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綺麗なCAさんは居なかったが、機内はとても快適だった。
裕は今まで飛行機に乗った事など無いが、とにかく狭く窮屈なイメージがあったので、こんなにゆったりと高級感に溢れた待遇を受けて本当に大丈夫なのかと心配になるほどだった。
こんな待遇を一般の飛行機会社で望んだら、いったいいくら位掛かるのだろうとその金額を想像したりもした。
その位機内は暇でやる事が無かった。
涼太は一緒に居る軍服を着た中年のアメリカ人らしい人と何やら話したり資料を読んだりと忙しそうで、助手に徹して大人しくしていろと言われて以降、涼太が裕に話しかけてくる事は無く本当にやる事が無かった。
かと言って機内を用もなくウロウロする訳にもいかず、こんな事ならスマホにゲームや小説や漫画を読めるアプリでも入れておけば良かったと後悔していた。
やる事が無さ過ぎて転寝をしていると機内食を提供されたが、これもまた今まで裕が食べた事の無いようなお洒落で高級そうな料理で、裕はこの時ばかりはテンションが上がった。
裕の料理はワンプレートでメインが厚めに切られたローストビーフだったが、今まで食べたどの肉料理よりも美味しいと感じていた。
付け合わせのサラダも何か良く分からないマリネもパンも多分デザートだろうムースの様なものもグレープフルーツのジュースも、どれもこれも美味しくて裕はこの日初めて満足感を抱いていた。
しかしそんな幸せな時間もあっという間に過ぎ、また窓の外を眺めたり妄想に耽ったりを繰り返していると、一緒に居た軍人さんが席を立ったタイミングで涼太に小声で話しかけられた。
「もうすぐ現地に着くよ。この件はできるだけ早く終わらせたいから、山伏君も空間を見つける準備はしておいてね」
涼太にそう言われた事で、裕はジェット機が着陸したタイミングで空間探知を早速始めた。
裕にはここがアメリカの何州なのか分からなかったが、付近に光る場所はいくつかあった。
一番近くだと多分裕の感覚では30㎞圏内だと思うが、そもそも地図上にそんな表示はなかったし、アメリカの大きさを実感していないので実際の所は確実では無かった、
「一応確認できました」
しかし裕は空間がある事を知らせるためにやはり小声で涼太に教えると、涼太は軽く頷いただけだったが、裕は涼太の次の指示を待つ事にして、そのまま空間探知のマップを絞りさらに場所の特定をしていった。
ジェット機を降りると数人のスーツや軍服を着た人に出迎えられ、英語で会話をする大人達が何を言っているかも理解出来ず、話が終わるのをひたすら待った。
そしてその後涼太が険しい表情を浮かべると、話し合いも穏やかな雰囲気では無くなった。
しかし結局また別の場所へ移動する事になったらしく、裕は言葉の通じないこんな場所で迷う訳にはいかないと、涼太に付いて行くのに精一杯になった。
そして次にヘリコプターに乗せられしばらくすると何処かの島へと到着した。
ヘリコプターを降りるとバンガローの様な丸太を組み上げて作られた多分宿泊施設だろう小屋が並ぶ場所に案内され、裕にも個室が与えられ漸くそこで少し落ち着く事ができた。
部屋には一応浴槽の無いユニットバスはあったので、バンガローと言うより一応コテージになるのかも知れなかったが、簡素なベット二つとサイドテーブルとロッカーの様な棚しかない質素さだった。
しかし何にしても小屋の周りには森以外何も見当たらなかったし、もう既に観光気分は抜けていたので、休めさえすればどうでも良いかといった感じだった。
ベットに身体を投げ出して、さっきまで緊張していた身体をほぐしながら、自分は本当にアメリカに来たのかとしみじみと考えていた。
裕にとってこれぞアメリカと実感できる物をまだ何一つ目にしていなかった。
「これじゃただのアウトドア体験じゃん、テントでキャンプじゃないけど何だよ。俺が時間を掛けてアメリカまで来た意味があるのかよ」
裕は少々不貞腐れながら一人愚痴を吐き出していた。
普通に生きていたら絶対に体験できなかっただろう専用ジェット機や軍用ヘリに乗れたのは貴重な体験だったけれど、それが裕にとってアメリカ観光より嬉しいかと聞かれるとまったくもって否だった。
こうして一人になり少し緊張がほぐれてくると、どうして自分は渡米を簡単に了承してしまったのか、自分はここでいったい何をしているのかと気分は落ち込んで行く一方だった。
こうなったらさっさと自分の仕事を終わらせ、一刻も早く日本に帰るしかないと裕は考えた。
そう自分はあの謎空間を探す為だけに連れて来られたのだと今は理解している。
そしてそれが裕の唯一しなければならない仕事なのだと思えば、しっかりと果たさなくてはとそうも思っていた。
考えてみればその為に空間探知能力を貰ったんだ。
涼太は何やら色んな人との挨拶や話し合いがまだまだあるのか別行動で、ゆっくりしていてとしか言われていない。
多分もうしばらくこのまま一人で放って置かれるだろうから、その間にあの謎空間を見つけておけばきっと明日には帰れるだろうと裕は考えた。
「そうだ、そうしよう」
早速空間探知を発動させると意外な事に想った以上に近い場所に光があるのを確認できた。
この島がそれほど大きくないのは上空からも確認している。
だとしたら歩いて探したとしてもそう時間は掛からないだろう。
(そう言えば涼太さんは何で基地に着いた時点で空間を探させたんだ?まぁ、考えても仕方ないか)
裕は深く考えるのは止めて、空間出入り口を探すために時間も考えずに一人出かけたのだった。
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