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「例えばの話なんだけど、俺が給料の他にちょっとした臨時収入を得たとして、それって申告しなくても罪にならない場合ってあるんですかね」
裕はどうやって話を切り出そうか考えてみたが、結局何も上手い案が浮かばずそのままに聞いてしまっていた。
「山伏君って真面目だね、手持ちのレアカードでも売ろうと考えてるの?」
「いや、そんなんじゃないんだけど」
「罪にならないか聞くって事は申告漏れで脱税にならないかって聞いてるんだよね?でも山伏君って良くそんな事知ってたよね。大抵の若い子は知らないよ。実際余程あくどい事してるか見せしめでも無ければ取り締まりきれないのも事実だから、気にせずにやり放題の子も多いでしょう。特にブランド物を貢がせては売ってお金に変えているとか良く聞く話だよね。でも聞かれたからちゃんと答えるけど、山伏君の場合はお給料以外に年間20万円を超える収入は申告しなくちゃダメだね。でも逆に言うと20万以下なら問題無いから、そんなに気にする事無いよ」
涼太は裕を安心させる様に笑ってみせて相手にもしていない様子だったが、裕が5000万円以上を隠して溜め込んでいるとは思ってもいないだろうから、当然と言えば当然、当たり前と言えばあたり前の反応ではあった。
それでも裕は年間20万円以下なら銀行に預金しても問題は無いのかと素直に受け取っていた。
「それにしても山伏君って本当に真面目だよね。僕が君位の時はカード集めに夢中になったり、友達と朝までカラオケしたり、貯蓄とか財テクなんて考えてもいなかったけど、やっぱり時代とか世代ってやつなのかな、それとも元々の性格なのかな、本当に感心させられるし僕も勉強になるよ」
涼太はそこで一度話を切ると、ペットボトルのコーヒーを一口飲んでからまた話し出した。
「この部屋の見た感じも、余計な物が無いシンプルな雰囲気で僕的には好感度高いし、山伏君は堅実家って所なのかな」
「そ、そんな事無いです、ただ単に稼ぎが少ない引き籠りだったからですよ」
裕は嘘は言っていないが、この部屋のあちこちに小分けにして大金を隠しているのだと思うと、何故か冷や汗が出る気分で、無意識にお金を隠してある場所を見回し目が泳いだ。
お金はあるが申告できないお金だと思うと、後ろ暗くて豪遊する事もできないただの小心者なだけだと裕は自分の事をそう思っていた。
もっとも申告できたとしても、見栄の為にお金を使う気にはなれないのは確かではあったが。
「じゃぁ、僕のただの興味本位で聞くけど、どんな臨時収入があったのかツッコんで聞いたら話してくれる?」
涼太の珍しく揶揄う様な態度に、裕は知らず知らずに不審な態度でも取ったのかと自分の言動を思い返し、本当に冷や汗をかきながらついついダンジョンの入り口を凝視していた。
(何て事聞いて来るんだよ、ダンジョンで荒稼ぎしてますなんて言える訳ないじゃないか)
裕はやっぱり迂闊にも余計な話をしてしまったかも知れないと今さらながら焦り、思考がどんどんと狭まって行くのを感じていた。
そして涼太はそんな裕の異変に疑問を抱いたのか、裕と同じ様にダンジョンの入り口がある辺りを目視しながら「何かあるの?」とごく自然に立ち上がると確認する様に手をやった。
そしてダンジョンから慌てて出たため、カーテンで隠し忘れていたその場所に、涼太の腕が沈んで行くのを裕はスローモーションでも見ているかの様に眺めていたが、涼太の姿がすっかりと消えた瞬間に現実に立ち返り「あぁーーー、俺のダンジョン!!!」と大声を上げて慌てて立ち上がり、急いでその後を追うのだった。
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