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俺だけのダンジョン  作者: 橘可憐


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誤字報告いつもありがとうございます。

本当に助かっています。


涼太と裕は国家未詳案件調査対策室へと戻り、いつもの応接ソファーに座り課長が来るのをお茶を飲みながら待っていた。


空間出入り口を守るために急遽建てられた鉄筋の囲い内に入ろうとしたところを襲われた課長は、いきなりの事に驚いて転んだだけで、直接暴行を受けた訳では無いらしい。

護衛を兼ねていた助手が襲って来た奴らを蹴散らし、現場は今警察が現場検証をしながら警備をしていて、課長は念のために病院で診察を受けているそうだ。


病院へ行こうかとも考えたが、ここに設置された空間出入り口の説明もあったので、結局課長が国家未詳案件調査対策室に戻るのを待つ事にしたのだ。


裕は課長に空間の出入口をここへ設置した事を知らせたらさぞかし驚くだろうと思いながら、また課長の長話を聞かされる事になるのかとちょっとだけ憂鬱にもなっていた。


そんな裕の気持ちを察したのかは分からないが、涼太が真剣な面持ちで話し始める。


「普通人間はさ自分の欲望の方を優先するよね。だから山伏君からダンジョン攻略のための能力を聞かされて、それがとても有益だと分かっていても、実際の所その能力を優先する事は無いと思う。だって願いの申請だって実際の所いつあるか幾つ叶えられるか分からないんだよ。そう思うと尚更にどうしたってだ。事実僕はいまだに願いを一度も叶えられていない」


涼太は深い溜息をついてからまた話し続ける。


「僕は山伏君の部屋で少しの間とはいえ、山伏君がダンジョンを攻略しているのも見ているし、そして願いを叶える所もしっかり確認してみて、願いを叶えるのは意外に簡単な事なんだと考えていた。でも実際自分でやってみるとそう簡単では無くて、願いを叶える事の大変さをつくづくと実感していたんだ。やっぱり無欲が一番の近道で正解だったんだろう。きっと山伏君だったからできた事なんだと僕はそう思う」


「そんな事無いですよ」


裕は涼太がまるで懺悔でもしているかの様に話す中で、自分が褒められた事だけを拾い出し、そう答えるのが精一杯だった。


「実際僕はこの期に及んでも、空間探知能力だとか出入り口設置能力に管理者と引き続き繋がれる能力は絶対に必要だと思いながら、それは山伏君を頼れば良いかと考えていて自分でその能力を手に入れようとは思ってもいない」


「いつでも俺を頼ってください」


涼太の正直な告白に裕は頼られる事の嬉しさと少しの照れくささを感じ、少しだけ胸を熱くしながら力強くそう答える。


そして涼太の話を聞きながら、この1年もしない間に自分が既に8回も願いを叶えている事実は実際にかなり異例なのだろうと考えていた。


裕からすればダンジョンを偶然見つけ、面白い程稼げる事を喜び、ダンジョンという秘密を独り占めしている事に優越感を抱いていた。


実際ファンタジーな世界を体験している事が楽しかったし、どうしたら上手く攻略できるか考えるのも楽しくて、何より聖女様やエルフに黒猫といった管理者に会えるのも楽しかった。


自分が頑張った分の報酬がそのまま手に入り、その結果考えてもいなかった大金を手にできた事で自分の人生さえも変えられたと思う。


だから涼太が言う様に自分が無欲だったとは少しも思ってもいないし、自分にしかできなかったとは考えてもいない。


ただ夢中になっていただけだ。

多分自分と同じダンジョン好きなら同じ様な事を考え同じ様にしていたと思う。

と言うか、もしかしたら他の人ならもっと効率よく攻略できるのかも知れない。


(ダンジョンを見つけてから本当に色々あったな)裕は何げなく回想を始めてある事実に気付く。


「あぁ、俺今日誕生日っす」


裕の今までの誕生日は自分と6日違いの長兄の祝いのついでに一緒にやってやるといった体で、家族からは自分の誕生日をメインで祝われた事など一度も無かった。


それもあって誕生日をあまり意識した事も無く、実際今さっきまで自分でも忘れていた。


勿論叔母からは去年一昨年と誕生日に祝いの言葉とプレゼントは貰っているが、今年もきっと仕事から帰って来てからだろうから、誕生日当日だというのに今の今まで気づいてはいなかった。


涼太にだからどうしたと言われてしまうとそれまでで、何かを期待して言ったつもりでもなかったが、裕は何となくそう呟いていた。


しかし本心では誰かに祝って欲しいと言う気持ちは正直あったかもしれない。


「おめでとう、じゃぁお祝いをしなくちゃね。空間を死守できたお祝いも兼ねてちょっと盛大にしようか」


裕はちょっとだけ期待していた涼太の祝いの言葉を嬉しく思いながら、思ってもいなかった涼太の提案に何気に心を熱くする。


「良いんですか?」


「勿論だよ。今日は山伏君のリクエストに答えるよ」


「それじゃぁ、おすすめのスウィーツの店にまた連れてってください」


「そんなので良いの?もっと豪勢に何でも驕るよ。何なら課長も誘って今夜は高級なお寿司でも食べに行こうよ」


折角の涼太の提案だったが、裕は今夜は家で叔母を待っていたかった。


きっと今年も叔母はプレゼントを抱えて帰って来るだろうと裕は予想していた。


誕生日をすっかり忘れている裕を驚かせるつもりなのか、それとも仕事帰りにプレゼントを選んで買って来るのか、何にしても当日の夜に祝いたいらしい叔母を裕は待っていたかった。


たとえ叔母が裕の誕生日を忘れていたとしても、それでも裕は今夜はちょっとしたご馳走を作って叔母の帰りを待っていたい気分だった。


普段必要以上に絡んでこない叔母が、ご機嫌な酒を飲みながらやたらと色んな昔話をしてくれるだろう今夜、家族から蔑ろにされ虐げられていた裕を引き取り、あのダンジョンに出会わせてくれた叔母に感謝したいと裕は考えていた。


あのボロアパートで管理人をさせられなかったら何も始まらなかっただろうし、そのお陰で今の自分は自分の人生をしっかり歩み出せていると心から感じている。


だから今夜は叔母に心から感謝して、そして今年もきっと言ってくれるだろう叔母の言葉を胸に刻みたいと考えていた。


「19歳というこの1年間が有意義で楽しい年になります様に、裕に幸あれ」



読んでいただきありがとうございます。

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