46
どうしてこうなった?
裕は自分の部屋で好き勝手にそれぞれ話しをている面々を見て溜息をついていた。
イさんと宋さんを無視して草むしりをしていると何故か玲子さんが現れ、初めは挨拶程度だと思っていた話がいつの間にか徐々に盛り上がり。
そして涼太さんが漸く助けに来てくれたと思ったら何故か話がさらに盛り上がり、ジェルさんの帰りを待つかの様に話が尽きず弾み、その流れで玲子さんがいつもの図々しさを発揮し俺の部屋にみんなで上がり込んだのだった。
助けを求めるつもりで涼太を見てもいつもの平静顔で何を考えているか分からないし、裕はもういっそこのまま全員にダンジョンの存在が知られても構わないと腹を括っていた。
人数分のカップが無くコーヒーを振舞えないので、冷蔵庫にストックしてあったペットボトル飲料を適当にテーブルに並べ後は放置で、一人ベットの縁に座り話の輪からは敢えて外れていた。
(それにしても、コイツ等みんなどこかの国の諜報員だったりするんだよな。みんなそれぞれに知っているんだろうに良く平気で話ができるもんだ)
裕には話の内容などまったく興味も無かったが、話す内容はただの世間話にしか思えなかった。
(別にこの部屋でみんなで集まってする話でも無いだろう)
もうすぐ取り壊される予定のボロアパートに集まったみんなで懇談会も悪くないと玲子さんに押し切られた手前、管理人としては追い出しづらいと言う事もあって裕は大人しくはしていた。
しかしこのまま長居されるのはたまらないと思いながらも、何ならここであのダンジョンを公開したらみんなどんな顔をするのか見てみたいと考えて一人密かに楽しんでいた。
(どうせダンジョンの事を知りたくてこの部屋に来たのだろうから教えてやろうか。そうだ、一番条件の良かったヤツに教えてやると言ったらみんなどんな条件を提示するんだろう。それに俺のダンジョンは他の国のヤツにはどう見えるのかも知りたいかな。ダンジョンってやっぱり世界共通なんだろうか?いったい何人くらいまで一緒に攻略出来るんだろうか?その場合討伐報酬は個別清算可能なんだろうか?)
裕は裕で彼らに触発されたのか新たな疑問が次々と面白い様に湧いていた。
(本人達に聞いてみたい)
裕がそんな衝動にかられ始めた時だった「それで裕君はいつこのアパートを出て行くの?」いきなり玲子さんに話を振られた。
「へっ」裕は自分だけの思考の世界から突如引き戻されて少し慌て変な声を出していた。
「俺はこのアパートの管理人だからみんなが出て行ってくれないと引っ越せないんだよ。そう言う約束で引き留められているんだ。だからみんな早く出て行ってくれよ」
「あなたに何か理由があって好きで留まっているんじゃなかったの?」
「どうしてそう思うんだよ。俺はもう引っ越し先も決まってるんだ、俺だってできれば早く引っ越したいよ」
裕は事実そう思っていた事もあって、何の淀みも無く咄嗟に本音で答えていた。
しかしあんなに騒がしかったみんながすっかりと静まって、俺と玲子さんの話に耳を傾け始めた事に少しだけ緊張しはじめていた。
(俺は何かマズい事でも言ったのか?)
「その割にはそこの佐藤君と急に仲良くしはじめてちょっと怪しいわよね」
「怪しいも何も、俺は勉強を教えて貰ってるだけだし、このアパートで管理人していると他にする事も無いから仕方ないだろう。涼太さんとは別に怪しい関係じゃないからな」
「怪しい関係って何よ」
裕は敢えて最後はふざけて話の矛先を変えようとしてみたが、玲子さんが納得した答えになっていたかは分からなかった。
「デハオジャマシテハイケマセンネ」
しばしの沈黙の後ジェルさんがそう言うと「ソウデスネ、キョウハコノヘンデカエリマショウ」と宋さんも言いだし、これでお開きにする事になったらしく裕は心から安堵していた。
「ワタシマタアソビニクル、イイデスカ」
イさんは部屋を出て行く時にそう言っていたが裕は「遠慮しとく」とだけ答えた。
そうしてみんなが出て行くと涼太は「良かったね、一応この部屋の疑いは晴れた様です」と裕に声を掛けて来た。
さっきまで平静顔で裕を無視していたのに、裕は何がどうしてそう言えるのかはイマイチ理解出来なかった。
しかし涼太がそう言うのならきっとそうなのだろうと納得していた。
「でも安心して気を抜かないでくださいね」
涼太に釘を刺され、さっきまでの時間はいったい何だったのかと溜息をつくしかなかった。
そしてやっぱりみんなの前でダンジョンの存在をばらすのも面白かったかも知れないと考えていた。
「だけど、ダンジョンの存在をばらすのも面白かったかもな」
「そうですね面白いかどうかは分かりませんが、あの場でバレていたら大変な騒ぎになったのは間違いありませんね。そしてあのダンジョン攻略のために山伏君の拘束を考える人も出たでしょうし、私もその間の時間稼ぎのために消されるか拘束されていたかもしれません。どの国がどんな手段に出るか分かっていない分、安易に考えるのは正解とは言えませんよ」
真顔で涼太にそう言われると、裕は改めて自分の考えが安易すぎていた事に気付かされた。
そして同時にダンジョンの存在がバレなかった事に心から安堵したのだった。
読んでいただきありがとうございます




