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ソルティ・レモネードと白い夏  作者: John B. Rabitan
スマホケースの向こう側
52/80

 九月といってもいつまでも残暑厳しく、なかなか夏が終わりそうな気配もなかった。

 はるか北の北海道を横切る形で秋雨前線は形成されているようだけれどいまだに太平洋高気圧の勢力が強く、なかなか南下しそうもないとのことだ。つまり、関東はずっと高気圧にすっぽりと覆われている。

 そんなころ、大学の友人の一人である安達から突然LINEメッセージが来た。


 ――[今、電話していいいか]


 メッセージはそれだけで、かけるは承諾のメッセージを送って、電話が来るのを待つのも面倒だったので開いているトークルームから無料通話をかけた。


 「しばらくだな。元気か」


 ――ああ。


 元気そうな声が帰ってきた。


 ――ツーリング、行こうぜ。


 安達の提案は、いつも唐突だ。


 「いいけど、どこに?」


 ――まだ、決めてない。


 「あいつも誘ったか?」


 ――もちろん。比企も行くって。


 「だなー。ライダーは俺入れてこの三人だけだものな」


 ――もっといるだろ。


 「そりゃ、いることはいるだろうけどな。友達の中ではって話だよ」


 ――たしかに。とにかく、大学が始まる前の天気がいいうちにどっか行こうぜ。


 「どっかとは?」


 ――それ、考えといてくれよ。


 「丸投げかよ」


 翔は苦笑した。


 ――よかった。これでいつメン三人そろった。おまえはどうせ暇こいてるだろうし、フッかるだから言えば来ると思ってたけど。


 「ひとを暇人ひまじん扱いするな」


 また笑いながら翔は言った。


 「当分、デートもないし」


 ――ああ、彼女ができたんだってな。ジョーから聞いた。


 「いや、それがその」


 翔は口ごもった。


 「ま、いろいろとあって」


 ――うまくいってないのか?


 「会ったとき詳しく話すよ」


 そんな感じで、あとはほかの雑談を少ししてから通話は終わった。

 

 その直後である。

 LINEメッセージ着信の通知が振動した。見ると、陽子からだった。


 ――[かっちゃん、元気?]


     ――[一応]


 ――[こっちは毎日忙しくて。もうすぐ大学始まるし]


      ――[前期試験は?]


 ――[それは夏休み前に終わった]


      ――[うちと同じか]


 ――[大学によっては夏休み明けのところもあるしね]


 思えば久しぶりの、というかあの関内での出来事以来の陽子からの連絡だ。それが、まるでかつて楽しかったころ、陽子が合宿に行く前のような感じですぐに既読がついてほぼ同時に光の速さで返信が来る。久々の感覚だ。


 ――[試験はなくても毎日ばたばたしてて]


 ――[全然連絡できなくてごめんなさい]


     ――[忙しそうだってことは、この間みっちゃんと電話で聞いた]


 ――[みっちゃんと電話したの?]


      ――[した]


 ――[やだあ]


 ――[ほかの女の子と電話しちゃ]


 「え?」


 翔は思わず声に出して呟いた。そして首をかしげた。

 あのとき急に、そして一方的に陽子の方から恋人から友だちへ宣言された。それに対する返事もまだしていない。


 ――でもこの間、俺たちもう友達だっておまえが一方的に……


 そんなことを翔は入力し始めたけれど、指が止まって送信する前に消した。


 「せっかくいい感じに戻ってるんだ……」


 だから、余計なことは言わないようにした。 


 ――[ごめんなさい。またしばらく会えないかもしれない]


     ――[俺の方も友達二人と三人でバイクで旅に出る]


 ――[え? どこへ?]


     ――[まだきまってないけど]


 ――[いいなあ]

  

 ――[私もまたバイクに乗せて]


 「え? え?」


 翔の頭の中は「?」でいっぱいだった。

 ほんの少し間が開いた。そして返信が来た。


 ――[かっちゃん 会いたい]


     ――[俺も]


 一応そう返したが、頭の中の「?」の数はどんどん多くなる。


 ――[そうそう、十一月にはうちの大学の学祭のけやき祭があるから、来て]


      ――[十一月のいつ?]


 ――[文化の日の頃]


     ――[うちの大学と一緒だよ]


 ――[ええっ?]


     ――[でも俺、サークル入ってないし]


     ――[一年生のとき行ったきりで去年は行ってない」


 ――[じゃあ、こっち来てよ]


     ――[考えとく]


 ――[そんなんじゃやだ]


     ――[まだ先の話だし]


 ――[そっか]


 ――[じゃ また連絡する] 


 ――[おやすみ]


 その文字列の後ろには黄色い丸顔の眠っている絵文字と赤いハートがついていた。

 翔はもう返信せず、スマホを置いた。そしてため息をついた。ベッドに横になり、天井を見つめた。


 「あれ、夢だったんか?」


 また独り言をつぶやいた。関内の喫茶室でのやり取りはすべて夢だったのかと思う。

 だがむしろ、今のLINEのやり取りの方が夢のようにも感じる。

 翔はもう一度陽子のトークルームを開いて、今までのやり取りを反芻した。その文字列は、夢ではない証拠としてしっかりと翔の目に飛び込んできた。

 しかしこの間の美咲との電話の内容を思い出すと、別の現実がのしかかる。

 翔は身を起こし、この日はもう寝ることにした。


 翌日、翔はネットでどこかツーリングによさそうな場所を検索した。行先も決めずにふらりと出かけて、その日の気分で目的地を決めるというのもありだ。だが、今は夏休みが間もなく終わるという状況で時間も限られており、しかもツーリングは単独ではない。

 そのような目的地もない旅は、もう少し大人になってから、ライダーとしても熟練してからにすべきだと感じる。

 しかも今回は、日程定期に一泊二日しか取れない。その縛りで考えると、そう遠くには行けないことになる。そうなると西は箱根、伊豆、北へ行けば信州の諏訪、群馬の草津温泉などあるが、どうもぴんと来なかった。

 そのような感じで地図アプリを見ているうちに、東北の方へ目が留まった。やはりこの日程でいちばん遠くとなると福島止まりだろうと思う。

 福島には猪苗代湖、会津磐梯山などがある。そういえば中学校の修学旅行が、そこの裏磐梯だった。

 もう一度行ってみようかという気になって、翔はすぐに安達とそして比企にもLINEでこの案を伝えた。二人とも賛成だった。

 三人の都合の合う日程を取って、出発は二日後の水曜日となった。お天気アプリの週間予報でも、三日後とその翌日は晴れだった。

 ついでに二人に託されたので、翔は裏磐梯のあたりの宿泊施設を地図アプリで調べて、いちばん安そうなところを三人利用で予約しておいた。

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