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「こ、これどうしよう・・・」
「どうしようって山伏君が願ったんじゃない、僕としてはこの空間の管理者がいったい幾らまで現金を出せるのか知りたかったから、もう少し粘って交渉して欲しかったんだけどね。まぁ、山伏君としてはこれが精一杯だったんだろうから仕方ないよね」
「そんな事言ったって、俺は願いで現金も可能だなんて考えてもいなかったからさぁ」
「それは無いでしょう、討伐の報酬として散々現金を受け取っているのに願いで現金が不可って事はまず考えられないよね。山伏君のそう言う所やっぱり僕は好きだな。もっとも僕としてはどこからその現金を持って来るのかとか、どうやって出しているのかとかそっちの方を詳しく知りたいんだよね。実際偽札って訳じゃ無く銀行にも通用しているし不思議で仕方ないんだよね。管理者に聞いても答えて貰えなかったから、教えて欲しいと願ったら教えて貰えるのかも知りたかったかも」
涼太は裕を置き去りに何だか話が長くなりそうなので裕は慌てて話を戻す。
「俺がこの1億円本当に全部貰っちゃって良いの?」
「良いも悪いも話し合って決めたでしょう。今回の願いは山伏君が決めて良いって。そしてその1億円は山伏君の願いの結果だよね。僕もちゃんとデータも取れて報告書も書けるから何の問題も無いよ。もっともその報告書を読んだ誰かが騒ぎ出しそうで少し心配ではあるけれど、少なくとも取り上げられる事は無いから安心して良いよ」
裕は涼太が本当にこの1億円に興味が無いのだと知り安心するより少し戸惑った。
大抵の人はこんな大金を目にしたら普通は態度が変わりそうなものなのに、涼太はそんな素振りさえ見せない事が不思議だった。
「涼太さんはこのお金欲しくないの?」
裕は涼太の本心が知りたくて確認する様に聞いてみた。
「だってそれ僕のお金じゃないでしょう」
あっさりと顔色も変えずに答える涼太にそう簡単に割り切れるものなのかと言う思いもあったが、そう考える事ができるって凄いと思っていた。
多分お金に困る様な生活をした事が無いんじゃないかとそんな考えも過ったが、きっとそう言う事じゃ無くこれが人格と言うものなのだろうと考えていた。
裕は今回ダンジョンでこうも簡単に大金を手に入れられると知る事になったが、涼太の様にお金に目の色を変えたり、お金に踊らされたりしない人格者にならなければと思っていた。
宝くじで大金を手に入れたら人生が変わってしまったと言う悪い噂を聞いた事があるが、裕はこの大金で人生を変えたとしてもけして悪い方へと人生が向かない様にしなければと本気で考えていた。
「この現金も銀行に預け入れられるかな」
「僕もその方が良いと思うよ。口の堅い所を選んでいるから銀行側から発覚する事は無いけれど、急に生活を派手にするとお金目当ての人達に絡まれる事になるからね。少なくとも山伏君が本気で家賃収入を望むなら僕も目立たない様に手助けをするから、山伏君もこの事は他の人に知られないように気を付けて絶対に口外しないでね」
裕は涼太に念を押されて改めて考えた。
もし自分がこんな大金を持った事を誰かと言うかあの家族達に知られたら、間違いなく取り上げられてしまうだろう。
もしこの先アパートを手に入れて家賃収入で生活できると知られたら、妬まれどんな嫌がらせをされるかそれとも一生粘着されるか考えるまでも無く想像できる。
あの家族達は裕に人権があるとはこれっぽっちも思っていない、だから今までの人生を振り返っても分かる位に裕を自分達に都合良い様に利用する事しか考えないだろう。
絶対にあの家族達に知られる訳には行かない、裕は改めてそう思い涼太の言葉に強く頷いていた。
「下手に口外しないと派手な生活はしないは今しっかりと心に刻みました。それから家賃収入の件よろしくお願いします」
裕はほぼ初めて涼太に敬意を持って頭を下げていた。
きっとこの人は信用して良いとそう感じていたのだった。
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