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俺だけのダンジョン  作者: 橘可憐


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裕は涼太も涼太なりに悩み苦労しているのだとぶっちゃけた話を聞いた事で、裕自身もあまり身構え過ぎる事無くダンジョン攻略を楽しむ事にした。


考えてみたら裕が気を使い色々調整する事など何も無かったのだ。

ダンジョンで一日に50万円以上稼ごうがどうしようが裕が困る事など何一つ無く、面倒くさい事はすべて国家未詳案件調査対策室が対策してくれるのだからやりたい事をやって良かったのだ。


裕は何故一日の稼ぎに制限をかけて考えたのか、今となっては自分でも理解出来なかった。


それに涼太が既に怪しんでいる様にスライムダンジョンの事がもしバレたとしても、その時はその時の事でしか無いのだと思うと今まで抱いていた不安な気持ちも無くなっていた。


それに本当に他国が絡んで来たとしても、今なら国家未詳案件調査対策室が対応してくれる。


傍から見たら中卒の冴えないボロアパートの管理人だけれど、実際は国家公務員の涼太より稼いでいるなどとは世間の人は誰も思わないだろう。


いうなれば、今の裕は昼行燈を装った無敵のダンジョン攻略家なのだ。


しかし早い所3億円貯めて、きっぱりとダンジョンから足を洗い、地味に気楽に人生を送って行くのだと、ダンジョンを見つけた当初の目標をしっかりと思い出していた。


そう言えば、スライムダンジョンで討伐報酬の値上げの交渉はダメだったけれど、願いの申請で願ったらどうなんだろうかと、裕はそんな事を考え始めていた。


もうこれから消滅を待つだけのこのダンジョンで願ってもあまり意味が無いだろうから、スライムダンジョンの次の願いの申請で試してみようかと思っていた。


その為にもさっさとこのかっぱ擬きダンジョンを一日も早く消滅させ、新しいアパートに引っ越し、自分の部屋にスライムダンジョンの出入口を設置するのだと、気持ちはすっかりと次へと進んでいた。


なので今まで以上にかっぱ擬きの討伐に力が入っていた。

今ではダンジョン内で涼太と悠長に話をする事無く、少しでも湧きを早めようと魔法を連射し続けた。


「そろそろ休憩にしない?」


涼太にそう話しかけられるまで裕は久しぶりに集中して夢中になっていた。


「ああ、もうそんな時間か」


時間も忘れかっぱ擬きを討伐し続けていた裕は我に返り、作業の手を止めていた涼太と一緒にダンジョンを出た。


「何だか今日は気合の入り方がいつもと違うね。何か心境の変化でもあった?」


「別にそんなんじゃないけど、考えてみたら稼げるうちに稼いで叔母の手助けをしたいなと思ったんだ」


「松永さんの手助けって管理人の話?」


「違うよ。管理人の仕事は叔母が俺の自立を促す口実にした様なものだから。俺は叔母が抱えた借金の返済の手助けを考えているんだよ」


「ああ、あのアパート結構お金を掛けたみたいだったね。でもさぁ、松永さんのローンの返済は家賃収入で充分どうにかできる範囲だよ、あそこは結構立地も良いし、作りもニーズに合っていたしね。どうせなら山伏君も不労収入考えて松永さんのように自分の物件を持つのも悪くないんじゃないの?このダンジョンでの稼ぎを見たらけして夢じゃないと思うよ。それこそ山伏君の安泰な老後の生活のためには有効な手段じゃ無いのかな」


裕は涼太がそんな話をすすめてくるなどと考えてもいなかった。


高校を中退し碌すっぽ働いた事も無い裕が、バリキャリで頑張り続ける叔母と同じ様にアパートを持てるなど本気で考えても良いのだろうか。


確かに今はダンジョンで下手な商社社員より稼いでいるとは思っていたが、それだってずっと続けるなどと考えてはいなかった。


夢見ている目標ではなく、実際問題適度に稼いだら後は貯めたお金を切り崩しながら、地道に叔母のアパートで管理人を続け気楽に過ごすのが無難な人生だと思っていた。


(そうなのか、俺は叔母さんが何年も何十年もかけて貯めた位のお金を既に稼いでいるのか)


裕は自分がこのダンジョンを発見した事で、自分の人生が大きく変わった事を今初めて実感した気がしていた。


今まではただ単に世間に対し隠し事を抱えた事実の方が大きく、ダンジョンでかっぱ擬きを討伐して稼ぐのもゲーム感覚でしかなかった。

そしてその結果、大金が面白い様に貯まって行くのだと漠然と受け止めていただけだった。


こんなに稼げるダンジョンを独り占めにしていた事に優越感を抱いていたり、ダンジョン攻略に役立てようと空手やボクシングを習い体力を付けたり、そんな事が裕の自信に少しずつ繋がってはいたが、結局ただそれだけでしか無かったのだ。


「この稼ぎを俺の今後の人生のために大きく使う事を考えても良いのか」


裕は貯めた現金を老後まで地味に切り崩して使う事しか考えていなかったから、涼太に教わって少しばかり投資を始めたのもちょっとした冒険だった。


しかし今はダンジョンの稼ぎは隠しておかなければならない現金ではなく、銀行に預け無事に自分の資産として世に出せたと言う事は、叔母のように不労収入を考えたり、稼いだお金を資本にして何か起業する事を本気で考えても良いのだと気づかされた。


「そうだよ、人間って目標が定まると活力も湧いて来るよね。何だったら僕も少なからず手助け出来ると思うよ」


涼太は金融関係の知識だけでなく不動産関係にも造詣が深いのか、それとも詳しい知人でも居るのか裕に簡単に話を進めて来るので、裕も何か視界が広がった様な気がしていた。


叔母が困ったら手助けしようなんて考えていたけれど、思えばあの叔母がそれを簡単に許す筈も無いのだ。

だとしたら裕自身が自立できた姿を見せる事の方が本当の恩返しになるのだろうと思うと、自分のアパートを持って管理するのも悪くは無いと考え始めていた。


「アパートっていったいいくら位あったら持てるの?」


「そんなのピンキリだよ。でもローンを組むつもりならきちんと就職した方が有利なのは確かだね」


裕は涼太の言葉に折角抱いた希望を早くも打ち砕かれた様な気がしたのだった。



読んでいただきありがとうございます

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