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このダンジョンでの魔物討伐のドロップ金額値上げ交渉を黒猫幼女にしてみたが≪ダメなのです≫とあっけなく却下された。
なので裕はあっさりと諦め草原を見渡せば、そこにはぷよぷよと呑気に小さく弾むスライムの姿があった。
裕は次のダンジョンでは強い敵で討伐金額を高くしようと色々と考えていた筈なのに、何故ここにスライムが?と頭を捻っていた。
転移する瞬間に心の中でこんなダンジョンを思い描いていたのだろうか?
まぁ何にしてもと裕はこのダンジョンをスライムダンジョンと名付け、早速スライム討伐を始める。
さすが世間一般に広く知られる最弱魔物と名高いスライムだけあって、裕は何の苦も無く指先から発射される弾丸でスライムを討伐していく。
しかし魔物の沸きがあまりにも遅くて裕は段々退屈する事になった。
そして不意にそう言えばかっぱ擬きダンジョンで願いを叶えたけど、その後の成長促進設定して無い事を思い出した。
(大丈夫なのか?それとももうしなくて良いのか?)
何とはなしに不安になり、取り合えず一度かっぱ擬きダンジョンに戻る事にした。
「ちょっと用を思い出したから帰る。また来るから、そん時によろしく」
裕はドロップ報酬の受け取りはその時にいっぺんにという意味で黒猫幼女に話したのだが、≪何をよろしくするのです?≫と聞き返され慌ててしまった。
どうやらこの黒猫幼女とは詳細な意思の疎通は無理な様だった。
何となくあの黒猫とは詳しい話をしなくても通じていた気がしたが、思い過ごしだろうか?
それともこの黒猫の獣人らしいこの子が幼女設定の様だからだろうか?
裕は考えてみたが答えがでそうも無いので、黒猫幼女に分かり易く説明をする。
「報酬の受け取りを後で纏めて貰うからよろしくしますって意味で言ったんだよ」
≪纏めて貰うとはどういう事なのです?≫
裕は詳しく話したつもりだったがイマイチ通じない様なので説明を諦めた。
「取り合えずスライムを倒した討伐金額が10万円になったらその時に纏めていっぺんに貰っても良いかな?」
≪分かりましたのです≫
裕はやっと話しが通じた事に安心した。
「じゃあ、早く用事を済ませてまた来るよ」
≪はい、行ってらっしゃいませなのです≫
黒猫幼女に見送られ、裕は何故か少し照れる気分でかっぱ擬きダンジョンへと転移した。
するとまるで待っていたかのように黒猫は即座に裕の肩に乗って来た。
≪願いの申請完了しました、空間の成長促進設定を申請します≫
「ダンジョンの広さを広げてくれ」
裕は既にこのダンジョンの事はもう放置すると考えていたので適当に答えていた。
しかしその前に聞いておきたい事があったのを思い出し慌ててそれを止めた。
「ちょっと待った。その前に聞いておきたいんだけど、このダンジョンって後何回くらい願いを叶える事ができるんだ?」
折角初めて知り合ったこの黒猫もこのダンジョンも、このアパートを越したら手放す事になると考えていたけれど、考えてみたら空間内転移が可能になった今ここへ来ようと思ったらスライムダンジョンから来る事ができるのだ。
もしこのアパートを購入した人がこのダンジョンを見つけられなかったら、裕はこのダンジョンが消滅するまでまたいつでも来る事が可能なのだ。
確かこのダンジョンは後は放置しても構わない様な事を言っていたと思ったけれど、叶うならその消滅にも付き合いたいと思っていた。
≪このままあなたが浄化を手伝ってくれるのでしたら後2回でしょうか≫
「それって浄化を手伝わなかったら変わるのか?」
≪後は自然に自力浄化を続けながら少しずつ消滅していくだけです≫
裕はその返事を聞いて少しだけ悩んだが、やはりかっぱ擬きの湧きの早さを1.5倍にして残りの調整はダンジョンを広げる事にした。
(やっぱりできる事ならダンジョンの消滅に付き合おう)
その為に少しでも浄化を早めたいが、今の沸きの早さを2倍や3倍に高めるのはいくらかっぱ擬き討伐に手慣れたとは言えそこまでの自信が無かった。
「ここが他の誰かに見つからなかったら、消滅まで付き合うよ」
裕は黒猫にそう言いながら、成長促進設定を終わらせたのだった。
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