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俺だけのダンジョン  作者: 橘可憐


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最近の裕は際限なくダンジョンに籠っていた。


空手とボクシングも休み、買い物も一週間分まとめて行き、睡眠時間も削り洗濯機を回している間の時間さえもダンジョンに入った。


食事も冷凍かインスタントが殆どで、自分でも良くないと思いながら、料理をする時間も食べる時間さえも惜しく感じていた。


部屋に何かあるという疑いは晴れたと涼太は言ったが、かの諜報員たちは個人的にまだ何かを探っているのか、それとも裕自体を疑っているのか、あれから涼太が居ないのを確認する様に頻繁に部屋を訪れ、当然の様に部屋に上がって話をして行くようになった。


お陰で裕のストレスは日に日に溜まり、これはもう一日も早くダンジョンを消滅させるしかないと、何かに取り憑かれたかの様に一心不乱にダンジョンに籠っていた。


それでもダンジョンでかっぱ擬きを無心で討伐するのは結構なストレス発散になるのか、諜報員達相手にイライラを爆発させないで済んでいるのが唯一の救いだった。


そして今裕はその時が近い事を何となく感じ始めていた。


討伐報酬がもうすぐ合計で1億円に届くと言った所まで来ているだけでなく、勘だけでもなく、このダンジョンと黒猫の存在感が日に日に薄くなって行くのを何となく感じていた。



「多分ダンジョンの消滅はもうすぐだと思うけどどうするの?」


裕は久しぶりに顔を出した涼太に今後の事を確認する為に聞いた。


最近の涼太は、裕がスライムダンジョンの場所を教えた事でそちらに掛かりきりになっていて、たまに様子を見に来て裕から報告を受ける程度になっていた。


もうこのかっぱ擬きダンジョンでのデータは、裕の討伐の内容以外興味がない様だった。


「今回も山伏君が願いを叶えてくれて良いですよ」

涼太はまたもやあっさりと答えている。


「だって俺は一応でも未調室のアルバイトって事になってるのに、本当に毎回そんなんで良いのかよ」


「ええ構いません。上にはその様に承諾して貰っています。それに山伏君の望みだったアパートの購入にはまだ予算が足りないのでしょう。ここまで私達に協力してくれたのです、是非山伏君の願いを叶えてください。私達としてはあの新しいダンジョンを教えていただけた事を本当に感謝しているのです。あそこはまだ他国にも知られていませんし、僕の新たな研究にも役立ちそうで、僕は今本当に充実したやり甲斐を感じる仕事ができているのです」


とても機嫌が良さそうに答える涼太を見て、裕はそれは良かったと内心で少しだけ羨ましさを感じていた。


裕はスライムダンジョンに涼太を案内した時も、そしてそれからもずっとスライムダンジョンには入っていない。

何故なら涼太の考えた世界がそこにあるらしく、裕はそこに自分の影響が及んではいけないと考え、敢えて関わらない様にしているのだ。

そして涼太がいったいどんな研究をしているのか気にはなっていたが、聞いたら話が長くなりそうなので止めておいた。


それから裕は既に涼太から不動産屋を紹介して貰い、極秘にアパート購入の話を進めてはいるのだが、しかしどうも涼太の食指が動く物件がなかなか見つからず、唯一これで良いかと思った物件は予算が足りず、なかなか思う様には決まらずにいたのだった。


だから涼太のこの話は実はとても有難かったが、裕はまた願いで大金を手に入れる事に何となく後ろめたさを感じていた。


きっとそれは一応自分が働いたとも言える討伐報酬とは違い、ただ願いとして口にするだけで手に入る大金に裕なりに何処か納得しきれないものを感じていたからだ。


ステータスオープンや魔法を願った時の様なドキドキもワクワクも何もない願いなんてと言う思いと、働かずに手に入れるお金は身に付かないあぶく銭だと言っていた祖父の言葉がきっと裕の中に深く根付いているのだろう。


祖父は裕が物心つく頃には既に入退院を繰り返していて、良く母に連れられ見舞いに行っては病室に一人残され祖父の話し相手になっていた。

あの時母は裕を病人の祖父に預け、パチンコに行っていたのを後になって知った。

それでも祖父は大人しい裕相手にいつも色んな話をしてくれたので、裕は祖父に会いに行くのは嫌では無かった。



「でも消滅には立ち会うんだろう?」


「ええそうですね。消滅の瞬間のデータは是非とも欲しいですし、貴重な体験ですから絶対に立ち合いますよ」


そうしてその日から裕はまた涼太が来るのを待って一緒にダンジョンに入る様になった。


引っ越したはずの涼太が裕の部屋をまた訪れる様になった事を他の奴らはどう感じているのか、まだボロアパートに留まっていた諜報員達の訪問は無くなった。


それから裕は引っ越しの準備を始め、最低限の必需品以外は徐々に叔母が建てた新しいアパートに運び込み、もしこれでダンジョンの消滅が長引くようなら叔母のアパートから通うつもりでいた。


そんな様子を見てか、諜報員達も何かを諦めたのか、みんな次々とアパートから出て行った。

そしてみんなが出て行ってから何日もせずにその日が来た。


≪この空間は消滅します、最後の願いの申請を受け付けます≫


「おおぉぉ~~」

裕は思わずガッツポーズをして喜んでいた。


一心不乱にダンジョンに挑みやつれ気味だった体調は最近少し持ち直していたが、それでもここまで本当に長かった様な気がした。


裕はこれで少し休んだらまた適当なダンジョンに籠り、適度に楽しみながら稼ぐ生活に戻れるのだと肩の荷を下ろす様な気分だった。


そしてそう考えた瞬間、裕はとても大事な事を思い出した。



スライムダンジョンを涼太に提供したは良いが、他のダンジョンをまだ探していなかった。



スライムダンジョンは今は涼太の世界になっているので、裕が入るのは憚られる。

なのでこのダンジョンが消滅してしまったら、裕には新たなダンジョンを探す術が無くなってしまう。


うっかりしていたと言うか、すっかり失念していたと言うか、自分でも今までどうしてそんな重要な事を忘れていたのか分からなかった。



そして今になって裕は顔を青くしながら考えた。


空間内転移でしか他のダンジョンを探す事ができない。

だとしたらこのままダンジョンの事はすっかりと諦めるか、それとも涼太に空間内転移の能力をバラしてでも今ここで次のダンジョンを手に入れるか。


今さらダンジョンを諦めるなど裕にはできる筈も無く、グルグルと巡る思考の渦に裕の能力が追い付かず思考も停止しはじめた。



「山伏君どうしたの、大丈夫?」


顔を青くし様子のおかしな裕を心配した涼太に答える言葉が見つからず、裕は胃から込み上げてくるものを感じ、急いでダンジョンを飛び出しトイレへと駆け込んだのだった。



読んでいただきありがとうございます

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