕は玲子さんが中国企業に情報を売ったのだと考えていたが、そうじゃ無くて自分がまた何か迂闊な事をしでかしていたのだとしたら、もっと慎重になる為にも何を気を付ければ良いのかは知っておきたいと考えて聞いていた。
「僕は山伏君の能力を知っているから当然予想はできたよ。だから疑われるのは仕方ないとしても、玲子さんじゃない事は確かだよ」
「誰かにつけられていたのだとしても、部屋の中の事だからバレる事は無いと思ってた。実際葵さんにもバレていないのに本当に不思議なんだ」
「本当に誰にも話していない?」
涼太にそう聞かれてみると、赤塚美憂に望まれるままにダンジョンを見せた事を思い出していた。
裕にとって初めて自分に良くしてくれた女子だったので浮かれ過ぎていたのは確かだったが、今となっては自分の馬鹿さ加減も踏まえて思い出したくも無くて封印した思い出だった。
「あぁ、そう言えば・・・」
「誰かにうっかりにでも話したら100人に伝わると思って覚悟する事。SNSに上げたら世界中に知られ、後で後悔しても取り消す事もできないよ、気を付けて」
「でも未調室の人だって言ってたから信用して・・・」
「本当に信じて良い人かは自分でしっかり判断しないとね」
裕は今更ながらに自分の迂闊さ子供さ加減に心底呆れ果てていた。
結局すべては自分で自分の首を絞めていたと言う事で自分の責任だった。
それを誰かのせいにしようと考えていた事も恥じた。
「はい・・・・・」
「それよりさっき姿を消したのは、やはりダンジョンで貰った能力?」
「そうです。ダンジョンの出入り口を完全に隠蔽したいって思って」
「それにしても凄いよね。僕達は山伏君に空間を提供して貰ってからもうずいぶん経つのに、まだ一度たりとも願いの申請を実現できていないんだよ。やはりダンジョンでの魔物討伐が効率が良いんだろうな」
「そうみたいですね」
裕は涼太の話に軽く答えながら、初めてダンジョンに入った頃の事を思い出していた。
魔法も使えなくて1日に1万円を稼ぐのにも苦労していたあの頃を思い出し、あのペースのままダンジョン攻略をしていたら、きっと今の様に浄化を進める事はできなかっただろうし、願いの申請でこんなにも能力を手に入れる事も無かっただろうと考えていた。
そしてきっと涼太達はあの時よりも遅いペースで浄化の手伝いをしているのかと思うと、願いの申請がどれ程大変で貴重な事なのかと考えずにはいられなかった。
そう思うとそれに関してだけは自分がして来た事はけして間違いでは無かったと胸を張れた。
少なくとも浄化の手伝いだけはかなりできているだろう。
「今からダンジョンに変えられるものなら」
涼太が吐き出す様に呟いた言葉に、(できるよね)とは思ったが、余計な事は言わない事にした。
あの空間をどう利用するのかは手に入れた人の考え次第だ。裕がそこまで口出しし手助けをする事も無いだろう。
と言うか、そこまで関わる気は裕には今はもう無かった。
少し前の裕だったら、得意気になって自分から首を突っ込み迂闊にも関わっていただろう。
しかし今はそれが自分の首を絞める事になり、誰かに特定され易くなり、結果的に葵さんまで危険にさらす事になるのだと学習した。
そしてそこまでの責任は裕には無い。今はそう冷静に割り切れる。
「そう言えば僕、定時制高校へこの春から通おうかと思っていたんですが、涼太さんと話していたらそれよりも葵さんと離れない方が良いかなって思ったんですけど、僕も一緒にアメリカへ行っても構いませんか?」
裕は今はまだ国家未詳案件調査対策室のアルバイトとしてお給料を貰っている立場なので、一応自分の考えを話してみた。
「僕の考えから言えば、今は離れていた方が危険も少ないと思うよ。山伏君が自分でも言った様に潜伏する分には関係を探られる事もないだろうし、しばらくは未調室に近寄らなければ特定するのは難しいと思うしね」
「本当にそれで大丈夫ですか?」
「もう少し僕を信じて頼ってくれても良いと思うよ。山伏君は素敵な高校生活をエンジョイして、卒業後にまた関係の見直しでも話し合う事にしようよ」
「良いんですか?」
「何かあったら遠慮なく連絡はしてね。それこそ山伏君は空間内を転移して来られるんだよね?だったらこれからは未調室にある空間へ転移して来て待ち合わせれば良いしね」
そんな事を今思いつくなら、初めからそうすれば良かったじゃないか、と自分の事も責めていた。
しかしそうと決まれば密かに学校近くへ引っ越し、あまり目立たない様に生活しながら、涼太が勧めてくれる様に高校生活を楽しんでみるかと改めて決めた。
今の裕なら別に飛行機に乗らなくてもアメリカへも行けるし、葵さんの無事を確認する位ならいつでもできる。
何ならアメリカにもアパートを借りて、葵さんを見守りながら二重生活をする事も選択肢に入れられる。って、それって一種のストーカー行為か?
でもそんなの関係ない!
となったら、以前考えていたこの世界すべての言語理解能力は絶対必要だな。
裕はこうして次の願いの申請で手に入れる能力を決め、これからの新たな自分の活動予定も決めて行くのだった。
これで1章完結とさせていただきます。
ここまで応援していただいた方々には本当に感謝に堪えません。
特に多かった初めは面白かった、主人公に魅力を感じないという様なご指摘や感想も大変参考になり勉強になりました、ありがとうございます。
また同時に自分の拙さも実感しております。
もう少し構想を練り直しこの続きを書く事がありましたら、その時はまたお付き合いいただければ幸いです。
本当にここまでお付き合いいただきありがとうございました。




