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俺だけのダンジョン  作者: 橘可憐


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裕はこの日ダンジョンでの一日の最高取得金額の記録を更新し425000円を手にした。


40万円を超える日は今までもあったが、それは時間を見つけては何度もダンジョンに潜りなおしての話で、こんなにあっけなく気付いたらなんてことは無かった。


「一流商社のベテラン社員位には稼げたかな」


毎日コンスタントにこの位稼げたなら、一瞬裕はそんな事を考えていた。


(って、何考えてんだ俺)


誰かと自分を比べても仕方ない、そう思っていた筈なのに、この日の稼ぎを商社マンに例えていた事に気付き自嘲した。


別に商社マンに憧れていた訳ではなく、いつだったか給料の高いランキング記事を読んでいた記憶から比べる相手として思いついただけだったが、結局だからどうしたと言う話だった。


(あのアパートを手に入れるのにいったいいくら掛かるんだろう)


裕は叔母の新しく建てると言うアパートを思い描きながらそんな事を考えた。


叔母がもしも経済的に困る事があったら助けたいと考えていたが、それと共に自分も叔母と同じ様にアパートかマンションでも購入して不労収入を得るのも悪くないと考え始めていた。


(やっぱりこのダンジョンの稼ぎをどうするかだな)


まずはダンジョンで得た現金を正規に得た収入とする方法を探さなくては今の所隠すしかないのだと裕は少し焦っていた。


そしてどうしようもなかった場合、隠した現金を周りに気付かれない様に切り崩して使うしかないのかとそんな事を考え出すと、この先のダンジョンの事など考える必要も無いのかとも思ってしまう。


(まあ、折角だからこのダンジョンを手放す日まで稼げるだけ稼がせて貰うけどな)


裕はこのダンジョンを見つけてから手に入れた現金と現実の狭間で頭を抱え心も揺らいでいた。



そうして毎日変わらずにダンジョンに潜り、カウントダウンも70日を切った頃それはあった。


≪一定値の浄化の確認ができました、願いの申請を受け付けます≫


待ちに待ったAI音声が脳内に響いたのだ。


やっとかと裕は大きく溜息を吐き出していた。


肩に乗って来た黒猫に目をやりながら、裕は何となく考えていた事を聞いてみた。


「空間内転移ができるなら、空間の出入口を自分の好きな場所に設定するのはできないのか?」


≪どちらか一つずつと言うなら可能です≫


裕はその答えを聞いて思わずニヤリとしていた。


新しいダンジョンを手に入れたとして、このアパートから越してしまったら空間内転移はできなくなるのも同様で、その後新しいダンジョンまで通う大変さを考えたら裕にとって空間内転移なんてたいして有難い事だとは思えなかった。


でもダンジョンの出入口を好きな場所に設定できるのなら、新しいアパートに越してもまた自分の部屋にダンジョンの入り口を作る事ができる。

そうしたらまた好きな時に好きな様にダンジョンに潜れる様になるのだ。


確かこのダンジョンで一回目の願いまではそう時間は掛からなかった。

取り敢えず今回で空間内転移を叶え、そして新しいダンジョンでの一回目の願いの申請で出入口設定を叶えればいいだろう。


裕は単純にこれからの予定を考えて返事をした。


「空間内転移で別のダンジョンにも行ける様にしてくれ」


裕がそう言うと、しばらくの沈黙の後≪完了しました≫と脳内に響いた。


「これで別のダンジョンにも本当に行けるようになったんだよな?」


≪そうです≫


「早速だけどどうやったらいい?」


≪好きな所へ転移してください≫


裕はそのまったくもって要領を得ない返事に、期待していた分イライラしていくのだった。



読んでいただきありがとうございます

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