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「今電話大丈夫ですか?」
裕は葵が出かけるのを待って涼太に連絡を取った。
「うん、大丈夫だよ。何かあった?」
「葵さんと玲子さんが最近良く一緒に飲みに行っているのは涼太さんも知っている事ですか?」
裕は涼太の反応を探る為に直球で聞いてみた。
以前涼太と玲子はまったく関係ないと言っていたが、そもそもその話が何処まで本当なのか裕には判断のしようがなかったし、今思うと涼太の事を一方的に信じ切っていた様に感じていた。
「葵さんって誰だろう?」
「ああ、僕の叔母さんの名前知りませんでしたか」
何だか肩透かしをくった返事に裕は一瞬気が抜けてしまったが、まだ油断する訳にはいかないと気を引き締め直す。
それに裕には最近になって気付いた事があった。
裕が出かけると同じ人を何度か見かけている様な気がして、完全記憶能力を使って調べてみるとかなりの頻度で視界の隅にその人が写り込んでいた。
2度や3度なら偶然と言う事も考えられるが、殆ど必ずとなったらそれは何かを意図しているのだろう。
服装が違っていたり眼鏡をかけたり帽子を被ったりといつも雰囲気は変えているが、(見張られているのか?)気付いてしまえばそんな変装は裕には意味が無かった。
いったい誰に何のために見張られているのか。
相手が日本人である以上海外の諜報員で無い事は確かだと思うが、かと言って国家未詳案件調査対策室だとしたら裕に見張りを付ける意味が分からず裕は悶々としていた。
この際だから涼太が何か知っているのか、何か関係しているのか、その疑問を素直にぶつけてみようと意気込んでいたのに、聞き方を間違えたかと少し後悔していた。
「電話じゃなんだから、会って話そうか」
裕は涼太の反応からやはり涼太は何かを知っている。詳しい話を聞けるのだと確信して会う場所を決めて電話を切った。
河川敷の傍にある少し広い自然公園の中の東屋の様な場所で待ち合わせをした。
近くには野球グランドもあって、実際に公園内に入ってみるとかなり広く感じた。
ウォーキングコースの様な歩道も整備され、子供達の遊具と一緒にぶら下がり健康器の様な運動具もあちこちに設置されていて、きっと休日や時間帯によっては人も多いのだろうと予想された。
木々に囲まれて静かな雰囲気の東屋に向かうと、涼太は先に着いていた。
「こんな公園に来るのは初めてです」
裕は涼太の姿を見つけ涼太より先に挨拶代わりに話しかける。
「そうなの?僕はここの落ち着いた雰囲気が好きで良く来るんだよ」
コンビニで買ったと思われるコーヒーを裕に差し出しながら涼太が答えた。
裕はコーヒーを受け取ったは良いが、意気込んでいた割には何からどう聞けば良いか迷い話を続けられずにいた。
「それで玲子さんの話だったかな?」
裕の迷いを感じ取ったのか、涼太の方から静かに話し始めた。
「玲子さんが諜報員としての活動を引退したがっていたのでね、今は僕の仕事を手伝って貰っていて、その内容の一つに君の叔母さんの警護も含まれているんだ」
「葵さんの警護って?」
裕は思いもしていなかった話に驚きを隠せなかった。
思いもしなかったというより、うっすらと考えた事はあったが、何処かで葵さんには関係ないと思い込もうとしていたのだと思う。
「最近空間込みでアパートを手放したでしょう、あれで万が一山伏君や君の叔母さんに他国から関心を持たれ絡まれる事が無い様に手を打ったと言った所かな」
「どうして知ってるんですか?」
アパートを中国企業に売った事は、涼太にも課長にもまだ話してはいなかった裕は、既に知られている事に驚いた。
「他国が持っている情報は僕も手に入れているよ」
顔色も変えず平然と答える涼太を裕は少し怖く感じていた。
「じゃあ、最近僕を見張っている人はやっぱりそれが関係してるんですか?」
「気付いているとは思わなかった、ちょっとびっくりだな」
涼太は少しだけ驚いた表情を見せたが、すぐに何事もなかった様に表情を戻し何かを考えている様だった。
「僕の安全を考えてくれていたって事ですか?」
暫くの沈黙に耐え切れず裕から話始めていた。
「そうだね、山伏君がこの件に何かしらの関わりを持つと知られているだろうけど、山伏君の能力や何処の誰かまではまだ特定されていないのが救いだね」
「近い内に特定されるかも知れないって事?そうしたら当然葵さんも危険に巻き込んでしまうんだよね?」
「その心配がゼロでは無いから僕達は警戒し隠れて警護の様な事をしていたんだよ。黙っていてごめんね」
本来なら国家未詳案件調査対策室と取引をした時点で想定しておく事だったと裕は深く反省した。
あの時は隠していた現金を隠さなくて良くなった事をただ喜び、初めて就職できた事に大人になれた様な気になって単純に浮かれていたのだと思う。
本当に自分は対人関係だけでなく、色んな意味で圧倒的に経験不足な子供だったと感じていた。
しかし今はあの時よりは少しは成長したと思うし、色々考えられるよになった筈。
「特定されない様にすればいいんだよね?」
「中国政府には詮索しない様に釘はさしてあるけどね、相手が相手だから用心に越した事は無い。敢えて他国に情報を流し情報を手に入れようとするかも知れない。想定できる事は対策はしているつもりだから山伏君は心配しないで」
涼太は裕を安心させる様に笑うが裕は頭を振った。
「僕だってもう守られているだけの子供じゃないですよ。アパートを売った事に感謝していた中国が僕達を裏切る様な行為に出るというなら僕は反撃しますよ」
裕の反応に不思議そうな表情を見せる涼太に裕は畳みかける。
「当然あのまりもダンジョンは取り戻すし、何ならまりもダンジョンに入っている奴らを閉じ込める事もできるんですよ、今の僕になら簡単にね」
裕は国家未詳案件調査対策室に対してもいつでもそう出来るのだという意思表示も込みで言ってみた。
どうやってと聞きたそうな涼太を尻目に裕は続ける。
「こんな事もできるんです」
そう言って裕は自分の姿を消して見せた。
裕は隠蔽結界を自分に対して使ったらどうなるかと考えて試したところ、自分の姿を消す事に成功していた。
とは言っても、消せるのはその姿だけで、気配までは消す事ができないので悪事を働くのは無理だろうし、防犯カメラが設置されている所で使えば騒ぎになるだろう。
今はただ単に裕の意気込みと本気を、いくつかの能力を知られている涼太に見せたかっただけだった。
当然涼太は驚き声も出せない様だった。
それに出入り口を好きな所に設置する能力は、以前は空間を認識しないとできなかったが、今は空間探知能力のマップから選ぶだけで好きにできる様になっていた。
なので空間の出入り口を好きにできる能力を使って、今なら本当に例え海外だろうが自由にどこでも移動する事もできた。
「僕が特定されない様にこの街を離れて姿を隠せば良いのでしょうか?未調室との接触を避けて何か重要な話や連絡はダンジョン内ですれば他国に知られる事も無い。何なら涼太さんからも隠れてみせますよ。僕からは手は出しませんが、やられたらやり返す位の事は今なら僕にでもできるんです」
隠蔽結界を消して姿を現すと、しっかりと涼太を見詰めながら強く言った。
もし自分が空間と関係があると誰かに特定され危害を加えられ、その結果葵さんまで巻き込む事になるのはけして裕の望む所ではない。
そんな事になるのなら今後一切国家未詳案件調査対策室とも手を切り、誰にも知られない所で暮らす事も考えるべきかと裕はそんな覚悟もしていた。
ダンジョンがある限り少なくともお金に困る事は無いから行こうと思えばどこへでも行ける。
それにこうなったら家族を見返すためのステータスなんてもうどうでも良い、今は何より葵さんの身を心配するだけだと裕は考えていた。
何にしても今はまだ国家未詳案件調査対策室の後ろ盾があった方が、裕にとっても葵さんの事を考えても有利だろうとは思える。
でもこれからの予定は考え直さなければならないかと、裕はあれこれと考えるのだった。
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