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「教えるのは全然大丈夫だけど、それって俺に何か得になる事があるの?」
涼太相手にうまく交渉するつもりでいたが、裕にはそんなスキルはまったく無かったようで結局ストレートに聞いていた。
「そうだよね、山伏君がそのダンジョンを僕達に秘密にして稼ごうと思ったら、何億何兆と手にするのも可能な訳ですから山伏君がそう考えるのも当然だよね。しかし既にこの空間は計り知れない富を手に入れられると国に知られる訳だし、別の空間の存在も知っているとなると山伏君はその富を手に入れたいと思う人達から確実に狙われる事になるよね。でもそのダンジョンを僕達と共有する事で僕たちが抑止力になるので、山伏君個人が狙われる心配は無くなるよね。身の安全はとっても大事な事だと思うのだけどいかがでしょうか」
いかがでしょうかと畳み込まれると裕には何の反論もできず、別に他にもダンジョンを探せるしと考え、裕は別に良いかと言う思いからそれ以上の交渉は口にせずにいた。
と言うより、涼太相手に裕に有利な交渉など初めから無理だったのだと既に諦めていた。
そんな様子を見て涼太も安心したのか話を続けた。
「とは言え、こことは別の空間の存在は僕達にとってもとても有益な情報なのは確かです。この空間で手に入れられるのは現金と言う富だけではない事実も証明できれば、きっと国の方針ももっと明確に定まるかと思うのですよね。それを実証する機会が増えると言うのは僕にとっても本当に有難い事です、なので山伏君に作ったあの口座は今後一切秘密にすると言うのはいかがでしょう。山伏君が僕達と別行動でダンジョンに入りいくら稼いだとしても、あの口座に限ってはたとえ税務署であろうが干渉せずに世間的に秘密にできるとなったら山伏君にとっても有益な事だと思うのですがどうですか?」
「本当にそんな事ができるの?」
裕は涼太の提案に思わず前のめりで飛びついていた。
誰にも干渉されず秘密にできる口座が本当にあったら、裕はこの先どこのダンジョンでどれだけ稼いでもその現金すべてを隠さなくて済むと言う事だ。
それに課税される事が無いと言うのもとても大きい。
裕がかつて考えていたマネーロンダリングの問題はまったく無くなるのだと裕は目を輝かせた。
裕の考えを裕の表情から簡単に読み取った涼太は、裕の問いに強く頷くとさらに畳みかける様に話始める。
「そう言う口座の一つや二つは国の重鎮はみんな持っているんですよ、山伏君もその仲間入りですね。今の僕にとっては他の誰よりも重要な人物なのは事実ですし、必ず果たすものとしてお約束しましょう。それよりも今後家賃収入を得るのでしたらその収入は別の口座でお願いしますね。そこまで無課税で放置と言いう訳には行きませんから、そこはきちんと節度を持って守ってくださいね」
「分かってるって、俺だってそこまでは考えていないから安心してよ。それよりも俺は次のダンジョンでもこのまま浄化を手伝わなくちゃならないのか?できる事ならそろそろアルバイトから解放されたいんだけど」
「そうですね、この先まだお手伝いしていただきたい事もあるかと思うので、アルバイトとしての籍はそのままにしておいて貰えませんか。その条件を飲んでいただけるなら次の空間の調査からは外れていただいても構いませんよ」
裕は何だか涼太の言い方に含みを感じたが取り合えず了承する事にした。
涼太が何を目論んでいるかなど裕がいくら考えても分かる訳も無いし、少なくともこのかっぱ擬きダンジョンの消滅と共に未調室のアルバイトから解放されるのなら何の問題も無い。
後は攻略しやすいダンジョンをまた探して、これからもダンジョンを楽しみながら稼ぐだけだと考えていた。
「分かった言う通りにする、それで次のダンジョンへの案内はいつにする?」
「そうですね、色々と準備もありますし、このダンジョンの消滅の目途がたってからで構いませんが、いや、早い方が良いのか?しかし・・・」
涼太は何か色々と考えている様だったので裕は黙って返事を待った。
「少し考えてみますので返事はちょっと待ってください。それで参考までに聞きたいのですが、山伏君はそのダンジョンの攻略は既にしているのですよね?でしたらそのダンジョンがまだ若いとか消滅間近だとか言う所の判断はしているのでしょうか?」
「ああ、まだ若い感じだったよ」
「本当ですか!それは有り難い。それじゃぁ僕も準備を急ぎますので、山伏君もこのダンジョンの一日も早い消滅に全力を尽くしてください」
涼太に両方の掌を握られながら突然今までになく明るくなった雰囲気に圧され、裕は何が何だか良く分からずに何度も頷いていた。
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