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夜もだいぶ更けてきたが、明日のことを何も考えていないことに翔は気づいた。
そこで翔は、みんなに聞いてみた。
「みんな、明日の予定は?」
「なんも決まってへん」
金澤が言う。明花は耀いた目で言った。
「上田にジャム買いに行きたい」
その明花の上田と言う地名を聞いて、また翔の眉が動いた。そこでふと思いついた別の地名を、翔は言ってみた。
「俺は軽井沢に行ってみたい」
「あ、やっぱ軽井沢もええな」
急に明花は行先を変えた。
「じゃあ、一緒に行く? って言っても俺バイクだけど」
「え? 後ろに乗せて」
「そんな急に言われても、バイクの場合はヘルメットとかジャケットとか、いろいろ装備がいるんだよ」
「なら、俺らの車で行こうや。俺らもどこ行くか決めてへんかったし」
「俺らって、俺の車やねんか」
金澤の発言に米田は笑って突っ込んだ。
「俺、車の後ろについて走る?」
「置いてけばええやん」
「でも、そのまま帰るかも」
「連泊し。俺らも連泊やし」
「私も」
金澤の勧めや明花のひと言で、翔は決めた。
「じゃあ、そうする」
翔はすぐに受付の所へ行ってオーナーを呼び出し、明日も連泊したい旨を告げて予約した。そして今のうちに明日の分の宿泊費もカードで支払った。
四人はかなり遅くまでそのソファーで盛り上がっていた。
米田の車はトヨタの白いカローラだった。
運転は当然、車の持ち主の米田。助手席には金澤だ。最初は女性である明花を助手席にという話もあったが、米田がどうも助手席には金澤がいないと不安だというのだ。
翔のスズキは宿の駐車場に置いて、いざ出発だ。まずは昨日翔がバイクで走った千メーター林道を、今日は昨日とは反対側の東へと向かう。山の中の林道なのに、本当に起伏のない道だ。道は必ずしも整備されているとは言えないし、幅も狭い。だがいくら走っても対向車は全く来なかった。
そんな林道をくねくねと延々と走ってから、ナビに従って森の中のレストランの脇の私道のような細い道を右折し、すぐに県道80号、すなわち浅間サンラインに出て左へと曲がった。
やっと片側一車線だけどセンターラインもあるまともな道に出た。だが、かなり交通量も増えていた。
すぐに国道18号、つまり中山道とぶつかる信号に差し掛かり、そこを左折して中山道に入った。
やがて信濃追分宿で、このあたりから浅間山が臨めるはずだが、木々や建物に遮られてごくたまにちょっと顔をのぞかせる程度だった。
いつもバイクで走行している時は自然の中に放り出されたような開放感はあるが、あまりいろいろわき見をして運転することはできない。今日は車の中という限られた空間に密閉されているとはいっても、自分が運転しているわけでもなく、翔は十分に周りの景色を堪能することができた。
しかも隣には明花がいる。
「俺、普段はバイクで走ってるけど、バイクだとどんなにつるんでてもあるいはタンデムで誰か乗ってても走っているときは基本的無言だけど、車だといろいろ話ができるからいいよね」
翔はそんなことを話したりしていた。
やがて軽井沢に着いた。一時間もかからなかった。
軽井沢は落ち着いた町だった。背の高い建物はないが、比較的新しい店やレストランが多く、都会のセンスが溢れていた。
三笠通りを北に進み、軽井沢銀座に出た。まずは近くに駐車場を探した。無人の入り口は赤いきのこのデザインの傘がある機械からポールが上がるとき、チャリンチャリンと鐘の音が響いた。
それから、軽井沢銀座を歩いた。
「え? これが軽井沢銀座?」
明花はやたら周りをきょろきょろしていた。
「思ったより、人多くないんやな」
「せやな。でも夏やったらもっとぎょうさん、人いてるんとちゃうか」
金澤もそのようなことを言っていた。軒並みに並ぶおしゃれなレストランやカフェは、たしかに洗練された都会のそれだ。
一時間ほど探索して、クレープを食べたりして、それから車に戻った。
次に聖パウロ教会というのを探したけれど、見つからなかった。
「ナビ、入れといたらよかったな」
運転している米田があとからナビを入れたら、とっくに通り過ぎていた。
「いやあ、ここ曲がれいう標識、全くなかったで」
金澤も残念そうな口ぶりだ。
仕方がないので、白糸の滝を目指した。三笠通りをそのまままっすぐ行くと、白糸ハイランドウェイという有料道路に入る。乗用車400円だ。
「ほんまにこれで金とるんか」
米田が愚痴った。
「確かに、ひどい道やな。さっきの千メーター林道と変わらん」
金澤も言うけれど、実際は千メーター林道よりは少し広かった。
そこを走って白糸の滝を見て、峰の茶屋から浅間白根火山ルート、またの名を鬼押しハイウェイという別の有料道路に入った。
こっちは280円だけど、広くてはるかにいい道だった。
広々と視界が開けた見晴らしのいい大自然の風景の中を、ハイウェイは通っている。それだけで気持ちがいい。こんなところはやはりバイクで走りたかったと翔は思った。だが、言わなかった。
左手には浅間山がものすごい迫力でその姿を見せている。
「ほら、あれやっぱ噴煙やん」
助手席の窓から、浅間山を見て金澤は言った。白くふわっと煙は上り、すぐ空の青さと同化している。
「煙やな」
明花もそれを見て呟く。
「誰だよ。あれは頂上で誰か焚火してるなんて言ったのは」
翔の突込みに、明花をはじめみんなで笑った。
やがて群馬県との県境を越えた。
鬼押し出し園を時間をかけた歩き、写真を撮り、レストランで昼食もとった。
そのあと軽井沢の駅の近くまで戻り、駅の向こうのアウトレットに行こうという話になった。
洗練された都会のブティックやレストランがぎっしりとはめ込まれ、しばらくあちこちの店を見て回ったあと、結局ショッピング目的でないとアウトレッドは楽しめないという結論に達した四人は最後の締めのカフェに入った。
翔はホットコーヒー、明花と金澤はミルクティー、米田はレモンティーだった。
「お砂糖、入れひんの?」
コーヒーをブラックで飲む翔に、明花が聞いた。
翔ははじめニコッと笑っただけだったが、やがてシビアな顔になって苦笑に変わった。




